瀬戸際の3秒
殺人者「さて、チェックメイトだ。言い残すことはあるかい?」
被害者「……」
殺人者「ふん、特にないかね。では3秒だけ待ってやろう。お祈りでもしておくといい」
被害者「……」
殺人者「あぁ、キミは無神論者だったね、ならば覚悟を決めておけ、とでも言い換えようか?どのみち、キミが死ぬことには変わりないからどちらでも構わないんだけどね。思えばここまで長かった……。こうしてキミを追いつめて憎悪に満ちた視線で睨まれながら銃口を突きつける瞬間を何度空想したか分からんよ。何度か夢にまで見たものだ。出会った時にはキミを殺すことになるとは思いもしなかったがね。数奇な運命もあったものだ。ところでキミは僕と出会った時のことを覚えているかい?あれは忘れもしない、165日前の午前0時過ぎ。場末の酒場で僕達は顔を合わせたのだよ。その時の僕らは会って間もないというのに意気投合して飲み明かしたね。何を話したかまでは覚えていないが、実に実りある時間だったよ。まあこうして銃を向けている今、その時間がもたらしたものは多大なる負債だったと言わざるを得ないがね。勘違いしないでほしいが、僕は決してキミを恨んでいるわけじゃない。これも仕事でね、因果なもんさ。商売柄、知人がターゲットになり得ないように人付き合いは慎重を期してきたつもりだったが、はっは、油断したものだね。ま、それでもキミはこの僕から逃れ続けてきたわけだから、僕のプライドをへし折るに十分なことをしてくれた。知人、いや友人と言っても過言ではないが、そんなキミを殺すことにいささかの躊躇もないよ。キミは知らないだろうが、これでも僕は一度たりともミッションを完遂できなかったことはない。遡れば(中略)というわけさ。少し喋りすぎてしまったね。では、そろそろカウントダウンといこうかい」
被害者「なげぇよ」