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第一章 「Funny days ~もうすぐ夏休み~」

続き物ということで、前作を飛ばして読む方のために、ほんの少しだけ補足説明させていただきます。・・・といっても読んでいけばわかると思いますが・・・

主人公の翔と幼なじみの葉月は二年生で同じクラス。

翔の実妹、奏は一年生。葉月の実兄、征一は三年生です。

ストーリーは前作フリージアの続き、奏が入学した年の七月からです。

――――夢。


懐かしい夢。


私達がまだ小さかった頃


お兄様と翔君が大喧嘩をしている夢。


奏は、そんな二人を必死に止めようとしている。


喧嘩は徐々にエスカレートしていき・・・


それは仕舞いには、奏にまで飛び火するようになった。


そして、本気で奏が泣き出したら、二人とも我に返ったように喧嘩をやめ、奏を慰めていた。


――――夢はそこで終わり。


(あれ・・・・?)


(私はその時・・・二人が喧嘩をしていた時、何をしていたのでしょうか・・・)


一夜の小さな夢の中に生じた微かな綻びを、私が朝まで覚えているはずもなく・・・


そして、朝が訪れた。





(・・・お、重い)

俺はうなされていた。金縛りにあったかのように、身体が動かない。

この、俺の上に鎮座してる物体は、奴にちがいない!!


① 我が愛妹『柚原奏ゆずはらかなで

② 可愛い幼なじみ『姫宮葉月ひめみやはづき

③ みんなの兄貴的存在?『姫宮征一ひめみやせいいち


(なんか微妙に説明の入った選択肢だな・・・ギャルゲ(全年齢推奨版)でも、普通は名前だけなのに・・・えっ? 第一章だから仕方ない? ちょっと何の話ですか、てかあんた誰!?)


思わず突っ込んでしまった。話を元に戻そう。


(とりあえず、征は除外っと)

男を選ぶのはただのアホだ。

そうなると、奏か葉月だが・・・


「・・・葉月」

俺は無意識に幼なじみを選んでいた。

特に理由はない、はず。

俺は正解を確かめるため、渋々目をあけた。

「くぅー・・・すぅー・・・」

どうやら正解のようだ。

俺の上で、葉月は可愛らしい寝息をたてている。

「何でこいつ、俺の部屋にいるんだ?」

思考が朦朧とする中、葉月の長い髪を撫でながら考える。

「あ、そうだった。俺は昨晩、葉月と激しくも・・・」

ガッ!

「痛っ!」

突然の衝撃に頭を抑えた。

「目、覚めた? お兄ちゃん」

「か、奏・・・おたまは痛いって! せめて手で叩いてくれ」

「何か意識が朦朧としてて、いけないお兄ちゃんになってたから」

はて、俺は何を口走っていたのだろうか・・・・・・ダメだ、まるで思い出せない。

「もう、お姉ちゃんってば。お兄ちゃん起こしに行くって言うから任せてみたら・・・ミイラ取りがミイラになってどうするのよ」

奏はため息を零しながら「ちゃんと起こして来てね」と言って、朝食の準備に戻っていった。



彼女が選択肢①に出てきた我が妹『柚原奏ゆずはらかなで』である。

ツインテールに似た結びに束ねたその長い茶色の髪は、元気で明るい印象を周囲に与えている。

数ヶ月前、俺達の間でいろいろとすれ違いがあったが、今はもうすっかり、仲良し無二の兄妹に戻っている。



「・・・さてと」

未だに俺の上で眠っている幼なじみに視線を戻す。

(こんだけ無防備な姿を見てると、悪戯心がふつふつと沸いてくるから不思議だよな)

俺は葉月の両頬をつまんで、引っ張ってみる。

「ん~、ぅ・・う~ん・・・」

(おー、伸びる伸びる。男と違ってよく伸びるなー。もちもちしてて、何か気持ちいい)

ぐいー。

「うーん・・・痛いです~」

さらに引っ張ると、さすがに起きたようだ。

「俺を起こしにきたお前が俺の上で寝ていた理由を三字以内で述べよ」

「・・・・・・安眠枕」

確かに国語の解答ならきっちり三字だ。・・・って

「何で俺がお前の安眠枕なんだよ!?」

「いいじゃないですか。それより、寝ている女の子の頬を引っ張るなんて、私たちは恋人か何かですか?」

「いや違うから」

「即答でそう返されると、女の子的には結構傷つくのですけれど・・・」

不服そうに葉月は言いつつ、俺の上から降りた。



長く綺麗なベージュ色の髪をふわっとなびかせて、俺の前に飛び降りた少女は『姫宮葉月ひめみやはづき

さっきも言った通り、俺と奏の幼なじみだ。

口調は常に丁寧語。本人曰く、「小さい頃からの癖」らしい。家が旧家だからいろいろあったのだろう。

基本的に雰囲気が柔らかな少女なので、話す人も落ち着いた気分で話せる。奏とは違った意味合いで人気なのである。



「ほら、奏が朝飯作ってるから、降りようぜ。どうせ今日は飯食ってないんだろ?」

「さすが、伊達に長年幼なじみしてませんね、正解です」

「征はもう学園に行ったのか?」

征というのは、葉月の実兄で俺達幼なじみの兄貴分『姫宮征一ひめみやせいいち』のことである。

「いえ。たぶんお兄様は、リビングでコーヒーを飲みながら新聞を読んでると思いますよ」

(他人ん家でどんだけくつろいでんだよ、アイツは・・・)



「おう、やっと起きたか」

葉月の言うとおり、征はコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

奏も征の隣から覗き込むようにして「ふむふむ・・・」と読んでいる。・・・ホントに判ってんのか?

「あ、起きたんだね。それじゃあご飯にしよー」

奏は俺達が降りてきたのに気づくと、ご飯の準備をしにキッチンに向かった。

「しかし、まるで自分の家のように寛いでるな」

「似たようなもんだろ?」

何を今更、といった調子でそう言い切る征。



そう、俺達四人にとっては、これが当たり前なんだ。幼少の頃からの幼なじみ、互いに両親が近くにいないこともあり、第二の家族とも言える存在なのだ。

だから、家の境界線なんてあってないようなものなのである。


それから俺達は奏の作った朝食を食べ終え、いつものように和気藹々と学園へと向かった。




2-2教室。

俺と葉月は似たような体勢で机に突っ伏していた・・・というのも、

「何か、毎週恒例になってませんか・・・朝のランニング」

葉月が息を整えながら話し掛けてくる。

「ホントだな・・・しかも、奏は息すら乱してなかったんだぜ? おかしいだろ・・・」

そう返した俺もかなり息切れしていた。

「何だ何だーお前ら、休みを目前にして死にそうな顔してー、しゃきっとしろよ!」

あー、妙なテンションの奴が来た。俺達の・・・恐らく世間一般でいう親友に値しそうな人物、双見龍二ふたみりゅうじだ。

「私達は野菜じゃなっ、ゴホッゴホッ! ・・・はぁはぁ、ないんですから」

葉月がいつものように軽口を叩こうとしていたが、酸素がまだ足りないのだろう。うまく言葉になっていなかった。

「・・・辛うじて聞き取ったので返すが、何か伝わりにくいぞ、その表現は」

龍二が呆れたように返す。


しばらくして、息が整ったところで我等が担任、畑中千夜子はたなかちよこ先生が入ってきた。

「はーい、HRはじめるよー。席着いてー!」

『はーい!!』

・・・ここは小学校か・・・

「明日から夏休みです。だからといって、ハメを外しすぎないように気をつけなさいね」

『はーい!!』

「だからいつからここは小学生の集まりになったんだよ!?」

「よし、それじゃあ終業式が始まるから、体育館へ行きましょう」

『はーい!!』

・・・もういいや、どうでも



その後、終業式は滞りなく終わり・・・



放課後。

俺と葉月、龍二がやることもなく教室で雑談をしていると、後ろのドアがスーッと開いた。

そこには、意気消沈といった表情でこっちを見ている奏の姿があった。

「うぉ、どうした奏。暗い顔して」

奏はそれに答えず、俺達の前までとぼとぼやってくると、抑揚のない声で呟いた。



「夏休み、無くなっちゃった・・・」





「はは、そりゃ災難だったな」

夜、四人で食事をしてるときに、放課後の話を征にすると、苦笑しながらそう言った。

「災難過ぎるよ! たかだか二週間休んだだけなのにー」

奏は未だに不満を撒き散らしていた。

「でも、一週間だけなんだから、良かったほうじゃないか」

「そうですよ。奏の成績から考えれば、二週間は取られたって不思議じゃないんですから」

「うっ、そりゃあそうなんだけどさー」

そう。奏はあんまり成績が良くないのである。一生懸命やって、やっと人並みのレベルってとこだ。

・・・だけど一学期からそんな調子で大丈夫なのだろうか・・・心配だ。

「そうだ奏、ちょうど俺も出なきゃいけないから、何なら一緒に行くか?」

「え、ホント? 良かったー、仲間がいたよ!!」

「言っとくが、俺は補習じゃなく生徒会だからな」

やっぱり生徒会長ともなると、いろいろと忙しいようだ。

「そんなこと、どうでもいいよ。一人で行くのはつまんなかったから丁度よかったよ」

「・・・やれやれ」

征はため息混じりに呟いていた。

「奏は補習、お兄様は生徒会。ということは・・・」

何やら向かいの席で、葉月が考え事をしていた。

「ん、どした?」

「一週間、翔君とずっと二人きりですね」

「ん、まぁそうなるな。用事がなければ」

「そしたら翔君と・・・ふふ」

「?」

何か笑い出したぞ・・・

「ダ、ダメーーー!」

「うぉあ! ビックリした。何だよ奏?」

突然隣にいた奏が大声をあげた。

「お姉ちゃん! お兄ちゃんに変なことしちゃ、ダメだからね!!」

「あら奏、変なことって何ですか?」

「そ、それは・・・その・・・・・・うぅ」

・・・何を想像したかはわからんが、からかわれてることに気づかずに顔を朱く染めて恥ずかしがってる姿は相変わらず可愛いな、我が妹ながら。


そうしてこの葉月と奏のやりとりは、小半時ほど続いた。

その間、俺と征は、それをBGMにゆったりとした食事を続けたのであった。



(明日から夏休みかあー)

ぼんやりと考えていた俺の脳裏に、先程の葉月の言葉がふと浮かんできた。

「一週間、翔君とずっと二人きりですね」

あの言葉は、どういう意味だったのだろう・・・

(まあ葉月のことだから、別に深い意味はないのだろうけど)

そう思いつつも、どこかで何か期待している自分に、この時の俺は気づいていなかった。

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