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第7話 夜襲と虹色の助っ人? ~スライムは友達になれますか~


「グルルルルォォォォ!!」 暗闇の森から飛び出してきたのは、身の丈3メートルはあろうかという巨大な熊型の魔物だった。鋭い爪、血走った赤い両目、そして全身から発せられる獣臭と殺気。ゲームで言うなら、明らかに中ボス級の風格だ。

「デカブツのお出ましだぜ! 面白くなってきやがった!」 バルガスは巨大な斧を構え、その顔には恐怖よりも闘争心が浮かんでいる。リリアナさんも即座に剣を抜き、俺を庇うように前に出た。 「勇者様、お下がりください! こいつは…ナイトベア! 夜間は特に凶暴化する危険な魔物です!」

ナイトベアは咆哮と共に、その巨体に似合わぬ俊敏さでバルガスに襲いかかった。バルガスの斧とナイトベアの爪が激しくぶつかり合い、火花が散る。リリアナさんもナイトベアの側面に回り込み、剣で斬りつけるが、分厚い毛皮と筋肉に阻まれ、浅い傷しか与えられない。夜の暗さが、二人の動きを微妙に鈍らせているようだった。

「(やばい、やばい、やばい! バルガスもリリアナさんも苦戦してるじゃん! 俺、どうすりゃいいんだよ!?)」 焚き火の明かりだけが頼りの戦場で、俺はただ震えていることしかできない。その時、ナイトベアがバルガスを突き飛ばし、その勢いのまま俺の方へと突進してきた!

「うわあああ! こっち見んなバカ熊! ええい、『聖なる光よ、この邪悪なる獣を焼き尽くしたまえ!(超適当&棒読み)』!!」 パニックになった俺は、頭に浮かんだそれっぽい呪文を絶叫した。もちろん、効果なんて期待していない。ただの悪あがきだ。

しかし――。 俺の叫びに呼応するかのように、周囲の木々や地面から、ポワッ、ポワッと無数の柔らかな光が生まれ始めた。それはまるでホタルの群れのようでもあり、あるいは発光キノコが一斉に光を放ったようでもあった。辺り一帯が、ぼんやりと幻想的な光に包まれ、ナイトベアは突然の明るさに目がくらんだのか、一瞬動きを止めて怯んだように後ずさった。

『ユニークスキル「誤変換」発動。入力:「聖なる光よ、邪悪を焼き尽くしたまえ!」。変換結果:「周囲環境の光量増加(生物発光・非敵対・効果時間約5分)」。意図せず戦術的優位性を確保。マスターの生存本能が、またしても奇跡(という名のバグ)を呼び起こしたか?』 S.A.G.E.の解説が脳内に響く。なんだよ「生物発光」って! でも、おかげで少し明るくなった!

「今です、バルガス殿!」 「おうよっ!」 視界が確保されたことで、リリアナさんとバルガスの動きが格段に良くなる。ナイトベアの巨体に、的確な攻撃が次々と叩き込まれていく。

「グオオオォォ!」 ナイトベアが苦悶の声を上げ、よろめいた。その時、俺は確かに見た。 ナイトベアの足元に、昨夜茂みで見かけたあの虹色に光るプルプルした物体――手のひらサイズの虹色スライムが、素早い動きでスルスルと現れたのだ。そして、ナイトベアの足元に、ネバネバとした虹色の粘液をビシャッと撒き散らした。

「あ! あのスライム!」 俺が声を上げるのと、ナイトベアがその粘液に足を取られて派手に転倒するのは、ほぼ同時だった。 「好機!」 「もらったぁ!」 リリアナさんとバルガスは、スライムの存在には全く気づいていない様子で、「勇者様の光の術で怯んだところを好機と見たか!」とばかりに、転倒したナイトベアに猛攻を仕掛ける。

結局、ナイトベアは二人の連携攻撃の前に沈み、巨体を横たえて動かなくなった。 激しい戦闘が終わり、俺たちはぜえぜえと肩で息をする。 「や、やりましたわ…勇者様、先ほどの光の術、お見事でした! あれがなければ、わたくしたちも危ういところでした…!」 「ああ! 勇者様の術はいつ見ても派手で面白いぜ! あのデカブツも目がチカチカしてやがったもんな!」 リリアナさんとバルガスは、興奮気味に俺を称賛する。

「(いや、俺はただ適当に叫んだだけで…それより、あのスライムは一体…?)」 俺が虹色スライムがいたはずの場所を見たが、そこにはもうその姿はなく、地面にキラキラとした虹色の粘液が少量残っているだけだった。

結局、その夜は誰もまともに眠ることができず、疲労困憊のまま夜明けを迎えた。 朝食の準備をしながら、俺は昨夜の虹色スライムのことを二人に話そうとした。 「あの…昨日の夜、光るスライムが、なんか助けてくれたような気がするんだけど…」 するとリリアナさんは、「まあ、勇者様の光の術の影響で、森の精霊か何かが力を貸してくださったのかもしれませんわね」と、またもやポジティブに(そして俺の手柄として)解釈。バルガスは「スライムが助けるだと? ハッ! そりゃ勇者様の術があまりに強すぎて、スライムまで味方につけちまったってことか! ガハハ!」と豪快に笑い飛ばすだけだった。どうやら、まともに取り合ってもらえそうにない。

『昨夜出現した虹色スライムの個体データを記録。通常の生命体とは異なる特殊なエネルギーパターンを複数検出。分類不能のユニークモンスター「レインボースライム(仮称)」の可能性が高い。行動原理、能力共に未知数。極めて興味深い観察対象だ』 S.A.G.E.だけは、少し興味を示しているようだった。

朝食もそこそこに、俺たちはクリスタリアへの旅を再開した。俺の頭の中では、あの不思議な虹色スライムのことが気になって仕方がない。あれは一体何だったんだろうか…。

「そういえば、高位のスライムロードの中には、人の姿に擬態し、人語を操るものもいると、古い文献で読んだことがありますわ。もしそのような存在に出会うことがあれば、友好的に接するべきかもしれませんね」 リリアナさんがふとそんなことを言った。 「へぇ、人の姿のスライムか! そいつは面白そうだ! やっぱり体はプルプルしてんのかねぇ?」 バルガスは無邪気に問いかける。

「(人の姿のスライム…ねぇ…まさか、な…)」 俺がそんなことを考えていた、その時だった。 街道の少し先、森へと続く細い脇道で、小さな女の子が一人、何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回している姿が一瞬だけ見えた気がした。歳は…10歳くらいだろうか? 淡い水色の髪が印象的だった。しかし、俺が目を凝らすと、その女の子はすぐに森の奥へと姿を消してしまった。

「(今の…子供…? こんな街道沿いの森に、一人で…?)」 まさか、とは思うが、一瞬見えたその姿が、なぜか頭から離れなかった。 ポンコツ勇者の旅は、新たな出会いと波乱の予感をはらみながら、ゆっくりと、しかし確実に進んでいくのだった。もちろん、俺の胃痛も一緒に。


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