【マウンドの詐欺師 神崎編⑥】マウンドに添えられた徒花
オールスター戦の余興であるホームラン競争。
セリーグ打撃投手に、イ軍神崎がボランティアで名乗りを上げたものである。当初予定されていた、出場選手関係者が所用で急遽辞退となった事を受けてのものであった。
そしてオールスター当日。
神崎が投じた一球目は、セリーグ代表であるバ軍の主砲関口のフルスイングで、果たしてピンポン玉のように舞い上がり、スタンド最上段に叩き込まれたのであった。
初っ端から全開の関口に熱狂する観客――更にその熱狂は留まるところを知らなかった。何と、10球全てがスタンドインし、100%のホームラン率で、関口が完勝したのであった。
これにはセリーグベンチで、ファン投票でイ軍からただ一人選ばれていた相原も呆れ顔。
ベンチに引き揚げてくる神崎に向かって、不満を並べ立てたものである。
「神崎さんさあ、いくらこういうイベントだからって、全部ホームランはやられ過ぎだろうよ」
それに対し、神崎は会心の笑みで、こう返したのであった。
「バーロー、さっきのは俺が全部飛ぶボールを仕込んでワザと打たせてやったんだよ。関口の野郎、最後は怪訝な表情してやがっただろ。この10球でかなり打撃を狂わせてやったからな、後半戦の試合が楽しみでしょうがねえや」




