由比川のどかシリーズ外伝 バースデープレゼント
瀬田さん・なーこさん・河野さん主催ロボット小説企画への投稿作品です。
本編の「テスラタワー異聞」で書ききれなかったパー子とのどかのエピソード補間作品になっています。それではどうぞ!
私たち尖兵の役目は『イースの大いなる種族』が精神投影を行う種族を数多の世界から見つけ出し障害があれば排除すること。
特に、邪神が関わった文明との接触が精神交換の対象として好まれるため、そういったところを私たちは見つけ出し、戦って...そして死ぬ。
「あぁ、...身代わりなんて全くらしくない」
黒い雨に打たれながらひとりごちる。
この戦場に着てから、行動を共にしていた相棒『バディ』
そいつが殺られそうになった時、思わず身体が動いてしまった。
ザックリとやられた身体から露出したコアは、修復不可能なまでに砕かれ自壊を始めている。
外部からの情報もうつろになって現実感がない。
眠いな...
多分これが最後の眠り。抵抗はしてみるけど、抗いきれない。
「もう...寝るね。おやすみなさ...い..」
視覚情報のブラックアウト。
バディが空に向けて何かを叫んでいるのが判るが、もう何を言っているのかもわからない。
ぞくりっ
センサの崩壊も感覚の消滅も無視して、その気配はやってきた。
あらゆる矛盾を内包しながら、神々の一角に座するもの。
全ての混沌の王『千の異なる顕現』の気配だ。
・・・やばい・・あいつだ。はやくにげ・・・て・・・
そこで私の意識は途切れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
誰かに掴まれて、投げ出された感覚で覚醒した。
コツン、コロコロコロ.....ぺたっ。
私達の頭脳であり、心であり、そしてボディの種子である『コア』。
どうやら、そのコアだけの状態になっているみたいだ。
相棒の身代わりになってコアを破壊された記憶があるが、ボディをなくす程度で助かったらしい。
全く自分の悪運には呆れるが、この状態では何も出来ない。
まるで、製造され要侵略世界に転送された直後のようにまっさらだ。
とりあえず『投影』を使って動くためのボディを作り始める。
『投影』というのは、物質を構成する素粒子以下の世界でモノを構成している『データ』に干渉し、性質、構造を変化させる能力。早い話が物に対するハッキングだ。
この能力で私たちはコアを破壊されない限り、不死身だし無限に武器も生み出せる。
どうやら私のコアは、何かに取り付いているみたいだ。
取り付いたものを核にして、植物が根をはるようにアクチュエータ、センサー、パワーユニットなどを『投影』しながら身体を構成する。
アクチュエータを通して、にぎにぎと手を動かしてみる。
うん、大丈夫動く。
身体の機能チェックをしながら、目を開くと見知らぬ少女の顔があった。
瞬時に必要な解析を終了する。
データベースに無い新規個体。
『イースの大いなる種族』との精神交換のあとも見受けられない。
状況が把握できないが、ここは要侵略世界のようだ。
「(起動準備カンリョウ。インプリンティングヲカイシシマス)」
OSが自動認識を開始した直後、インプリンティングが始まってしまった。
ちょっ、待ち、それはおかしい。ここは、降伏勧告して『イース』に連絡するところだ。
抗議をする間もなくインプリンティングが終了する。
そして....
「お名前はなんていうのかな~」
猫なで声でそんなことを言い始める自分を止められなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そっか、のどかちゃんのお誕生日だったんだ」
私が取り付いたこのボディは、彼女の7才を祝うバースデープレゼントであったらしい。
そのプレゼントがいきなり動き出したのだから、のどかちゃんも驚いていると思いきや、どうやら私も込みでバースデープレゼントだと思っているらしい。
私にはイースの尖兵としての意識がまだ残っていて、なんとも微妙な心理状態なのだが、インプリンティングの効果が優ってそれを押さえ込んでいる。
とは言え、子供の相手などプログラミングされていない。
どうしたものか....
「お名前はなんていうの?」
何を話したらいいかを迷っていたら、話を振ってもらった。
「え?私?N78...っていうのは認識番号だな。名前はないよ」
うーんと腕組みしてあさっての方向を見たと思ったら、何かを思いついた様にきらきらした目でこちらを見て。
「じゃあポチ!」
「却下。うっ、そんな残念そうな目で見ても....」
うるうるした目を見た途端、「ポチでもいっか」と言う気分になってきた。
恐るべきインプリンティング。
何か適当な名前をつけないととんでもない名前をつけられそうな気がする。
そういえば、この機体には綺麗なパープルの髪がある。
「じゃあさ。パープルって呼んでよ」
うんかっこいい、この名前で行こう。そう心に決めたのだが....
「パー子?」
うーん。子供にはこのセンスは難しかったか....
「...それでいいよ」
「じゃあ、パー子ちゃん。これからお友達だね」
「お友達...(ってなんだろ?)」
こうして私の新しい名前が決まり、新しい生活が始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
暗い場所で目覚めた。
何も判らない..自分が何者かも...
意識を保とうとすると何かの妨害を受ける。
そんな中で、何かの存在を感じた....
「N78...」
常にやってくる妨害の中でも、その存在は消えなかった。
それが何かわからないが、合わなければならない。
細い線をたぐるようにそこに意識を向かわせ『分身』を放った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新しい生活が始まった後しばらくの間は、特にやることもなく部屋でぶらぶらしている。
彼女の私物で触っていいものと悪いものはなんとなくわかってきたので、触っていい方(DVDとかいう記録メディア)を見て過ごしている。
一度、彼女が作っていた二足歩行ロボットの『信長さん』をいじったら、めちゃめちゃ怒られた。どうやら自分の作っているものには、基本的に触られたくないようだ。
私たち戦闘員にとって、作戦開始までとか射撃までの間とか待つということは日常だが、全く緊張の無い待機というのもこれまで経験がなく、実のところチョッと飽きてきた。
「(まぁ、のどかちゃんが戻ってくるまでに戻ればいいだろう)」
そんな言い訳をしながら、窓からこっそりと抜け出してみた。
「(いい風)」
髪を撫でる風を感じながら、屋根伝いに散歩、兼、情報収集を開始する。
これは一種本能のようなもので、隠れやすい場所、開けた場所など等、戦闘に必要な情報を収集するのが、新しい場所に移動した後のルーチンワークだ。
「(もっとも、ここでは必要も無いことなんだろうけどね)」
戦闘要員である私たちは、戦いの気配を察知する能力が高い。
色々な世界に送られる身としては、その世界の情勢を知ることは重要なスキルだ。
そのスキルをフル活用して、この世界に満ちている電磁波情報をくまなく拾ったが、全くきな臭さがない。
生命とか文明というやつは、その進化の段階に於いて闘争を繰り返し進歩すると私は思っているし、多分あっているだろう。
事実これまで私が関わった世界はそうだった。
「(多分、この高エネルギー磁場のおかげかな...)」
視界を調整して磁場を可視化すると、ありとあらゆる場所へ接続し、その場所へエネルギーを供給しているのがわかる。
このエネルギーについては、のどかちゃんが教えてくれた。
なんでもテスラタワーというタワーからこの惑星全体に給電されているらしい。
無論、それ自体は問題ない。そんなテクノロジーを持つ種族はこれまでも多くいた。
只、ここの文明のレベルに対してテクノロジーのレベルが合っていない。
「(何者かの示威によって与えられた技術と、その上に構築された平和...)」
ちょっと調べたほうが良い気もするが、イースの尖兵としての自覚も薄れて来ている私にはどうでもいいことだ。
そろそろのどかちゃんがもとってくる時間で、今日何して遊ぶかの方が私にはよほど重要な問題に思えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
帰ってきたのどかちゃんと公園で行われた"おままごと"というのに参加した。
擬似的な家族関係をシュミレーションしていくという他愛も無い遊びだ。
私はのどかちゃんの連れ子の役で、ある日突然現れた夫愛人"どろぼうねこ"を一緒に撃退するという設定だった。
途中から、私は実は大金持ちの隠し子だったという設定が追加され、遺産をめぐる殺人事件をのどかちゃんが解決していくというスペクタクルに溢れた物語が展開された。
ここの時空では、"ひるどら"と呼ばれているらしい。
「結局私はどうなったの?」
繰り広げられた重い会話と設定のハードさにへきへきした私が主に聞く。
「それは明日のお楽しみ」
まだ続くんかい。
そんなたわいもない会話に水を刺すように、あたりの雰囲気にここでは馴染みのない気配がまざる。私にとっては懐かしい気配、狂気だ。
「だれ?」
私の声に誘われるように浮き上がる暗い霧の様な存在。
物質とは言えない...とはいえ霊体とも異なる、ただの濃い気配。
高位の邪神クラスがまとっている気配に近いが、そこまでのプレッシャーも感じない。
それならば対抗手段もある。
左右の腕に剣を投影する。
剣といっても只の剣ではない。数多の世界にその勇名をとどろかせた霊刀....のレプリカだ。
レプリカといっても性能は折り紙つき。邪神の眷属辺りはこれでバッサリだ。
「...N78...」
「なっ」
いきなり認識番号を呼ばれて、動きが止まったところを掴みかかられる。
咄嗟に避けて剣尖を一閃。
何の抵抗も無く剣はヤツを両断、消滅...させたかに見えたが、映像を巻き戻すようにそれは再構築された。
まるで切られたことを認識していないかのように、その動作にも一切の途切れがない。
更に数体切り払っても同じだった。
放っておいて逃げてしまう手もあるが、逃げ切れるとも限らない。
戦闘用OSが戦闘結果を分析、『イース』のデータベースにある数多戦闘データから似た案件を検索する。
95%以上の確度ではじき出されたのが、この霧は本体にとって致命度の低い末端部であり、この攻撃も実はただの触診。
切られても態度を変えないのは、こちらに興味が無いのか狂っているだけなのかだ。
つまりは、髪の毛並みに切られてもかまわない器官を伸ばしている狂った怪物が相手。
そんな相手だから私の攻撃に全く痛痒を感じていないのだろう。
戦闘用OSが即座に対抗策をはじき出す。
両手の件を消して、近くに落ちていた手頃な石を拾い上げ、表面に『力場』を展開する。
『力場』の制御は得意ではなく、バディに任せていたがここは文句を言っても仕方ない。
不格好ながら石の表面に安定化させ即席の石器ナイフを完成する。
「じゃあ、ここからは私のターンだよ」
高らかに宣言して、虐殺を開始した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
奴らが消えるまで、どれぐらい掛かったろうか?
20体辺りまでは数えていたが、後は面倒になって来て数えるのをやめてしまった。
私がとった作戦は、ワザと切れない武器で攻撃して、相手の痛感を煽ってやったということ。
髪の毛を切れるハサミで綺麗に切っていれば本体にはダメージが少ないが、切れないハサミでぐしゃぐしゃやられれば流石に本体も痛い。
思いつきの作戦だったけど、うまくいったみたいだ。
のどかと目が合う。目に涙が浮かんでる。チョッと子供には刺激が強すぎたかな。
とりあえず貴方を守るため...というのも嘘っぽいなぁ。
私、途中から楽しんでたし....
「のどかちゃん...」
伸ばした手にビクッっとされてちょっと落ち込む。
嫌われたかな。
不意に、のどかちゃんに手を掴まれて、まじまじと見つめられる。
「...手痛くない?」
掴まれた手を通してかすかに震えが伝わってくる。
インプリンティングされたのとは別の感情が湧き上がってくる。
これは、何? 怒り?違う。 後悔?違う。 憎しみ?とんでもない。
わけがわからない感情に苛まれながら、のどかに抱きついた。
「パー子ちゃん。悲しいの?」
悲しい?これが悲しいってことなのかな。
自然と湧き上がってくる嗚咽をそのままに私はしばらくそのままでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日の深夜、のどかちゃんが寝ていることを確認して、窓から抜け出す。
目的は、今日の襲撃者の正体を探ることだ。
奴らは私の認識番号を知っていた。
ということは、どうやら知り合いらしい。
私たち尖兵同士の仲間意識は極薄で、お互いに足の引っ張り合いということも時にはある。
しかし、今の自分を振り返るととても足を引っ張ってもらえる様な状態でもない。
...いや。
私はあえて大きな可能性から目を背けようとしている。
私の一番近くにいたイースの尖兵「バディ」。
私がこの世界に流れ着いてた事を考えると、近くにいても不思議ではない。
しかし、なぜ私を襲う?
ごちゃごちゃと頭が混乱し始めた頃、路地裏で目をつけてあった放置自動車の前に到着する。
ちょうど死角になっているので改造しているところを見られずに済む。
「(投影)」
外装に手をついて内部構造を解析、それにデータを上書きする。
今回は探索がメインなので索敵機能とスティルスに重点を置いて改造する。
もちろん探索範囲を広げるために飛翔機能もつけておく。
「まぁ、こんなもんか」
外観はこっちの世界で見たヒーロー物の車に近い。何とか言う黒い羽とマスクのヤツだ。
久々の改造に悦に入っていると後ろから声をかけられる。
「ぱー子ちゃん。これ何?」
「げっ、のどかちゃん」
改造に夢中になって、のどかちゃんが近づいているのに気づかなかった。
「えっと、これはね..あのね...」
流れないはずの汗が額を流れているのが判る。
「...言わなくても判るよ」
やばい、いきなりばれたか。
「パー子ちゃんは正義の味方だったんだねっ」
へっ?
「証拠はこの車。正義のこうもりさんが乗っている奴だよね」
貴方から借りたDVDを参考にしたのよ...とも言えず、ここは話を合わせる。
「じ、実はそうなんだ。のどかちゃんの部屋に居候しているドールとは昼間の姿、夜な夜なスペシャルカーに乗って悪を懲らしめる正義の味方が私なのさ」
うっ、そんなキラキラした目で見ないで...
「そっ、それじゃあ私はこれから悪を懲らしめに...てなんで乗ってるの?」
誤魔化しながら後ろ手にドアを閉めたはずなのに、なぜか助手席に乗っているのどかちゃん。
「ねぇ、本当に危ないから。ちゃんとお留守番していて」
キラキラした目で見つめられて、思わず許してしまいそうになるところをグッと我慢して降りるように説得する。
ちょっと目線を空していた主は、何か思いついた様にこちらを向き直った。
「のどか怖いの。またあんなのに襲われたらと思うと...パー子ちゃんと一緒にいたいよ」
ウルウルした目で見つめられて、私はあっけなく陥落した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
高エネルギー磁場をたどってきたら、大きなタワーの前についた。
「ここ知ってる。テスラタワーって言ってここから電気が来てるんだよ」
ふーん。とか言いながらセンシングを開始する。
原子力...ちがう。対消滅...でもなし。もちろん風力、太陽光でもない。
結論から言うと、ここからでは何もわからないということだ。
「ちょっと降りて調べてくるからのどかちゃんはココに居て....って何で降りてるの!」
テトテトと可愛らしくタワーの中に入っていく主の後を慌てて追う。
いきなり背中を這う最悪な予感。
歩いていたのどかちゃんを中心に時間が固定される。
途端に現れる巨大なプレッシャー。正直時間が止まっていて助かった。
こんなプレッシャを一瞬でも浴びたら人は正気ではいられないだろう。
深淵なる漆黒、灼熱の煉獄、悠久なる凍土等などを内在し矛盾しながら存在するもの。
『千の異なる顕現』がそこにいた。
流石にうかつに手が出せない。
このプレッシャーは身じろぎするだけでもしんどい。
でも、言うべきことは言わないと
「ちょっとあんた。なんでアンタ程の邪神がこんなチンケなところにいるわけ?」
...ちょっと言い方を間違えたかもしれない。
邪神はこちらに気づいた様子で、形を変えながら振り向いた。
こちらを向いた時には、私と同じぐらいの大きさの銀髪の人型をとっている。
ふっと消えるプレッシャー。
動き出す時間。
「なんか威勢のいいのが来たと思えば貴方ですか。新しい主殿もお初にお目にかかります」
慇懃無礼な挨拶だが口元が嘲笑の形になっている。
のどかを後ろに守りながら、やつと向き合う。
「何でこんなところに居る。何をしている。何をしっている?」
矢継ぎ早の質問に、辟易したかの様に答える。
「いきなりの質問は感心しませんね。『ぐぐれかす』とか書き込まれても知りませんよ?まぁいいでしょう、私は心が広い方ですし、あまり長いことここに居ると、この辺りへの影響が大きくなってしまいますからね」
ピシッ、ビシッと周囲の空間が少しずつ砕けていくのがわかる。
あまりに重いものを乗せたガラスの様だ。
「私が貴方をその子のところに送ったんですよ」
のんきな口ぶりでとんでもないことを言い始める『千の異なる顕現』
「ここ気に入っていて、いろいろイベントを仕込んでいるんですよ。でね、今回の件もその一つなんです。でも、もう少し後で発生するはずのイベントが急に発生してしまって....バグってヤツですか?」
邪神が指先で何もない空間をなぞると空間にポッカリと穴があく。
「で、デバックしたいんですが、貴方ちょっと手伝ってくれません?」
じわっと浮かび上がるように現れる黒い霧。
「これってあなたの相棒さんの思念が変質して出てくるんですけど、私が手を出すと彼だけじゃなく下手するとこの星ごと潰してしまいそうで...私としては彼には穏便に寝ていて欲しいんですが儘ならないものです」
やつが手に現れる黒い剣。
「この剣は切ったものの意識を刈り取ることができます。これを使えば貴方でもこの件を収集できるでしょう」
「で、無料じゃないんでしょ」
「察しが良くて助かります。いやね、今イベントを回避したとしても、貴方の存在がフラグになっているらしいんで、すぐにイベントが発生しそうなんですよ。原因である貴方を何とかしなければだめですよね」
私を真っ直ぐみてにやっと笑う『千の異なる顕現』
「なに、命まではとりませんよ。あなたも大切なおもちゃです。貴方も彼と一緒に封印させてもらえば万事解決!封印中の待遇は保証しますし、なんなら有給休暇もつけちゃいます」
人をおもちゃ扱いするのは気に入らないが、コレはそうゆうモノだ。気にはしない。
「それを受ければ、のどかに危害はないと?」
「まぁ、そういうことです。もちろんこの件を受けなくっても良いですが、さっきも言ったように、私、ちまちまと力を使うってことが苦手で、直すつもりがこの惑星ごと握りつぶしてしまう可能性が大なんですよ」
脅しではない。ちょっとした悪い癖について反省しながら話している気楽さ。
事実だろう。だから邪神。
「....わかった。その当たりで手を打ってあげる。もしこの子に何かあったら、封印なんて破ってあんたをくびり殺しに来るわよ」
呆けたような表情ののどかの方を見て別れの挨拶をする。
「のどか、あなた私のことを忘れちゃうかもしれないけど。私は忘れないよ」
いきなりの別れの言葉に、驚いたあと目に涙が浮かぶのが見える。
私は泣けないけど、気持ちは共有できている。
「ピンチになったら必ず私を呼びなさい。どこにいても必ず駆けつけるから」
「・・・本当に?」
のどかの涙を拭いてやりながら答える。
「ホント、ホント。世界のどこからでもパー子さんは駆けつけちゃうよ。だから笑って」
そうだよ。笑って見送って欲しい。
一緒にいることはできなくなるけど、私はずっとあなたを見守ってるから...
必ず守ってあげるから、だから今はさよなら。
「じゃあ。行こうか」
空間にぽっかり空いた穴に向かって歩く短い間に考える。
「(どう考えてもイースの尖兵としてはここは撤退)」
空間の穴の前に到着する。
「(インプリンティングに従えば、のどかを連れて逃げる)」
穴の端っこに手をかけ、体を持ち上げる。
「(でも何で、私は一人であそこに行くんだろ)」
恐怖も焦りもなく少しの胸の痛みを感じながら思い出した答えは...
『じゃあ、パー子ちゃん。これからお友達だね』
「(そっか、お友達だからか...)」
なんて単純で誤魔化しようの無い理由なんだろう。
今は狂ってしまっているらしいが、『バディ』も大事な友達。
もちろん、のどかちゃんも。
のどかちゃんのバースデイプレゼントだった筈だが、知らないあいだに大切なものをもらったらしい。
「じゃあ、またね」
一度振り返ってのどかに手を振った後、空間の穴に飛び込んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「由比川のどかシリーズ外伝 バースデープレゼント」FIN
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そして「技術系研究員 由比川のどかの日常 テスラタワー異聞」へ
なぜパー子がのどかに執心しているのかをどこかで書かなければと思っていたところ、この企画のお話があり是非書かなければと考え頑張ってみました。
ただ、私の小説は下敷きがあり、それを弄って書いているのですが今回に限りそれがありません。
あえて言うならば「人造人間キカイダー」(年バレ)でしょうか?空だったパー子の心に何かが埋まっていく感じを出したかったのですが、文章力が...修業が必要ですね。
短編はじめて書いたので構成だけでも中々難しかったです。読んで少しでも楽しんでいただければ幸いです。