【諸橋編①】生存戦略
“使い勝手の悪い便利屋”
として、ノーパワーながら打率2割2分は計算出来るスイッチヒッティングと、投手含める全守備位置を平均より若干劣る守備力でこなせるユーティリティ性から、弱肉強食の球界を17年間渡り歩いてきたイ軍諸橋。
そんな彼には、試合前に絶対に欠かさないルーティンがあった。
対戦チームの、徹底的な観察である。
過去の選手成績、また直近10試合程度のデータを手に、試合前の表情、練習状況等、あらゆる角度から対戦相手を分析しているのであった。
「試合前からダレまくって漫然と時間を潰しちまってるイ軍選手の中では、諸橋は本当に異色ですね」
「そうだな。ああやって入念に準備しまくってるからこそ、17年も一線でやれてるんだろう。まさしくプロの鑑だよ」
などと、素人マスゴミはコロリと騙されるのであるが、
「うーむ、サ軍は故障者続出で内野守備が手薄だし、打線も右に偏り過ぎてんな。更に外野のレギュラーの内2人は監督と折り合いが悪いと来てる。来年の移籍先候補としちゃあ上出来だ。せいぜい監督の岩下に今から媚を売っとくか…」
実際は、生き残りを掛けた生臭い情報収集なのであった…。




