ヤジストーカー
イ軍生え抜きで久々に一軍に定着しかけている新鋭赤田。
キャッチャーとしての守備は素人レベルながら、率は低いものの勝負強い左打ちの打撃で頭角を現し始めていた。イ軍では貴重な若手選手とあって、普段はブーイングしかしないイ軍ファンからも、珍しくフツーに応援されていたものである。
だがしかし、イ軍ではお約束とも言えるが、奇天烈なストーカーの如きファンも出現したものである。
年の頃は50代半ばの女ファン、年齢的に相当苦しいキャバ嬢スタイルで、赤田が打てば一人カーニバル状態になるのだが、逆に赤田が凡退する度、烈火のごとくキレまくり、意味不明な事を半狂乱で喚きまくるのであった。
赤田も、新宿スタジアムでのヤジに慣れていないせいか、特に言い返しもせず、かといって黙殺もし切れずといったところで、明らかに困惑していたものである。
これにはイ軍歴が長い草加部がアドバイスの一言、
「おい赤田。あんな基地外婆さんがストーカーのようにお前をヤジってきてるがな、イ軍で一軍に定着する時に皆が通る道なんだよ。あの手の輩が付いたって事は、一人前になったってこった」
しかし赤田の答えは、草加部の想像を越えたものであった。
「いやクサさん。あのババァはその……………俺の母親なんですよ。俺の打つ打たないが生活に直結するもんだから、無駄に必死になっちまってるんです」




