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拒否スキルで死地へ直行アルか!? ポンコツ勇者、誤変換ナビで迷走し、エルミナ様は未知の味覚(と腹痛)に悶絶す~


銀狼フェンの鋭敏な嗅覚が捉えた「血と歪みの瘴気の匂い」。それは、俺たちの旅が新たな局面に入ったことを示唆していたアル。

「こっちダ。間違イナイ」

フェンが低く唸り、険しい獣道へと踏み込んでいく。俺とポヨンちゃんも、ゴクリと唾を飲み込んでその後を追った。

数時間進んだ頃だろうか。道が二手に分かれている場所に出たアル。

右の道は、比較的整備されており、遠くに微かに光が見えるような、なんとなく安全そうな雰囲気。一方、左の道は、いかにもな感じで薄暗く、嫌な瘴気が漂ってくるような、見るからに危険な道アル。

「よし、ここは安全策をとって右へ…」

俺がそう判断し、右の道へ一歩踏み出そうとした、まさにその瞬間だった!

《ユニークスキル:絶対安全拒否【セーフティ・リジェクション】が発動しました。よりスリリングな選択肢が自動的に選択されます》

「ええええ!?ちょ、ま…アル!?」

俺の身体が、意思とは無関係にギュルンと左を向き、危険な道へと足を踏み出してしまったのだ!

「うおおおお!?勝手に身体がーーーっアル!」

「ユート殿?何ヲ騒イデイル」フェンが怪訝な顔で振り返る。

「ポヨンちゃん、しっかり捕まってろアル!なんかもう色々ダメそうアル!」

俺は半泣きで叫びながら、明らかにヤバそうな道を進むしかなかった。

『S.A.G.E.より進路予測:現在のルートは、高確率で敵性存在との遭遇、または危険なトラップ地帯へと繋がっている可能性98.2%。マスターの生存本能とユニークスキルが壮絶な綱引きを演じている模様アル。実に興味深いサンプルアル』

「(面白がってる場合かアル!俺の命がかかってるアルぞ!)」

しばらく進むと、古びた木製の立て札が目に入った。何か文字が書かれているアル。

「お、何か情報があるかもしれないアルな…ええと…」

《ユニークスキル:誤変換【ミストランスレート】が発動しました!》

立て札の文字が、俺の脳内で独特に変換される。

『この先、歓迎!美味なる木の実と、心安らぐ温泉郷!旅人よ、しばし羽を伸ばすがよい!(親切な地元住民より)』

「おおっ!マジアルか!?こんな危険そうな道の先に、温泉郷が!?」

俺の顔がパッと明るくなる。

「どうしたアルか、ユート殿。そんな立て札に何が…」

「フェン!この先に温泉郷があるらしいアル!美味い木の実もあるって書いてあるアルぞ!」

「温泉郷…?馬鹿ナ。コノ瘴気漂ウ森ニ、ソンナ場所ガ…」

フェンは訝しげだが、俺はもう温泉と美味いもの(そしてあわよくば胃薬)のことで頭がいっぱいアル!

「行くぞフェン、ポヨンちゃん!目指すは楽園アル!」

『S.A.G.E.より警告:マスターの【ミストランスレート】が致命的な誤読を誘発中アル。実際の立て札の内容は『この先、危険!食人植物と、猛毒の沼地帯!旅人よ、決して足を踏み入れるな!(かつての犠牲者より)』である可能性が極めて高いアル。繰り返す、これは罠アル!』

「(何を言ってるアルかS.A.G.E.!温泉郷アルぞ!お前もたまには休めアル!)」

俺はS.A.G.E.の警告を完全にスルーし、意気揚々と「温泉郷」への道を進んだ。…もちろん、その先にはお約束通り、巨大な食人植物(口から消化液を滴らせている)と、ブクブクと不気味な泡を立てる猛毒の沼が広がっていたアル…。

「話が違うアルうううううううううう!!」

俺の絶叫が、瘴気の森に虚しく響き渡った。

その頃、エルミナたちが遭難している巨大発光キノコの森では、人類(?)の叡智と勇気、そして胃袋の限界を試す「異世界まだらキノコ・チャレンジ」の火蓋が切って落とされようとしていた。

強烈な異臭を放つ、真っ黒焦げの「まだらキノコの蒸し焼き」。

「…では、私がまず一口」エルミナが、意を決したように震える手で一切れをつまむ。

「お、お嬢様!?」ギンジが目を見開く。

「リーダーが率先して毒見をせねば、皆が不安でしょう。それに…もう、背に腹は代えられませんわ」

エルミナは覚悟を決め、真っ黒な物体を口に放り込んだ。

「…………っ!!!」

次の瞬間、エルミナの美しい顔が、かつてないほど複雑怪奇に歪んだ。言葉にならない表情で喉を押さえ、プルプルと震え始める。

「エ、エルミナさん!?大丈夫!?」フレアが駆け寄る。

「こ、これは……形容しがたい…味…!まるで…古タイヤと腐った魚と泥を混ぜて焦がしたような…そ、それに…舌が…痺れて…あ、頭が…クラクラと…」

エルミナはそう言うと、バタリとその場に倒れ込んでしまった!

「エルミナ様ーーーっ!!」

「やはりダメだったかこのキノコ!クルトの旦那、てめえのセンサーはやっぱりポンコツじゃねえか!」ギンジがクルトに掴みかからんばかりの勢いだ。

「ま、待て!僕のセンサーは98.5%食用可能と…!あるいは調理法が…それか、エルミナ君の体質に合わなかっただけかもしれない!僕が試せばあるいは…!」

クルトが、残りの黒焦げキノコに手を伸ばそうとした、その時だった。

倒れていたエルミナが、むくりと起き上がった。その目は虚ろで、焦点が合っていない。そして、おもむろに歌い出したのだ。

「♪キノコ~キノコ~ま~だらなキノコ~ た~べればハッピーゆ~とぴあ~ ふわふわ~くらくら~ここ~はどこ~?」

「「「エルミナ様が壊れたあああああああああ!!!」」」

ギンジとフレアの絶叫が、不気味な森に響き渡る。どうやら、あのキノコはクルトのセンサーが(ある意味)正確に予測した通り、強烈な幻覚作用(幸福感とは言い難いが)をもたらすものだったらしい。

リーダーがポンコツ化(一時的)したエルミナ一行のサバイバルは、ますます混迷を深めるのだった。

ユートピア村(仮称)では、その日も平和な時間が流れていた。

リリアナは、子供たちを集めて、ユートが以前ポンコツスキルで召喚した「巨大どら焼き」の絵を描かせていた。

「勇者様はね、みんなを笑顔にするために、あんなに大きくて甘いお菓子を出してくださったのよ!」

(実際は黒水晶の祭壇が変質したもので、甘いかどうかは不明だが、子供たちの夢を壊す必要はない)

その横では、バルガスが村の若者たちと槍の訓練に励んでいる。

「勇者様やエルミナ様がご不在の今こそ、我々が村を守る力をつけねばならん!気合を入れろ!」

彼らの額には汗が光り、村を守るという強い意志が感じられた。

ルルナは、新たに調合した「ちょっぴり元気になるハーブティー(ただし飲むと猫の鳴き真似をしたくなる副作用あり)」をイモグラーンに試飲させており、イモグラーンは「これは滋養がつくニャー」と満足げに喉を鳴らしていた。

村の日常は、小さなポンコツ要素をスパイスに加えながらも、着実に前へ進んでいるのだった。

そして、食人植物と毒沼地帯に迷い込んだ俺、ユートは――。

「うわああ!助けてアル、フェーン!なんかネバネバした触手に絡まれたアル!」

「自業自得ダ、ピンクノ勇者メ。仕方アルマイ…」

フェンは深いため息をつきながらも(なぜかフェンまで「アルマイ」とか言い出したアル!?)、巨大な食人植物の触手を噛み切り、俺を助け出してくれた。

「はあ、はあ…死ぬかと思ったアル…やっぱりS.A.G.E.の言うことを聞くべきだったアル…」

『S.A.G.E.より忠告:マスターのユニークスキルは、時にマスターの生命を著しく脅かすアル。学習能力の向上を推奨するアル。ちなみにフェン氏の語尾変化は、マスターの『愛と癒しのラブリーピンクオーラ(覚醒Ver.)』の言語転写副作用が、高位精霊獣である彼にも限定的に影響した結果と推測されるアル。おめでとうございます、マスター。これであなた方は『チーム・アルアル』ですアル』

「(全然嬉しくないアルそのチーム名!というか副作用広まってるじゃねえかアル!)」

俺の胃痛は、もはや限界突破しそうだった。

そして、俺たちが食人植物地帯をなんとか抜け出した先で見たものは――おびただしい数の黒装束の者たちが蠢く、禍々しい雰囲気の野営地だった。

「こ、これは…ザルグザスの…アジトの一角アルか!?」

どうやら俺のポンコツスキルどもは、最悪の形で俺たちを敵地のド真ん中へと導いてしまったらしいアル…。

ポンコツ勇者、ユニークスキル大暴走で敵地潜入(強制)!エルミナ様、幻覚の彼方で新たな境地へ(行ってよし)!?村は今日も平和とポンコツが共存!次回、絶体絶命の状況で奇跡は起きる…のかアル!?

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