幼女の奇跡は世界を照らすアルか!? ポンコツ勇者、光に乗じて(やっぱり)ドタバタし、究極栄養食は未知の味(そして村は炎上寸前!?)~
洞窟の最深部。ポヨンちゃんから放たれた純白の光は、禍々しい「歪みの欠片」の光を打ち消すかのように、しばし空洞全体を温かく照らし出した。黒装束の兵士たちは「ぐっ…な、なんだこの光は!?」と怯み、動きが鈍っている。檻の中の銀狼たちは、その光を浴びて微かに力を取り戻したのか、グルルルと低い唸り声を上げ始めたアル。
「ポヨンちゃん…すごいアル…!」
「…コレホド純粋ナ光…コレガコノ幼子ノ力ナノカ…」フェンも驚きを隠せない様子アル。
「(よし、今がチャンスアル!)」俺はそう思い、兵士たちに向かって叫んだアル!
「悪党ども!お前たちの悪事もここまでアル!この勇者ユート様が、正義の光と共に、お前たちを懲らしめてやるアル!」
《ユニークスキル:誤変換【ミストランスレート】が発動しました!》
俺の脳内では勇ましい台詞だったが、実際に口から出たのは…
「納豆ども!お前たちの味噌汁もここまでアル!このポンコツ納豆様が、ネギの光と共に、お前たちをネバネバにしてやるアル!」
「「「「「は?」」」」」
黒装束の兵士たちも、フェンも、檻の中の狼たちも、一瞬ポカーンとして俺を見たアル。ポヨンちゃんだけが「ゆーとしゃま、かっこいー!」と目を輝かせている。空気が凍ったアル…。
『S.A.G.E.より状況報告:マスターの【ミストランスレート】、今回も戦場の空気を一変させることに成功アル。敵の戦意を削ぐ(困惑させる)効果は限定的ながら確認。ただし、味方(フェン氏)の士気も若干低下した模様アル』
「(頼むからカッコイイこと言わせてくれアル!)フェン!狼たちを助けるアルぞ!」
「…アア。オ前ノ奇行ニハ付キ合ッテラレン」
フェンはそう吐き捨てると、怯みが解けかけた兵士たちに猛然と襲いかかる!その動きは光を浴びる前より格段に俊敏になっているアル!
俺も負けじと(主に足手まといにならないように)援護しようと、一番近くの檻に駆け寄った。
「待ってろ狼さん!今、助けてやるアル!」
檻の鍵を壊そうと、錆びた剣を振り上げた瞬間!
《ユニークスキル:絶対安全拒否【セーフティ・リジェクション】が発動しました。「檻を一つずつ安全に解放する」という選択肢を拒否。代わりに「全ての檻の施錠機構を同時に破壊(ただし制御不能)」を実行します》
「ええええ!?またアルかーーー!」
俺の剣が、なぜか「歪みの欠片」から発せられる微弱なエネルギーと共鳴し、ピンク色の衝撃波のようなものを放った!その衝撃波が、檻という檻の鍵をメチャクチャに破壊!檻の中にいた銀狼たちが、一斉に解き放たれたのだ!中には、明らかにまだ衰弱していて戦闘不能な個体や、なぜかめちゃくちゃ凶暴そうな目つきの個体も混じっているアル!
「グオオオオオオオ!!」
「キシャアアアアア!!」
解放された狼たちが、敵味方の区別なく暴れ始めた!洞窟内は、まさにカオス!
「(だあああ!なんでこうなるアルかーーーっ!)」
俺のポンコツスキルは、今日も元気に大惨事をプロデュースしている。
その頃、巨大発光キノコの森では、フレアが震える手で、クルト謹製「理論上は完璧な栄養食(灰色ペースト状)」を口にしていた。
「………………。」
フレアは、数秒間、虚無の表情で固まった。そして、ゆっくりと顔を上げ、その瞳には…なぜか理知的な光が宿っていた。
「クルトさん」
「は、はい!フレア君!どうだったかね、我がマザー・コンプレックスの味は!」クルトが期待と不安の入り混じった顔で尋ねる。
フレアは、静かに、しかし力強く答えた。
「このペースト…成分を分析するに、アミノ酸、各種ビタミン、ミネラル…確かに栄養バランスは完璧です。味覚受容体への刺激は最低限に抑えられ、消化吸収も極めて効率的。しかし、生命活動維持に不可欠な『喜び』という要素が致命的に欠如しています。結論として、これは『餌』であって『食事』ではありません。ですが、現状では最善手でしょう。クルトさん、このペーストの量産と、さらなる風味改善(例えば、森のコケ類から抽出した微量の糖分添加など)は可能ですか?」
「え?あ、はい!理論上は…って、フレア君!?キャラ変わってないかね!?」
クルトは、突然冷静沈着な研究者のような口調になったフレアに戸惑いを隠せない。どうやら、あのペーストには、栄養補給効果と共に、食べた者の知性を一時的にブーストし、感情を抑制する副作用があったらしい。
一方、エルミナは「♪キノコの馬車で虹の橋を渡りましょ~ユート様、手を取って~♪」と踊り続け、ギンジは「見よ!この岩こそが聖剣への試練!砕け!我が友情パワー!」と、巨大な光る岩に素手で挑んでいた(もちろん岩はびくともしない)。
フレア(冷静モード)は、そんな二人を一瞥すると、「…サンプルA及びサンプルBの精神汚染は深刻なレベルと判断。まずは私の生存と情報収集を優先します」と呟き、クルトと共に周囲の探索を開始した。ある意味、一番頼れる状態になったのかもしれない。
ユートピア村(仮称)。西の森から迫る狼の群れに対し、村人たちは必死の抵抗を試みていた。
ルルナが調合した「眠り誘いの花」と「獣避けの香草」を混ぜた粉末が、畑の周囲に帯状に撒かれる。狼の群れは、その匂いに一瞬怯んだように見えたが、リーダーらしき一際大きな黒い狼が鋭い咆哮を上げると、一部の狼はその帯を強引に突破してきた!
「くそっ!全部には効かないか!」バルガスが斧を構える。
「皆さん、落ち着いて!訓練通りに!投石隊、用意!」リリアナが、完成したばかりの見張り櫓の上から指示を飛ばす。
村の若者たちが、石や硬い木の実を狼たちに投げつける。狼たちは唸り声を上げて畑に侵入し、一部は村の柵にまで迫ってきた。
「このままじゃ、村が…!」イモグラーンが鍬を握りしめる。
マーサは子供たちを家の奥に隠し、必死に祈りを捧げていた。
その時、ルルナが村の古文書で読んだ、ある伝承を思い出した。
「(…精霊の怒りを鎮めるには、清らかなる供物と、誠の心…)そうだわ!」
ルルナは、自らが育てた、最も美しくワルツを踊る「虹色ニンジン」を一本手に取り、村の入り口、狼たちが迫る方向へと一人で歩みを進めた。
「ルルナ!?危ない!」バルガスが叫ぶ。
ルルナは振り返らず、虹色ニンジンを狼のリーダーの前にそっと差し出した。
「狼さん…お願いです…私たちを襲わないで…これは、私たちの心です…」
黒い狼は、ルルナと虹色ニンジンを交互に見つめ、そして…フン、と鼻を鳴らすと、意外にもそのニンジンをパクリと咥えた。そして、数秒味わうように咀嚼すると、一声高く遠吠えをした。すると、他の狼たちも攻撃を止め、ゆっくりと森の奥へと後退し始めたのだ。
「え…?」
村人たちは、呆然とその光景を見守っていた。ルルナの真心と、ポンコツ野菜(褒め言葉)が、奇跡を起こしたのかもしれない。
そして、洞窟の奥。解放された(一部暴走中の)銀狼たちと、黒装束の兵士たち、そして俺とフェン、ポヨンちゃんが入り乱れての大混戦!
「うわああ!そっちの狼さん、味方アル!俺を噛まないでアル!」
「グルルル!(知るか!)」
「フェン!『歪みの欠片』をどうにかしないと、らちが明かないアル!」
「分カッテイル!ダガ、コノ数…!」
中央の「歪みの欠片」は、混乱を喜ぶかのように、ますます禍々しい光を強めている。その時、欠片を守っていたリーダー格の黒装束の男が、懐から黒い角笛を取り出し、高らかに吹き鳴らした!
ブオオオオオオオオオオッ!
不気味な角笛の音が洞窟中に響き渡る。すると、洞窟のさらに奥の暗闇から、地響きと共に、巨大な影が姿を現した!
それは、全身が歪んだ結晶で覆われた、巨大な熊のような魔獣だった!その両目は、歪みの欠片と同じ、憎悪に満ちた黒紫色の光を放っている。
「出タナ…『歪みノ守護獣』…!」フェンが、絶望的な声を上げた。
ポヨンちゃんの光も、この絶望的な状況を覆すには至らないのか!?俺のポンコツスキルは、今度こそ本当に俺を死地に追いやっただけアルか!?
ポンコツ勇者、解放したのは味方(と大混乱)!エルミナ様ご一行、冷静になった仲間が最後の希望!村は奇跡の野菜で一時休戦、しかし洞窟には最強の番人が!?次回、絶体絶命の連続に胃薬が追いつかないアル!