グータラ生活と見た目どストライク紳士なら、ぎりグータラ生活が勝つ
「はじめまして。アルフレッド・カークランドと申します」
ピッチリ45度の完璧な角度でお辞儀する見合い相手に、アメリアは(さすが公爵家の跡取りだなぁ、礼儀正しいなぁ)などと思いながら
「はじめまして。アメリア・レリクアと申します」
とカーテシーで答えた。
先日、鬼神の如き母に扱かれ見直された礼儀作法である。カーテシーも公爵家のお眼鏡に叶う出来であると自負している。
そんな母であるが、ノブリス・オブリージュを忘れ怠け者に終始するアメリアに喝をいれつつ、乗り気ではない縁談を無理強いする訳ではなかった。
なので娘に激甘の父は迷わず公爵家にお断りの返事を出したが、案の定“1度顔合わせをしてからでも遅くないでしょう?”との回答を頂き本日の顔合わせとなった。
もっともこれは、形式上だけのものだ。
1度も会わずに断られるより“お見合いをした結果、お互いの条件が合わなかった”の方がプライドが守られるから、らしい。
どうせ断るならどちらも同じでは?とアメリアは思うが、貴族社会というのはそう単純なものでもないのだと言われれば頷くしかないというものだ。
そんな流れで2人は伯爵家の庭園でテーブルを挟んで向かい合っているのだ。
婚約の話は流れる予定なので、両家の親も不在の2人きりである。
「…………」
「…………」
あいさつを終えアメリアが席に座るよう促すと、アルフレッドはにこやかな笑顔を張り付けたまま黙って座った。
話に聞いていた通り、王子様のようなキラキラと美しい人である。
何か剣術か武道の心得でもあるのか、程よく筋肉質であるのが服の上からでもわかる。
ぶっちゃけ、タイプである。
これで子爵とか男爵家の次男あたりなら、喜んで嫁に行っただろう。
それくらいアメリアの、どストライクの見た目だった。
無口なタイプなのか、アルフレッドはにこやかな笑顔を崩さずに黙っている。
公爵家からの縁談の申し出だったのだが、どうやらアルフレッドの希望ではなく親の判断で組まれた縁談だったのだろう。
断る気満々のアメリアとしてもその方が気が楽である。
「この度は、カークランド様より過分なお話を頂きありがとうございました。既にお聞きかと思いますが、この度は御縁がなかったことにさせて頂きたく…」
早々にアメリアが話を切り出した。不毛な時間は短いに限る。
アルフレッドを送り出して、その後に目の前のスイーツをゆっくり味わう算段である。
「ええ。正直に言いますと、断られるとは思っておらず…やはりアメリア嬢の様な美しい方には私は相応しくありませんよね…」
貼り付けていた笑顔を外したアルフレッドが悲しげに目を伏せた。
長いまつ毛が揺れている。
ドッキューン!と、アメリアは胸を撃ち抜かれた。
捨てられた子犬のような弱々しい態度に、前世で培われた母性本能が呼び起こされたのかもしれない。
「まぁ、そんな事!違いますわ!アルフレッド様の事を嫌がって断ったのではないのです!ただ…」
「ただ…?」
アメリアの声に縋るように潤んだ碧い瞳がこちらを向く。
「ただ、公爵家という責務が嫌なのです!!」
思ったより大きくなっていた声に驚いた野鳥が数匹バタバタと空へ飛び立った。
「え…?」
「私は生まれつき怠け者な性分なのです。一生、3食昼寝付きのグータラ生活を送って生きていきたいくらいの、生粋の!怠け者なのですわ!」
「生粋の…怠け者…」
「そうなのです。呆れるでしょう?そんな私が公爵家の夫人という立場を上手く立ち回るなど不可能ですわ。だから、この縁談をお断りしてほしいと父にお願いしたのです…」
美貌の紳士の母性本能くすぐる表情にやられて、つい大声で何の自慢にもならない主張をしてしまったアメリアの声は徐々に小さくなっていく。
「ですので、アルフレッド様が原因ではありませんの…」
と最後は囁くように小さくなってしまった。
「私も…そうなんです」
アメリアの主張を最後まで聞いていたアルフレッドがポツリと言った。
「え?」
とアメリアは聞き返す。
「私も、公爵家の責務は荷が重いと思っています…」
「まぁ…」
否定の言葉を発さないアメリアを見て、アルフレッドはせきを切ったかの様に話しだした。
「私は、あまり頭の出来が良くありません。頭を使って領地経営をするより、剣を振るっている方が性に合うのです。そんな私を心配した父が、聡明なご令嬢と私の婚約を考えて顔合わせをした事もありましたが…聡明なご令嬢と頭の悪い私では話も合わずに、縁談は纏まりませんでした」
相手のご令嬢に出来の悪さを見抜かれ、愛想を尽かされて…と悲しげに眉を下げて無理に笑おうとするアルフレッドが痛々しかったのか、公爵様も無理に縁談を纏めなかったという。
「アメリア嬢のデビュタントの時、貴方の可憐さに見惚れていました…その様子を見た父が勝手にレリクア伯爵家に婚約の打診を…申し訳ありません」
「謝らないでください。本来なら断るはずもない良縁です。ただ私のワガママを通しただけなのですから。アルフレッド様は素敵な方ですわ。私は今日お会いして、そう思いましたもの」
フッとアルフレッドがアメリアを見つめる。
やっぱり、凄くタイプだ。
これで実家が重くなければなぁ、とアメリアは思う。
タイプだからといって、簡単に曲げられる程の信念ではないのだ。
今世では、全力で楽して生きていきたいという信念にスペック全振りしているのだから。
「私が…公爵家の跡取りでなければ、婚約を考えてくれますか…?」
「え…?」
「私の5歳下の弟は、私に似ずに聡明で人を惹きつけるカリスマ性があります。以前から考えていたのです。私より、弟の方が公爵家当主に相応しいと」
「ん…?あの…?」
「私の夢は、騎士になることでした。公爵家当主として生きていくために諦めていましたが…」
アルフレッドがスッと席を立ち、アメリアの前で跪く。
「アメリア嬢!必ず2年以内に騎士として立派になります!貴方が望む、3食昼寝付きの生活で暮らせるように!その時、また婚約を申し込ませてください!」
貴方が再び婚約を申込む前に、私が別の人と婚約する可能性もあるのでは…?とは思ったが、アメリアは言わなかった。
この、見た目にそぐわず自己肯定感の低い紳士が自分に好意を抱いている。
そう思うと心が浮足立ってしまうのだ。
できれば一生結婚せずに、父の庇護下でぬくぬくと暮らしていきたい。
しかし、このアメリアのタイプど真ん中紳士に騎士として再び求婚されれば…。
目の前で跪き、顔を赤らめるアルフレッド。
「はい…。お待ちしております」
と答えたアメリアを、碧の瞳が優しく見つめ返した。




