✣ 5話 淑女にハサミは似合いません
戦場?のようなお茶会から無事に、
私はあの臭いお部屋に帰ってきたワケなんですが……
───バタン。
どうやら、お部屋を間違えたみたい。
私ったらおドジさん。←え?
だって、私がいたお部屋の扉は
あの天敵さんが、蹴り飛ばしてた
(オイ!壊すなっ)
殺風景な廊下をキョロキョロ見渡す。
あのー、扉の無い部屋がありません。
むしろ、ここしか、それらしき部屋がない。
廊下には誰もいないし、気配もないよ。
私って一応王女さま、だよね?
こんなパジャマ&素足で放置って
よく考えると変だよね?
うん、おかしい……。
だけど、今はとにかく、身体を休めたい。
慣れないことの連続で私のHPはもう赤ゲージなの。
速くベッドには身を投じたい!
あの臭さかった枕が恋しく感じる。
私は今一度、目の前の扉のドアノブに両手を掛けた。
こっそり、顔が入るくらい開けて中を覗き込む。
開けた途端に鼻をくすぐる香るフローラル。
部屋に漂っていたあの腐ったような匂いは全く消えてますよ!皆さん!
それよりも、私はかなりド肝を抜かれております。
この光景を前にして、私、叫ばすにはいられません。
「どうして……、
────────こんなに豪華になってるのっ!!?」
眼球が飛び出るかと思いましたわ。
扉を開けてびっくり!
待っていましたと言わんばかりに、彩りの宝石があしらったアクセサリーが幾つも、ドドーンと存在感を放つテーブルの上に広げられ、玉座ですか?と言いたげな豪華な装飾がついたイス。
この部屋に合ってないから!
そして、極めつけは……ベッド。
天幕付いてるがな!!
ある色で統一されておりますよー。
そのお色は、
───────漆黒。
もう、やめてー
これイジメだよ?
え?何?僕で包んであげるって?
うげぇぇ……
私、嫌いな色が決まりました。
そう、漆黒です。
ああ、目眩がして来た。
ふらっとあの悪趣味なベッドへ倒れこみました。
沈み込む身体。
まるで雲に乗っているかのような感覚が私を襲いますの。
あー更に上級グレードになってる。
心地良すぎ……でも、
──────ムカつく。
腹立てたら、眠くなってきた。
私はそのまま、意識を手放した。
✣✣✣✣
「ホント?あの……」
「はい……。昨日は本当に生きた心地がしなかったですよ」
「ズルい。私、あの方に会うために王宮に入ったようなものなのに」
「カミラ。貴女なんかに、あのお方のお目にかなうとも?私の方が────」
「うるさいわね!マリアン!はぁ、そんなことならサボってるんじゃ無かった……」
「ホント。アンタと一緒にいなきゃ良かったわ」
「こんなところ、お給金が良いだけで、薄気味悪い人形姫の世話なんてつまらない……」
「幽閉された王女なんて、忘れられた存在だものね。興味本位のご訪問でしょう。一気にやる気なくしたわ」
「カミラさんもマリアンさんも、ちゃんとお仕事してないじゃないですか……」
「「おだまり!!シーネ!」」
「うっ、……は、はぃ」
なんか、騒がしいんですけど。
私、寝てるんですけどね。
凄い廊下から話し声が聞こえてくるわけで。
まさに安・眠・妨・害!
布団を頭から被った。
キィィィィ───
ドタドタドタ。
ん?誰か入って来た?
「え?なにこれ!!」
「す、凄いわね」
「ねぇ、見て?このネックレス。私に似合わない?」
あ、勝手に手に取ってやがる!
ちょっと触らないの!!
それ、返すんだから!
「やめた方が良いですってば。王女様への贈り物ですし……」
それ正論!
この子はシーネちゃんかな。
───バンッ。
お、テーブル叩いたな。
もう少し、様子見てみようっと。
「アンタっていつもそうね……いい子ぶらないでよね」
「ホントそれ!ねぇ、マリアン?これ、ひとつくらい貰っても良くない?人形姫には勿体ないし、必要ないじゃん」
「ふっ、そうね。掃除、洗濯と忙しいものね」
「それは、私たちの仕事で……ひっ」
「私、この前。雑巾を絞った水を持って来てやったの。そしたらね、人形姫、そのまま顔洗ってた。アハハ」
あーなんか納得したわ。
今のエスティアの現状。
汚い部屋の理由も。
「私は一昨日の夜、安眠法に効果のある腐ったバナナの汁を枕に塗り、林檎ベッドの下に置いて差し上げたわよ。良く眠れたはずだわ」
「プッ、マリアン、それ面白すぎ!」
マリアン、犯人お前かーい!!
安眠出来るわけねーわ!
しかも、そこにエスティアも寝るなー!
あ、ダメだわ。もう勘弁ならねぇー。
私、堪忍袋の緒が切れました。
バサッン。
被っていた布団を勢い良く引っ張いだ。
そのままベッドに立ち上がると
侍女の三人が目を丸くして私に注目した。
勢いが良かったので、私、少し上下に揺れてます。
「ちょっと、私の物に触れるのやめて貰えるかしら?」
優雅に腕を組む。
ベッドの分の身長を稼ぎ、頭上から睨みつける。
ちょいと顎が上向きました。
肩を震わせて今にも泣き出しそうな女の子がシーネちゃんね。
で、ネックレス持ってる化粧バッチリ女がカミラね。
そんで、腐った果物を使って嫌がらせした女はお前かー!マリアンっ!!
「あれ、いつもと様子が……」
顔を引き攣らせながらも、ネックレスを離さないんだなカミラ。
「……王女様、急に後ろ盾が出来たからって、そういう態度はどうかと思いますよ?」
コツコツとヒールを履いたマリアンが前にでる。
あ?やる気か?
マリアン。
「いつもみたいな人形……じゃなかった。王女様に戻った方がいいですよ?」
カミラはテーブルに腰掛けけた。
足をブラブラさせながらクスッと笑う。
行儀悪いぞ!それでも、王宮の侍女か!
おい、まだ離さないつもりか?
カミラ、おーい。ポケットに入れたの見たぞ!
現行犯で逮捕だ!!
マリアンが、はあ、とため息を吐いた。
手を差し出される。
「さあ、危ないのでこちらへ」
え?私がその手を取るとお思いか?
バシッと跳ね除けた。
「必要ございませんわ」
横目でマリアンを一瞥した。
ヒョイとベッドから降りる。
スタスタとある者の前まで歩く。
私の行動にその女は固まって表情が引き攣っている。
「それ───」
下ろしていた腕をスーッと上げた。
そして、ポケットを指先を向ける。
ここだよ!って言うように金色のチェーンが出とります。
「なぜ、貴女が私のモノを奪うの……か・し・ら?」
首を横に傾けちゃう。
更に、レジスさん並みの凍てつく瞳までプレゼントよ。
「ひぃッ!」
え!なんでシーネちゃんが蒼白に?!
口元抑えて、ちょっと仰け反ってるよー
そんな怖かった?
まあ、このエスティア様は
将来の悪逆非道暴君女王だもんね。
そういう片鱗あるか……
すまん。シーネちゃん!
「調子に乗るのもいい加減にしなさいよ!
─────この人形姫がッ!!」
部屋中にカミラの声が響いた。
両手を握り締め、ブルブルと震わせる。
ギロッ。
あ、目が合った。
一歩前と足を踏み出す。
勢いに任せて一直線に突っ込んで来る。
こういう動物いたな……
たしか、そう!
─────イノシシ。
イノシシカミラは私を掴もうとするが、
カミラは私の髪先にも触れられなかった。
「な、なんで、……捕まえられないの!」
青筋が浮き出てる。
ブヒブヒと文句を言ってます。
いや、私、反復横跳び得意だったから。
単調の動きなら────
視界が天上を向く。
なんか踏み付けた。
スローモーションのように私の身体落ちて行く。
足下に見えたのは……
──────バナナの皮でした。
左へと視線を送る。
そこにはバナナを頬張るモノが……
またお前か─────っ!!!
マリアンっ!!!
ん?ちょ、カミラ!
危ないって!
眼前に鋭いカミラの爪が。
顔を逸らしたが、頬を掠めた。
チクッとした痛みが走る。
あの爪は絶対、仕事してない!!
──ダンッ。
床に着陸しました。
「ハアハア……いい気味だわ」
肩で息をしながら、カミラは私の右横に立つ。
左横には涼しい顔してバナナを食べるマリアンが。
っていうか……
どこからバナナ出した?
「これに懲りて、私たちに逆らわないことね。人形姫」
「いつものように、バカのひとつ覚えのごとく、微笑んでいてください」
あははと外まで聞こえるぐらいの声で笑うふたり。
エスティア……
こんなのと戦ってたんだね。
この塔に閉じ込められて
味方もいないこの冷たい塔中で……
ちょっと、悪逆非道暴君女王になった理由が
ほんの少しだけ分かった気がするよ。
だけど、私はエスティアじゃないから、
大人しくやられてやらないよ
貴女の分もプラスして目に物見せてやる!
上半身を起こし、足に力を入れて立ち上がった。
顔はまだ俯いたまま。
前に垂れた髪を掻き上げる。
頬から血が流れた。
私の出す気配に身構えるおふたり。
もう、シーネちゃんはテーブルに身を隠しております。
頭を抑えてブルブル震えてるのが、
なんか保護欲を掻き立てるよね。
そんなことより……
人のことを人形姫だとか
色々とエスティアさんのことバカにしてくれてる、
この侍女さんたちには反省が必要、よね?
首を回す。肩もついでに。
指もやっとく?
ボキボキと音が出た。
ペタペタと素足が音を立てた。
臆したふたりが私に背を向ける。
このまま逃がすわけねーだろ!!
窓枠にいた小鳥が、不意に飛び立った。
───ガシッ!ガシッ!
両手を伸ばし、ふたりの髪を鷲掴んだ。
ぎゃあぎゃあ騒ぐ声など私の耳には届かない。
震えが収まらないシーネちゃんへと顔を向けた。
視線を合わせる。
逸らそうとするシーネちゃんを私は逃さない。
テーブルが激しく揺れる。
「そこの貴女?」
優しく声を掛けたつもりなんだけど、
シーネちゃんは今にも殺されるって顔なんだよね。
私、そんなつもりないんだけどもね。
「……ば、ばい」
「ハサミって、あるかしら?」
あ、そうだ。笑顔が足りなかったのだわ。
渾身の笑顔を向ける。
滅多に見せないエスティアスマイルだ。
良く拝みたまえ!
あ、あれ?
シーネちゃんの魂が飛んでった気がする。
カムバーック!!
✣✣✣✣
その日の昼下がり。
あるふたりの侍女が
泣き叫びながら王宮から逃亡したという報告が上がった。
その侍女たちの髪型は、
見るも無残なモノだった────と目撃者は語る。
報告書をパンと指で弾く。
窓から見える白亜の塔の方角へ目を向ける。
「フッ、我が妹は愉快な人間のようだな」
────さて。
会いに行こうじゃないか。
…………我が妹君。




