✣ 6話 淑女の小さな企み
あースッキリした!
満足した私はハサミを持ったまま、悪趣味のベッドへ倒れ込んだ。
床にはあちらこちらに髪が散らばっているのを無視して。
ぐふっ。
あのふたりの恐怖に怯え切った顔を思い出す。
「これで、もう悪さは出来ないはずよ」
天幕が、ふわりと揺れた。
「あの……王女さ、ま?」
あ、そうだ!
震える子ヤギちゃんの存在、すっかり忘れてた。
ガバッと上体を起こすと、シーネちゃんはブルッと肩を震わせた。
「あの……お掃除、しても……?」
チラッと見ては目を逸らすを繰り返すシーネちゃん。
シーネちゃんには
危害を与えるつもりないんだけど。
まあ、あんなに暴れた後だしね。
ここはお言葉に甘えよう!
「お願い、出来るかしら?」
ニコッとスマイル&首傾げスタイル!!
「ひっ、……あっ、すみません。では、始めます、ね」
すんごく怖がられてるンですけど……
あそこまで怯えられると、私も凹むよ?
あ、これか。
右手に掴んでいたハサミに目を向ける。
ギシッ。
「ひっ!!」
あ、すみません。
ベッドから降りただけです……
テーブルにハサミを置く。
これじゃ、シーネちゃんの邪魔になるよね。
こめかみを掻く。
触れた指先に絡む髪が、ベタついた。
そういえば、お風呂入ってないじゃない。
クンクンと身体の匂いを嗅ぐ。
ツーンと酸っぱい感じ。
あの女の所業を思い出す。
後頭部に触れる……
なんか、
──────粘ついてるやーん!?
あの女の口角が上がった気がした。
イヤだ!!乙女としてヤダっ!!
ガタガタと玉座風の椅子が揺れた。
シーネちゃんに寄り、彼女の腕をガッシッと掴む。
子ヤギの瞳の堰が今にも決壊しそうです!
「お風呂どこ!?」
「イギィッ───!あっぢ、でつぅ……」
あ、本当にごめん。
でも、これは死活問題だから!!
腰の砕けた子ヤギを放置し、お風呂へ脇目も振らず突っ走った。
✣✣✣✣
「極楽ぅ……」
お湯が気持ちいい。
ツーンとした香りが消え、髪もさっぱりした。
粘着きさんも、もちろん消えたわ!
ふつふつと……収まった怒りが湧き出てくる。
湯船の縁を憎しみを込めて握り締めた。
あの女っ!アイツだけは許さんっ!!
身体を沈め、天井を仰いだ。
湯気が上へと登っていく。
「……なんか、色々とあり過ぎて先行き不安すぎっ……私、どうしたらいいの……」
そのまま、肩までお湯に浸かろうとした瞬間だった。
『あの男には近付いちゃダメ!』
バシャ。
湯船からお湯が波を立てる。
へ?
何、今の?
急いで見回す。
だが、人の姿は見えない。
「……空耳か。やっぱり、私疲れてるんだ」
ほっとひと息。
また湯船に沈みこもうとした途端─────
『あの男は危険なの!絶対、捕まらないで!』
うそ……
これって、オバケじゃない?
ビクッ。
お湯が温かいはずなのに、急に冷えを感じた。
まさか。
後ろに誰か、いる……?
喉を鳴らす。
意を決して後ろを────
『安心して、オバケじゃないわ』
いやああああ!
デタ───────、……あん?
『だから、オバケじゃないって』
へ?
『とにかく、絶対に。絶対に……』
「あの、───ちょっと?!」
バシャン。
お湯が滴り、水面を叩く。
いくら見渡しても誰もそこにはいなかった。
「………幻聴?」
額を抑える。
心の声まで聞こえるようになっちゃったのね。
この先の未来で確実に
心臓と首を奪る天敵がこの王宮内にいるんだもの。
心労が溜まるのも頷ける。
だったら、どうにかして、
決められた運命を変えてやろうじゃないの!
手っ取り早くこの王宮から出ちゃえば良いのよ。
とりあえず、私が聞いた話をまとめます。
皆さん、メモのご用意を。
カミラやマリアン(バナナ娘)の話の内容だと忘れられた王女。
しかも、この塔に幽閉。
兄であるカーディアスとの対面もあの日が初めて。
ポンっ!
なら、私。
消えちゃっても良いのでは?
王宮での存在感が全くないよね。
居なくなった方がむしろ助かる的な?
ちょっと、プロローグの流れを思い出しとこか。
私の記憶力っ、カモンっ!
単語 : 王子の結末
…
……
…………
カーディアスの死後、程なくして国王崩御。
それに伴い、第一王子と第三王子との王位争い勃発した。争いの結末は、───共倒れ。
そこに白羽の矢が立ったのが、王女 エスティア。
この日、王女は王位を継承し、女王となったのだ。
《聖女のナミダ》抜粋
で、物語のラストは────
ザシュッからのスパァーンなわけ。
だから、逃げちゃおう。
カーディアスのことは胸痛だけど……
私がいなくなったら、何かが変わるかもじゃない?
それに賭けましょう!
決めた!
私、脱獄……じゃなかった。
原作から離脱します!
そうと決まれば─────
「実行あるのみ!!」
拳を天井に掲げた。
ふぁさ。
あっ、…………そこにいたのね。
──────シーネちゃん。
タオルありがと。
恥ずかしっ。




