序章 「Another Fragment」
どうも、STARLIGHTです。
今回のFloral Hearts(通称:フロハ)の世界は、私の書いた前作「純白のフリージア」の第五章からのアナザーストーリーとなっています。
もちろん、こちらから読んでもストーリーはわかりますが、多少、略している部分もあったりしますので、前作をご覧になってから読むのをオススメします。
それでは、「Floral Hearts ~鏡の中の竜胆~」をお楽しみください。
「奏。今まで辛い思い、苦しい思いをさせてごめんな。・・・でも俺は、また奏を傷つけるかもしれない。だけど、この場で嘘を言っても、何にもならないから・・・・・・ごめん。俺は、奏の想いに答えられない」
「・・・うん」
「けど! ・・・けどな、奏。俺達は、この世でたった二人の兄妹だ。もし俺が、他の人と付き合うことになったって、お前が俺の中で大切な存在なのは決して変わらない。だから、お前は独りじゃない。お前は・・・奏は、俺のたった一人だけの最高の妹で、俺達は家族なんだから!!」
「お兄ちゃんっ・・」
奏は俺の胸に顔を埋めて必死に泣くのを堪えている。
・・・これは、奏を振った俺が言う台詞じゃないのかもしれない。だけど、兄として、これからも奏の支えになりたいという心に一切の偽りもない。
「これからも、俺がいる。葉月に征もいる。だから、もう一人で我慢するな」
「・・・う、うぁ、うあぁぁぁぁぁん!!!」
瞬間、我慢が解かれ、奏は大声をあげて泣いた。俺も奏が泣き止むまで、ずっと抱きしめていた。
泣きつかれて力の入らない奏を背負って、俺達は足どり重く帰り道を歩いていた。
『・・・・・・』
四人とも口を開かない。というより、口に出す言葉が見当たらないといった方が正しい。
そんな重い空気のまま、俺達はいつのまにか家の前まで帰ってきていた。
俺達は足を止める。だけど、誰も動こうとしない。話さない。
・・・最初に行動をとったのは、意外にも奏だった。
「今日は、ごめんね。それと、ありがとう、みんな」
奏は俺の背中から降りると、俺達に笑顔を向けた。だけどその笑顔は、涙のせいで歪んでいることに俺達も、そして奏自身も気づいていた。
「明日・・・明日起きたら、またいつも通り、お兄ちゃんの妹に戻ってるから!」
奏はそんな顔のまま、俺達に宣言した。
「奏・・ごめ・・・っ!?」
一瞬、何が起こったのか、理解できなかった。
奏がほんの、ほんの一瞬だけ唇を重ねてきたんだと気づいたのは、そのすぐ後だった。
「奏?」
「これが、ホントに最後のキス、だから・・・許してね」
奏はそのまま家へと入っていった。
翌朝。
「おはよう、お兄ちゃん!」
「ん、ふぁー・・・・か、なで?」
眠たい目を無理矢理開けると、そこには腰に手をあてて俺を見ている奏がいた。
「もう朝だよ。もう、お兄ちゃんが寝坊なんて珍しいよね。・・・まぁ、そのおかげでお兄ちゃんの寝顔をたっぷり鑑賞できたけどねー」
「な、な、なっ!」
「ほら、早く起きて。食べる時間無くなっちゃうよー」
そう軽快に言って、部屋から出ようとして、ふと手前で奏は立ち止まった。
「・・・奏?」
「・・・・・・お兄ちゃん、ありがとね」
「えっ? 何んだよ唐突に」
「ううん、気にしないで。・・・私自身のケジメみたいなものだから」
「・・・そっか」
「・・・さあ、朝ごはん食べよう!」
やがて奏は、笑顔で俺の腕を引っ張ってきた。
「今日の献立は『奏スペシャル』だよ!」
「安直なネーミングなのに何一つとしてメニューが判らないんだけど!?」
「ええー、・・・じゃあゴールデン付けるよ」
「付けたとしても、やっぱりメニューがわかんないよ!!」
「おはよう葉ちゃん、征ちゃん」
「お、おはよう。奏」
「おう、今日はちっとばかし遅かったな」
「そうなんだよー。お兄ちゃんが珍しく寝坊したから遅くなっちゃった」
「・・・悪かったな」
「でもどうします? 確かに遅れはしましたが、まだ走らなければいけないというわけでも・・・」
「走るよ!」
『はいっ?』
「負けた人はジュース全員分ね! よーい、どん!!」
『速いよ!?』
「あ、奏! 元気になったの?」
「うん。もう完全回復だよ! 心配かけてごめんね」
「本当だよ。あんまり無理しちゃダメだよ!」
「はーい、気をつけまーす」
7月に入って、奏は学校に復帰し、俺達は少しずつだけど、普通の仲の良い兄妹に戻っていった。
あの日以来、奏は困ったことがあったら、俺達によく相談するようになった。今までどこかでセーブしていたものが解けたのだろう。
それは、いい変化だと思う。
そして、昔ほど甘えなくなった。ちょっと寂しいけど、それも仕方ないことだと理解している。
一学期もあと残り数日。俺たちは、夏休みの始まりを心待ちにしていた――――