✣ 8話 淑女の脱獄アイテムにイケ男はいりません
「まあ、落ち着いてくれ」
両手を軽くあげる距離バグ兄サン。
ニヤつく顔が、かっちょええのが、
──────ムカつく!!
それと、落ち着けるカ────ッ!!
さっき、壁ドーンしといて
この胸の高鳴りどうしてくれんのよっ!
ドクンドクンとね、
血圧急上昇したんだからね?
奥歯をギリギリと音を立てながら
キリッと再度睨み付ける。
「悪い悪い。気になるヤツには意地悪したくなるタチなんだ」
……それ、謝ってないからね。
イケてる男だからって何でも許されると思わないでくださいまし!
更に鋭く尖った目をくらえ!
────って、笑うな!
ここ笑うとこじゃ───ない!
腹を抱え、片手は額に当てながら
大きな声で笑っておられます……
なんか、怒ってるの馬鹿らしいわ…
感情のない目であの男を眺めた。
ん?
そんなことしてる場合ではない!
私は今、脱獄ミッション中でしたわ!
こんなところで
道草ボリボリ食べてる時間はないのよ!
───バサッ。
スカートを勢い良く翻した。
穴に突────?
………?
「おい。待てよ」
───あの?
肩に手を置かないでください。
う、動かねぇ……
私はこの先に行ぎだい──のっ!
肩に乗せられた手を、
ホコリを見るような目で一瞥する。
それを無感情で手で払う。
べシッ。
後ろ方で手を空でパタパタしている気がする。
「俺に触れられたいって女はごまんといたが……。その目といい……こう冷たくあしらわれるのは、
────────初めての経験だな」
いギっ。
肩がブルっと震えた。
あの男の新たな癖を開発しちゃたかしら…?
ここで振り向いたら、いけない気がする!
野生の勘がそう告げた。
私はスカートの裾を持ち、前へと駆け出した。
エスティアちゃんの出せる全速力で。
あの男がなんか言ってる気がしたけど。
まあ、金輪際会うことはないしょ?
さらば、王宮のお方たち。
(対して関わりないけど)
あ!震える子ヤギのシーネちゃん。
良い上司に巡り会えるといいね。
あばよ。王太子。
そして、
─────漆黒さん!
ヒロインちゃんとお幸せにっ!!
穴の前で急ブレーキを掛ける。
全く持って、このエスティアちゃんボディは本当に体力がない。
この短距離でも息が上がる。
でも、この穴を抜けたら私のサードライフが始まる。
そう思ったら期待で胸が躍った。
思い切り息を吸い込む。
シュタッと忍者のようにしゃがみ込むと、
スカートのポッケからポロポロと輝く色とりどりのお石が。
ヤバっ。
すぐさまポケットに押し込む。
また後ろでごちゃごちゃ言ってるけど、
有効活用ですわよ。
返そうと思ったけど
やっぱりお金は必要ってことで、数個頂きました。
そのままだと、足がつきそうなので
ハサミで宝石だけ、ね。
四つん這いになる。
そして、私は穴の外へ向けて四足歩行を開始した。
……バカ笑いをBGMにして。
(一生笑ってろ!)
✣✣✣✣
四足歩行のまま穴の外へ出たら、
どこかの路地裏?のようです。
ぺちぺちと手を叩き、汚れを落としながら周りを確認する。
薄暗っくてなんか不気味な雰囲気になんだか不安になりますわ。
でも、第一関門突破よ!
とりあえず、大通りに出ればどうにかなるはず。
私は壁伝いに歩き始めた。
角をに右に二回。
そのまま少し進んで、今度は左。
やっと出た先は少し寂れた通りでした。
賑わいはないけど、人の営みを感じさせます。
あ、なんかいい匂いが……
コレは?!間違いないお肉だ!
そういえば、昨日からご飯食べてない!
ぐぅぅぅぅとお腹の虫が鳴く。
そうなると、余計お腹が減った。
油断すると口端からヨダレが出かねない。
今はとにかく。
「お腹を満たしましょ」
匂いに誘われるがままに足を動かした。
香りが強くなるにつれて
人の往来が激しくなった。
どうやら、この先は市場のようだ。 数集まった露店に沢山の人がひしめき合っている。
新鮮な野菜や果物を初め、魚や肉まで置いてある。
見るもの全てが、輝いて見えた。
少し外れれば屋台が列をなして、ガタイの良いオジサンや、腕っぷしが強そうなおネエ様と、多種多様なお方が腕を奮っておられます。
その屋台を吟味しながら歩くこと二十分弱、やっとコレだ!という屋台を発見しました!
それは、日本人の心のオアシス───おにぎり!
炊き上げたあの白いお米ちゃんがつやっつやと光り輝き、ひと粒ひと粒自己主張。
お塩をちょちょいとつけたお手にふわっと盛られたご飯の中に……お鮭ぽいお魚のほぐし身が────
お着物の黒いお海苔のいい匂いが。
握るおばあ様の手が美味さを語ってます。
ごくん。
ここですわ。
私、ここに決めましたの。
ポケットに手を入れ、指先で厳選中。
でも、お金の方が良いよね……?
これからのこともあるから、質屋か換金所とか探した方が、いい?
屋台の前で、顎に人差し指を添えながら考えていると身体にドーンという衝撃が。
足の踏ん張りが利かず、地面にゴロっと倒れちゃいました。
むしろ、吹っ飛んだ。
膝にピリッとした痛みが走る。
ちょ、今のなに??
何が起きたか理解出来ず、気がついたら視線が地面でしたわ。
慌てて顔を見上げると、眉根を深く刻み、眉を吊り上げたチョビ髭お腹ぼいんオジサンと目が合った。
私をそのお腹で跳ね飛ばしたわね!!
てめぇのお腹でドリブルしたろか!?
そんなぼいんオジサンは襟を正しながら、私を睨め付けながら吐き捨てた。
「チッ。気をつけろ!」
ドシドシという足音が聞こえそうな足取りで、すぐ裏の露店へ行ってしまった。
おめぇがな!!
と、お口が悪うございますね。
────肥溜めにも落ちやがれですわ。
ゴ、ゴホン。
よし、気を取り直して、おにぎりを買おう!
おばあ様に声を……ん?
なんか、騒いでるな?
振り返ると、さっきのぼいんオジサンが声を荒らげ、肩を上げ、今にも露店のゴボウ……あ、すみません。細身のオジイに殴り掛かりそうだ。
「何やってるんだ?!こっちは急いでるんだぞ!!早くしろっ!」
なんか、トラブってるみたい。
周りの人たちも足を止めて見守っている。
「こんなに一気に頼まれたことないもんで……すぐ計算します、から」
何?計算……?
私は不意に声をかけてしまった。
「私が代わりに計算致しますわ」
「へっ??」
「良いから。言ってください」
ぼいんオジサンは早くしろ!とまた怒鳴って来る。
その度にゴボジイはビクッと肩を震わせた。
コボジイの目は私を見た。
私はその不安で震える瞳を受け止めた。
ゴボオジイ、大丈夫。安心してちょうだい。
私、─────生きる電卓って呼ばれてたから!
オジイは小さく首を縦に動かした。
「じゃあ、娘さん頼むよ」
「任されましたわ」
「258リルがら6個、178リルが5個、137リルが……15個。それで、お────」
「おい!まだか!?」
せっかちな、ぼいんオジサンだな。
絶対独身ね………
こんなのにお嫁が来るわけがないわ。
冷めた視線を送る。
その視線に気づいたぼいんオジサンは、あぁ?と片眉を上げて見下ろしてくる。
私は華麗に無視すると、少し顎を上げ、ハッキリとした声を発した。
「4,493ですわ」
「あ?何が」
「お代金ですわよ。ぼい……じゃない。アナタのお買い求めした品物のお代金です」
「それ合ってんだろうな?」
腕を組み顔を突き出す。
掛かる口臭が腐っ……
鼻をつまみたくなるのを、我慢する。
眉間に皺が寄るのはごめんな、はい。
見物人達がザワザワし始めた。
ゴボジイは私とぼいんオジサンを交互に見ている。
「もちろんですわよ。ほら、早くお支払いしたらいかがです?」
「このアマ、適当に言ったとしたらわかってンだろうな?」
いらないって、そのブレス。
誰か、この口塞いでぇ───
顔が引き攣るのを耐えながら、口を開こうとしたその時、白檀の香りが鼻腔を蕩かした。
とある人物が見物人達の前へと颯爽と前に出た。
その顔に私は見覚えがあった。
あの香りとあの表情は……
────距離バク兄サン!!
「出任せじゃねぇよ。だから、さっさと払え」
斜に構え、両手はポッケに突っ込み&先のとんがった靴。なんか第二ボタン?いや第三ボタンまで外してるよ?!
目を擦る。
ここは歌舞伎町かしら?
その声にぼいんオジサンは勢い良く振り返った。
「誰だ、おめ──ハッ、ノルドさ、ん」
威勢の良かったぼいんオジサンが、みるみるうちに険が取れ、今にもごまを擦りそうな雰囲気だ。
あ、なんか重要的な人物ぽいぞ……?
なんか見物人の方々もボソボソ言ってるし……
なんか、ヤバそう。
よしっ、逃げよう!
サッと、踵を翻す。
─────が、今度は上手く行きませんでした。
ガシッと腕を掴まれ、そのまま引き寄せられる。
足がもたつき、───トンッと身体が当たった。
腕に布が擦れ、白檀の香りが強く感じる。
声が上から降ってきた。
「やっと、捕まえたわ」
顔を見上げと、ふたつの蒼玉が私を見下ろした。
──────今度は、逃がさねぇよ?
そう瞳が告げていた。




