愛の力(笑)と魅惑の神仙丹~アル!~ ポンコツ勇者、副作用に悶え、仲間は秘境でサバイバル生活(開始)~
交易都市ミツバの片隅。
セシルの太陽のような笑顔に触発されたのか、俺の身体から迸るピンク色の炎のようなオーラは、かつてないほどの輝きを放っていた。目の前の薬草採りの老人は、顎の皺をさらに深くして「おお…!まさしく『愛』の輝き…!これは長年の腰痛も吹き飛ぶやもしれんのう!」と感嘆の声を上げている。ポヨンちゃんは「ゆーとしゃま、ぴかぴかー!あったかーい!」と無邪気に俺の足に抱きついている。
「(いや、愛とか言われても、俺にはサッパリ…!でも、エルミナたちがヤバイってのは分かる!早くしないと!)」
「じいさん!早く!治療でも何でもするから、薬を!」
「うむ、落ち着けい、若いの。では、お言葉に甘えて…」
老人はそう言うと、おもむろに俺に背を向け、自分の腰をトントンと叩いた。
「ここじゃよ、ここ。長年、薬草を求めて山野を駆け巡ったツケがな…」
俺は意を決し、燃え盛るようなピンクオーラを纏ったまま、老人の腰にそっと手をかざした。オーラが老人の身体に流れ込むと、老人は「おおおぉぉ…!こ、これは…!腰が…腰がポカポカと…まるで生まれたての赤子のように軽いアルっ!?」と、なぜか途中から片言のような言葉を発し始めた。って、アル!?
『S.A.G.E.よりスキル効果報告:マスターの『愛と癒しのラブリーピンクオーラ(覚醒Ver.)』による治療効果を確認。対象の老人の慢性腰痛が大幅に改善。副次効果として、マスターのオーラに含まれる謎の言語情報(ポンコツ多元宇宙由来の可能性)が対象に微量転写され、一時的な言語変容を誘発した模様』
「(俺のオーラのせいかよ!というか、何その怖い副次効果!)」
治療(?)を終えると、老人は感極まった様子で俺の手を握り、「お主は神か仏か、はたまた愛の伝道師か!このご恩は忘れんアル!約束通り、月影草三本と、わし秘蔵の『神仙丹』じゃ!持っていくといいアル!」と、月影草と小さな丸薬の入った壺を俺に手渡した。
「あ、ありがとう…じいさん…」
俺はそれらを受け取り、早速神仙丹を一粒、口に放り込んだ。胃痛が少しでも和らげば、と。薬はほんのり甘く、すぐにスーッと胃の不快感が引いていくのを感じた。これは効く!
「…これで、ようやく落ち着いて行動できる…アル?」
「「「アル!?」」」
俺の口から自然と飛び出した「アル」という語尾に、セシルとポヨンちゃん、そしてS.A.G.E.(の念話)が見事にハモった。
嘘だろ…?神仙丹の副作用って、これかよ!?
『S.A.G.E.より薬効分析:『神仙丹』、即効性の健胃効果は絶大。ただし、含有される特殊な古代薬草成分が、服用者の言語中枢に一時的なバグを発生させ、特定の語尾(今回は「~アル」)を強制付加する副作用を確認。持続時間は約半日と予測されるアル』
「(お前までアルとか言うな!というか半日もこのままなのかよ俺の威厳がマッハで崩壊するアル!)」
俺の心の叫びは、誰にも届かない。
一方その頃、クルトの『緊急脱出ポッド(仮)』によって、ザルグザスの魔の手から辛くも逃れたエルミナ、フレア、ギンジ、そしてクルトの四人は、凄まじい衝撃と共に、どこかの地面に叩きつけられていた。
「ぐっ…!うぅ……ここは…?」
最初に意識を取り戻したのはエルミナだった。全身を打った痛みに顔を顰めながら周囲を見渡すと、そこは見たこともない光景が広がっていた。
空は分厚い紫色の雲に覆われ、巨大な、発光するキノコが木々のように林立し、その合間を縫うようにして奇妙な鳴き声の生物たちが飛び交っている。空気は湿り気を帯び、甘ったるいような、それでいてどこか腐臭にも似た独特の匂いが漂っていた。
「…なんですか、ここは…まるで…異世界…いえ、世界の深淵にでも迷い込んだようですわ…」
フレアも呻きながら起き上がり、その光景に息を呑む。
「うわー…なにこれ…チョーきもいんですけどー…」
ギンジは肩の傷を押さえながら、苦悶の表情で周囲を警戒する。
「おいおい…とんでもねえ場所に来ちまったみてえだな…クルトの旦那、てめえのポンコツ発明のせいで…!」
「成功だ!我が『緊急脱出ポッド(仮)』は完璧に作動したぞ!」
当のクルトは、一人だけケロッとした顔で立ち上がり、興奮気味に叫んだ。
「この未知なる環境!この生態系!素晴らしい!実に素晴らしい研究サンプルだ!これは徹底的に調査しなければ!」
「「「この状況で何を言ってるんだ(ですの)!!!」」」
三人の怒声が、クルトに叩きつけられた。
ミツバの街。
俺は「~アル」という奇妙な語尾と格闘しつつ、セシルに月影草を手渡した。
「セシル、これがお母さんの薬アル。早く持って帰ってあげるヨロシ」
「ゆーとさん…本当に、本当にありがとう…ございます…!」
セシルは涙ぐみながら月影草を受け取り、深々と頭を下げた。その姿に、俺のポンコツハートがキュンとなるのを感じたが、今はそれどころではないアル。
「それで、セシルのお母さんはどこにいるアルか?俺も一緒に行った方がいいアルか?」
「ううん、大丈夫。ここから森の入り口までは分かるから…。お母さん、きっと喜ぶ…!」
セシルはそう言うと、名残惜しそうにしながらも、森の方へと駆け出していった。その小さな背中を見送りながら、俺は深くため息をついた…アル。
「さて、と…問題はエルミナたちアルな…S.A.G.E.、あいつらの居場所、分かるアルか?」
『S.A.G.E.より報告:クルト氏の空間転移ポッドは、予測不能なランダム座標への転移を特性とするため、現在の正確な位置特定は困難アル。ただし、転移時に発生した微弱な時空震を追跡した結果、おおよその方角と距離は算出可能アル。南南東、約三百キロメートルの地点に、強い空間の歪みが観測されているアル』
「南南東に三百キロ…って、結構遠いアルな…しかも空間の歪みって、穏やかじゃないアル…」
ポヨンちゃんが、俺の服の裾をくいっと引っ張る。
「ゆーとしゃま、みんな、だいじょぶ?」
「…ああ、大丈夫アル。きっと、多分、おそらく…大丈夫だと信じたいアル…」
俺はポヨンちゃんの頭を撫でながら、決意を固めた。
「よし!こうなったら仕方ないアル!俺が助けに行くしかないアルな!」
ポンコツ勇者、ここに再起。たとえ語尾がアレでも、仲間を助けに行くのに理由はいらない…はずアル!
その頃、謎の秘境に飛ばされたエルミナたちは、最初の試練に直面していた。
「…グルルルルルル…」
巨大な発光キノコの影から、涎を垂らし、鋭い牙を剥き出しにした、カマキリと狼を合体させたような不気味な魔獣が、複数体姿を現したのだ。
「ひぃっ!な、なにあれ!?」フレアが悲鳴を上げる。
エルミナは杖を構え、ギンジも傷を押さえながら短剣を抜く。
「…どうやら、歓迎されている場合ではないようですわね…クルト!何か武器になるような発明品は!?」
「ふむ!こんなこともあろうかと、我が最新作『対不明生物用・超音波混乱スピーカー(試作品・ただし稀に味方も混乱させ、踊り出させるバグあり)』が!」
「「「それは絶対使うな(使うんじゃありません)!!!」」」
エルミナとギンジの悲痛な叫びが、異形の森に木霊した。
果たして、彼らのサバイバル生活は、一体どうなってしまうのだろうか。
(ポンコツ勇者、副作用と戦いながら仲間のもとへ!一方、秘境の仲間たちは新たな脅威とクルトの発明品(主に後者)に戦々恐々!