【マウンドの詐欺師 神崎編⑦】幻惑投法
パリーグから移籍してきた三冠王2度の実績を誇るサ軍主砲片寄が、イ軍本拠地新宿スタジアムに初お目見えである。
その片寄、イ軍のなんちゃってエース神崎と対戦するのは初めてだったが、予想以上の幻惑投球に完全にペースを乱されていた。
一見、全て同じに見える棒直球なのだが、スピード表示に10kmほどのバラつきがあり、体感速度とかなりのズレが生じているのである。その都度、片寄は感覚を修正していくのだが、まるで追いつく事が出来ず、城戸の術中にはまり込んで凡退を繰り返してしまうのであった。
神崎と言えばボールに異物を塗り込んで有り得ない変化を起こすスピッドボールで悪名高いが、それ以外でもこのようなオカルト風の投球まで繰り出してくるとは…。
たった一試合で、片寄の神崎に対する苦手意識は、拭い難いレベルにまで根深くなってしまったのである…。
その夜、神崎は新宿スタジアム設備担当の二見と祝杯を上げたものでる。
「噂には聞いてたが、片寄の野郎がスピード表示ばっか気にしまくるって話が本当だったとはなあ。フタさん、今日は助かったよ」
「三冠王だか何だか知らねえが、俺の嘘スピード表示技術にかかりゃあこんなもんよ。これからは三冠王キラーと呼んでくれや藁」




