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伯爵令嬢アメリア・レリクアは全力で何もしたくない〜前世で超多忙ワーママだったので今世では何もしたくありません〜  作者: 雨の日


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1/9

一生怠けて暮らしたい


「アメリア…カークランド家からアルフレッド様との婚約の申し出が届いているんだが…」

「嫌です断ってください」


アメリア・レリクア伯爵令嬢は、父の言葉に前のめりで答えた。

カークランド家とは、貴族の頂点である公爵家であり、この国で3本の指に入る資産家として知られている。


「まぁ、アメリアちゃん。どうして?アルフレッド・カークランド様と言えば、とっても紳士的で美男子だと婦人社交界で評判よ?それに公爵家なんて玉の輿じゃない?」

「だから嫌なの…」


そう答えると、母は理解できないと言うように首を傾げた。

それも仕方ないとアメリアは思っている。


結婚が女の幸せ。貴族であれば、尚更。

結婚して子供を産み、潤沢な資産で社交界の華となり何不自由なく暮らす。

それが貴族令嬢としての幸せな一生と信じて疑わない価値観のこの世界で…

アメリアは違う価値観を抱いて生まれてしまった。




アメリアには前世の記憶がある。

詳細は覚えていないが、前世でも結婚をして子供を数人産んでいた。

そしてー


(24時間365日休みなくフルタイムで働いてたって感じよね…)

アメリアが前世を思い出す時に浮かぶのは、そんな想いだった。


“イチオクソウカツヤクシャカイ”


この単語の意味も今ではよく分からないが、とにかく前世ではこの言葉を合言葉の様に、男も女も仕事に邁進するべき!とされた。

結婚しても、それは変わらない。

子供を産んでも数ヶ月で仕事に戻る。

そして、仕事子育て仕事子育ての日々。

ちなみにアメリアの前世のパートナーは、家事育児は女の仕事、という割と古い価値観からアップデート出来ていないタイプの人間だった。


アメリアは思う。

いや、前世の私の仕事量半端なくない?と。


未婚の間は男女で負担は変わらないと思う。

自分の世話だけしていればいいのだから。

しかし、子供を産んだら急激に負担が増加していたのでは?

だって、乳幼児の間はどうしたって母が子育ての主軸だ。

前世では“イクキュウ”なる制度で仕事を休んでいる時期があるので、その間は生みの母が主に子育てを担う。

乳母や使用人などという制度は、前世のアメリアの世界では主流ではないのだ。まぁ、これは今世でも選ばれし貴族の間でしか利用できないものだが。


とにかく、前世のアメリアは睡眠時間4時間で家事に育児に仕事に…がむしゃらに働き続けていたのだ。

普段のルーティンに加え子供の突発の発熱などがあれば、それこそ24時間369日休みなく、と言っても過言ではないくらいに。



その結果…


(なんか…前世働きすぎたせいかな?頑張らないといけない事とか何にもしたくないのよね…)


立派なグータラ令嬢となったのである。

特に結婚に夢見ることもないし、結婚が女の幸せとは思っていない。

せっかく裕福な貴族令嬢に生まれたのだ。

今世は可能な限り長く蝶よ花よと上げ膳据え膳で生きていきたいのだ。

そんな価値観が理解されないのもわかっている。

自身の母のように…。



「公爵家からのお話だ…断るといってもそう簡単には…」

父は難しそな顔で言う。

伯爵家当主としては是非に繋げたい御縁だが、愛娘の意見も尊重したい…

そんな葛藤がうかがえた。


「お父様…無理を言っているのは分かっているの。でも、公爵家なんて…夫人の仕事量が多そうで嫌なのです。私は3食昼寝付きのお気楽生活を送りたいのです…」

オヨヨ…と床に伏せるように泣き真似をすると

「あぁ!アメリア!泣かないでおくれ!お父様がなんとかするから、アメリアは一生この家でお父様と暮らそうね!」

とアメリアに父が駆け寄る。

お父様はチョロいのだ。


「貴方、アメリア…こちらに座りなさい」

おっとりとした母の声にビクリと親子で身体を震わせ、素早く父とソファへ腰掛ける。

前のソファには、にっこりと微笑む母。

かつて社交界の白薔薇と呼ばれた清楚で可憐な美貌は衰えることはない。

しかし何故だろう、可憐なはずの母のオーラが鬼神の如き迫力を帯びている。


「お母様…ご立腹?」

「どうしたんだい、ハニー?」


無意識に身を寄せ合う夫と娘に、ウフフと上品に笑いながら鬼神を背負う母が言う。


「3食昼寝付きお気楽生活?面白いことを言うのね、アメリアちゃん。貴族という立場をもう一度勉強したほうがいいわね?貴方も、わたくしたちの生活は領地の民達の血税だと理解していて?“働かざる者食うべからず”は我が家の家訓では?ノブリス・オブリージュを理解しない娘を一生この家に置いておくのはレリクア伯爵家としていかがなものかしら?」


かつての白薔薇は、その美しさに隠されていた鋭い棘をグサグサと夫と娘に刺してくる。


「「はい、ごめんなさい」」


親子は精神的に血だらけになりながら気高き伯爵夫人に謝罪したのだった。





アメリアに婚約の申し出を入れてきたカークランド公爵家のアルフレッド様は、アメリアの2歳上の18歳だ。

金髪碧眼の絵に描いた王子様な風貌らしい。

アメリアもデビュタントの際に、チラリと見掛けた様な気がするが特に興味もなかったのでよく見ていなかった。

それよりも軽食テーブルの上の色鮮やかなスイーツに目を奪われていた、という方が正しいが。


(アルフレッド様が嫌と言うわけではないんだけれど…実家が重いのよね)

公爵家の様な、トップオブ貴族に嫁いだ日には…

広大な敷地の人事采配、使用人たちの指揮統率、果ては給与配分まで…全てアメリアがしなければいけないのだ。


それだけではない。

公爵夫人といえば、流行を作り出すインフルエンサー的な役割も担う。

常に流行アンテナを張り巡らせ、流行を生み出して物流を動かすのも大切な仕事なのだ。


無理すぎる…今世はのんびりスローライフ的な感じで生きていきたいアメリアにはハードルが高すぎる。

とにかく、そのハイスペック紳士との縁談は全力でお断りしたい。


母のお説教に謝罪はしたが、アメリアの根本の精神は揺るがない。

前世働きすぎた分、今世は怠けたいのだ。


結婚するにしても貴族ではなく、騎士様くらいが理想だな、とアメリアは日頃から考えている。

今までより生活水準は下がるが、稼ぐ相手なら通いの使用人ぐらいは雇えるだろう。

「アメリアは家で可愛くしてるのが仕事だよ♡」

みたいな人が現れるのが理想である。


そんな事を空想しながら、ゴロンとベットに横になり日課のお昼寝タイムに移行する。


(あぁ…寝たいときに寝れる幸せ…。この幸せを失いたくないのよ、私…)

夢うつつ、まどろみながらアメリアは目を瞑った。






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