喋る狼はもふもふアルか? ポンコツ勇者、新(?)仲間と契約し、エルミナ様ご一行はキノコと格闘(物理)~
夜のしじま。焚火の心もとない光が揺れる中、俺、ユートは目の前に横たわる巨大な狼と向き合っていたアル。ポヨンちゃんは、最初こそ驚いていたものの、今では興味深そうに狼の顔を覗き込んでいる。
「…ミツケタ……『ピンクノ…ヒカリ』……タスケテ…クレ…」
狼は、途切れ途切れにそう繰り返しているアル。全身の毛はところどころ焼け焦げ、深い傷からは血が滲んでいる。尋常な状態でないことは明らかアル。
「喋る狼…って、マジアルか…? S.A.G.E.、こいつ、何者アルか?」
『S.A.G.E.より個体分析:対象はイヌ科オオカミ属に酷似した形態を持つが、体内に微弱ながらも高密度の魔力循環を確認。通常種ではない。おそらくは『精霊獣』またはそれに類する高位存在の幼体、あるいは何らかの要因で弱体化した個体と推測されるアル。言語能力の保有も、その仮説を裏付けるアル』
「精霊獣…ねえ…」
つまり、ただの狼じゃないってことアルな。
「ゆーとしゃま、わんわん、いたいいたいの?」
ポヨンちゃんが、狼の傷口を心配そうに指さす。
「ああ、そうみたいアルな…。よし、応急処置だけでもするアルか」
俺は懐から、ルルナがくれた特製回復軟膏(まだ少し残っていた)と、道中で手に入れた清潔な布を取り出した。そして、例の『愛と癒しのラブリーピンクオーラ(覚醒Ver.)』を、今度は意識的に、ふわりと狼の身体を包むように発動させたアル。
「(頼むぞ俺のポンコツオーラ…!今度こそ、ちゃんと癒し効果を発揮してくれアル…!)」
ピンク色のオーラが狼の傷に触れると、ジュワリと微かな音を立て、傷口がゆっくりと塞がっていくのが見えた。狼の苦しげだった呼吸も、少しずつ穏やかになっていく。
「おお…効いてるアルか…?」
狼は、驚いたように目を見開き、俺の顔と、自分を包むピンクの光を交互に見つめている。そして、やがて深いため息をつくと、おもむろに頭を下げた。
「…感謝…スル……ピンクノ…勇者……」
「(勇者はともかく、ピンクのは余計アル…!)い、いや、大したことじゃないアル。それより、お前、なんで俺の『ピンクの光』を知ってるアルか?それに、誰にやられたアルか?」
狼はゆっくりと顔を上げ、話し始めた。
「我ハ…森ノ守護者…『銀狼』ノ一族…名はフェン。ザルグザス…歪みノ使徒…奴等ニ…我ガ同胞タチハ…」
フェンと名乗った銀狼は、ザルグザス一派に同胞を襲われ、自身も深手を負いながら逃げる途中、かつて遠目に見たことがある(らしい)俺の「ピンクの光」の気配を微かに感じ取り、最後の望みを託してここまで辿り着いたのだという。
「そうか…ザルグザスの奴ら、あんな山の上だけじゃなく、森の方でも悪さしてたアルか…許せんヤツらアルな…」
フェンの話を聞き終えた俺は、改めてザルグザス一派への怒りを覚えた。
「フェン、お前の傷はまだ完全じゃないアル。今夜はここで休むヨロシ。俺たちも野宿の予定だったアルからな」
フェンは、少しだけ迷う素振りを見せたが、やがて静かに頷いた。その琥珀色の瞳には、俺への信頼のようなものが宿っている気がしたアル。…気のせいアルか?
一方、エルミナたちが迷い込んだ巨大発光キノコの森。
「くっ…!このキノコ、硬すぎますわ!」
エルミナが杖の一撃を巨大な傘の部分に叩き込むが、キノコはブヨンと揺れるだけでびくともしない。一行は、あの後、比較的安全そうな洞窟を見つけ、そこを拠点に食料調達を試みていたのだが、この森の植物はどれもこれも一筋縄ではいかなかった。
フレアが放った矢も、キノコの傘に弾かれ、ギンジが短剣で切りつけても浅い傷しかつかない。
「ちくしょう…!見た目は美味そう(か?)なのによぉ!こいつら、本当に食えるのか!?」
ギンジが毒づく。
「クルト!あなたのその怪しげなセンサーで、食べられるキノコと毒キノコの見分けくらいつかないのですか!?」
エルミナが、キノコのサンプルを採取しようと(やっぱり)しているクルトに詰め寄る。
「ふむ!我が『食用・有毒物質識別センサー(試作品・ただし調味料と猛毒を間違える確率23.5%)』によれば…この赤い斑点のあるキノコは、おそらく…猛烈な下剤効果と共に、一時的に幸福感をもたらす幻覚作用がある、と出ているな!」
「「「それ、絶対ダメなやつだ(ですわ)!!!」」」
エルミナとフレアの絶叫が響く。
「もうやだー!お腹すいたー!普通のパンが食べたいー!」フレアがその場に座り込んで泣き出してしまった。エルミナも、空腹と疲労、そしてクルトのポンコツ発明品への対応で、精神的に限界が近づいていた。
「(ああ…なぜでしょう…ユートの作る、あの奇妙な色のナポリタンや、やたらと甘いだけの巨大どら焼きが、今なら神の食べ物に思えますわ…)」
エルミナは、無意識のうちに、ポンコツ勇者の存在を求めていた。
その頃、ユートピア村(仮称)では――。
日中の喧騒が嘘のように静まり返り、家々からは温かな食卓の灯りが漏れていた。村の広場では、バルガスの妻マーサが、村の子供たちを集めて昔話を読み聞かせている。
「…そして、勇敢な光の騎士は、賢者のアルパカと共に、暗黒竜を打ち倒し、お姫様を救い出しましたとさ…」
子供たちは目を輝かせて聞き入り、時折、自分たちの村の勇者様はどうしているだろう、と囁き合う。
見張り台の上では、リリアナとバルガスが、交代で周囲の警戒にあたっていた。
「しかし、勇者様もエルミナ様たちも、何の連絡もないとは…心配ですわね」
リリアナが不安げに呟く。
「ああ…。だが、俺たちは信じるしかねえ。勇者様たちの力を。そして、俺たちは、この村をしっかり守り抜く。それが、俺たちに残された者の務めだ」
バルガスの力強い言葉に、リリアナも頷く。
村の片隅にある、ルルナの小さな薬草小屋では、彼女が夜遅くまで薬草の調合を続けていた。その傍らには、イモグラーンが差し入れたであろう、ふかしたての巨大サツマイモが湯気を立てている。彼女は、仲間たちの無事を祈りながら、いつ彼らが帰ってきてもいいように、ポーションや軟膏の準備を怠らなかった。
村は、静かに、しかし確かに、彼らの帰りを待ちながら、日々の営みを続けていた。その営みの一つ一つが、村の新たな歴史を紡ぎ、ささやかながらも確かな発展の礎となっていた。
夜が明け、俺とポヨンちゃん、そして一夜を共にした(語弊があるアルな)銀狼フェンは、旅の準備を整えていたアル。フェンの傷は、俺のオーラとルルナの軟膏、そして彼自身の治癒力のおかげで、驚くほど回復していた。
「ピンクノ勇者…ユート殿ト言ッタカ。世話ニナッタ。コノ恩ハ忘レン」
「気にするなアル、フェン。それより、お前、これからどうするアルか?」
「我ハ…同胞ノ仇ヲ討チ、残ッタ仲間ヲ探サネバナラヌ。ザルグザス…奴ノ本拠地ハ、おそらく、アノ『歪みノ山』…」
フェンが指し示したのは、奇しくもS.A.G.E.がエルミナたちのいる可能性を示唆した南南東の方角だったアル。
「! それって、もしかして、俺の仲間たちもそっちにいるかもしれないアル!」
「何? ユート殿ノ仲間モ…?」
これは偶然アルか、それとも運命のいたずらアルか。
「よし、フェン!俺たちと一緒に行こうアル!目的は違えど、向かう方向は同じアル!それに、お前がいれば心強いアル!」
「…フン。足手マトイニハナルナヨ、人間」
フェンはぶっきらぼうにそう言ったが、その琥珀色の瞳は、どこか優しくなったように見えた。もしかして、もふもふさせてくれるアルか…?
こうして、ポンコツ勇者(語尾:アル)と純真幼女と喋る銀狼という、なんともカオスなパーティが、新たな目的地へと向かうことになったのだった。
ポンコツ勇者、もふもふな(かもしれない)仲間をゲット!エルミナ様ご一行、キノコとの死闘(主に精神的な)は続く!そして村は今日も平和!次回、珍道中とサバイバルの交差点で何が起こるアルか!?