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ピンクオーラの導き(主に迷惑)、そして山の上の決死行 ~ポンコツ勇者、お使いついでに少女を拾い、仲間は死地へダイブ寸前~


交易都市ミツバの路地裏。チンピラたちが蜘蛛の子を散らすように逃げ去った後には、俺の全身から立ち上る神々しい(しかし効果は微妙な)ピンク色のオーラと、ポカンとした顔で俺を見上げる小さな少女、そして俺の背後で目を白黒させているポヨンちゃん(ニジカ)が残されていた。

「あ、あの…あなたは、もしかして…救いの御使い様…かなにかで…?」

フードの奥から覗く翠色の瞳が、不安と期待の入り混じった色を浮かべている。俺のピンクオーラが、彼女には何か特別なものに見えているらしい。

「いや、だから違うって。俺はユート。ただの通りすがりの…ええと、胃薬を買いに来た者だ」

「いぐすり…?」

少女が小首を傾げる。その仕草は年の頃よりも幼く見え、庇護欲をそそる…なんてことは考えていない。断じて。

『S.A.G.E.より状況報告:マスターの新スキル『愛と癒しのラブリーピンクオーラ』の副次効果「この人、いい人かも…?」が対象少女に強く作用中。警戒心が著しく低下し、親愛度が初期値としては異常なレベルで上昇。マスターの『無自覚ハーレム体質(EXランク)』との相乗効果で、新たなフラグが乱立する可能性68.9%』

「(だからそのEXランクって何なんだよ!あとハーレムとかそういうのいいから!俺は平穏が欲しいんだって!)えっと、君、名前は?なんであんな奴らに追われてたんだ?」

俺が尋ねると、少女はビクリと肩を震わせ、俯いてしまった。

「…セシル…わたしの名前は、セシル…。あの人たちは…わたしを…『商品』にしようと…」

か細い声で語られる事実に、俺は再び眉を顰める。やはり、人身売買か何かだろうか。この街も、見た目の活気とは裏腹に闇が深いのかもしれない。

「ゆーとしゃま、このこ、おなか、すいてるみたい」

ポヨンちゃんが、セシルの小さなお腹を指さして言う。確かに、よく見るとセシルは痩せていて、服も所々汚れている。

「…そうか。よし、セシル。とりあえず何か食いに行こう。話はそれからでもいい」

「え…でも…」

「遠慮すんなって。俺も腹減ったしな。ポヨンちゃんもだろ?」

「うん!あめちゃんたべたい!」

「それは後でな」

俺はセシルの小さな手を引き(自然な流れで、決して下心はない)、賑やかな大通りへと戻った。ピンクオーラはいつの間にか消えていたが、なぜか道行く人々が俺にやたらと親切な笑顔を向けてくる気がする。すれ違いざまに「あら、なんだか福々しいお方…」「見ているだけで心が洗われるようだわ…」みたいなヒソヒソ声も聞こえてくる。ラブリーピンクオーラの残滓効果か?だとしたら迷惑極まりない。

一方その頃、ユートピア村(仮称)から北西へ数時間。龍の寝床山へと続く険しい山道。

エルミナ、クルト、そしてフレアの三人は、息を潜めながら慎重に進んでいた。

「…この辺りから、瘴気の濃度が微かに上がっているわね。ギンジの狼煙は、あの尾根の向こうのはず…!」

エルミナが鋭い目で前方を指さす。その美しい顔には、疲労と緊張が色濃く浮かんでいた。

フレアは弓に矢をつがえ、周囲を警戒している。

「ねえエルミナ、本当に大丈夫かな、ギンジさん…。あんな狼煙上げるなんて、よっぽどのことだよ?」

「ええ。だからこそ、急ぐ必要がある。クルト、例の『対異次元生命体探知機能付きソナー(改良版)』の反応は?」

クルトは、前回風呂場で大惨事を引き起こしたソナーの改良版らしきものを片手に、険しい顔で唸っている。

「ダメだ!瘴気が強すぎるのか、あるいは敵が何らかの妨害フィールドを展開しているのか…ノイズばかりで使い物にならん!やはり、我が輩の肉眼と経験、そしてこの『超高感度異次元歪曲探知ゴーグル(試作品・たまに存在しないものまで見える)』に頼るしかないようだな!」

そう言って彼が取り出したのは、レンズが七色に明滅する、どう見ても怪しさ満点のゴーグルだった。エルミナは深いため息をつき、フレアは「うわー、またヤバそうなの出てきたー」と顔を引きつらせる。この男を連れてきたのは正しかったのか、エルミナは早くも後悔し始めていた。

『S.A.G.E.(ユートの意識内通信経由でエルミナたちの状況を限定的にモニター中):エルミナ嬢の戦術判断は合理的だが、クルト氏のポンコツ発明品が作戦成功確率を常に±50%の範囲で揺るがすことを考慮すると、予断を許さない状況と言える。マスター、君が今頃のんびり少女とパンでも齧っているかと思うと、AIながら同情を禁じ得ない』

「(やかましいわ!俺だって好きでこんな状況になってるわけじゃない!大体なんでエルミナたちの状況が分かるんだよお前!)」

『特定の条件下において、マスターと深いつながりのある対象者の情報を限定的に取得可能です。詳細は機密事項(マスターの脳内キャパシティでは理解不能)です』

「(便利なのか不便なのか分からん機能つけやがって…!)」

俺がS.A.G.E.と不毛な念話バトルを繰り広げている間にも、ミツバの街では新たな展開が待っていた。

俺たちは、比較的清潔そうな食堂を見つけ、そこで遅い昼食をとることにした。セシルは最初は遠慮していたが、温かいスープと焼きたてのパンを出すと、夢中になって食べ始めた。その姿は、見ていて胸が締め付けられる。ポヨンちゃんも、子供用の甘いミルク粥を美味しそうに頬張っていた。

「それで、セシル。君はどこから来たんだ?家族は?」

俺が尋ねると、セシルはパンを食べる手を止め、小さな声で答えた。

「…わたし…『北の森の民』…。おかあさんは…病気で…。薬を…薬を探しに、一人で街まで…」

「北の森の民?薬…?」

その言葉に、俺はピンときた。この街、ミツバは街道沿いにあるが、その北側には広大な森林地帯が広がっていると聞く。

「もしかして、君が探している薬って、特殊な薬草とかを使うものか?」

「うん…。『月影草』っていう、夜にだけ光る草が必要だって…おかあさんが…」

月影草。聞いたことがない名前だが、いかにもファンタジーなアイテムだ。

『S.A.G.E.よりデータベース検索:『月影草』。特定の条件下でのみ発光する希少薬草。解毒作用、鎮静作用、魔力回復効果が確認されている。主に高山や洞窟の奥など、人里離れた場所に自生。ミツバの市場に出回ることは稀で、高額で取引される』

「(やっぱりレアアイテムかよ…)なあセシル、その月影草って、どこで手に入るか心当たりは?」

「街の大きな薬屋さんに聞いたら…『そんなものはない』って言われた…それで、どうしようかと思ってたら、あの人たちが…『いい薬を知ってる』って…」

どうやら、チンピラどもは薬を探すセシルに目をつけて騙そうとしたらしい。卑劣な奴らだ。

「そうか…大変だったな」俺はセシルの頭をそっと撫でた。「よし、その月影草、俺も一緒に探してやるよ。俺も薬を探しに来た身だしな」

「え…ほんと…?でも…」

「いいってことよ。な、ポヨンちゃん」

「うん!ゆーとしゃま、やさしー!」

「(いや、俺は胃薬が欲しいだけなんだが…なぜか大事になってる…)」

セシルの顔が、パッと明るくなる。その笑顔は、さっきまでの怯えた表情が嘘のように輝いて見えた。

まずい、これは完全に懐かれたパターンだ。

食事を終え、俺たちはセシルの案内で、街で一番大きな薬屋だという店に向かった。しかし、そこでも月影草は見つからない。何軒か他の薬屋も回ったが、結果は同じだった。

「(やっぱり、そう簡単には見つからないか…俺の胃薬も普通のやつならあるけど、どうせならS.A.G.E.推奨の高濃度タイプが欲しいしな…)」

途方に暮れかけたその時だった。

「おやおや、月影草をお探しですかな?それも、純度の高いものを」

不意に、背後から老人の声がした。

振り返ると、そこには薬草の入った籠を背負い、フードを目深にかぶった小柄な老人が立っていた。いかにも「曰く付きのアイテムを売ってそう」な雰囲気だ。

「あ、あなたは…?」

「わしは、ただの薬草採りじゃよ。月影草なら、少しばかりなら融通できますぞ。ただし…ちとばかり値が張りますがのう。それと、お若いのに珍しいオーラをまとっておられる。もしかして、何か特別な『癒し』の力をお持ちかな?」

老人は、俺の全身を値踏みするように見つめ、意味深に微笑んだ。

「(うわー、出たよこういう展開!ラブリーピンクオーラ、変なところで注目されてるじゃねえか!)」

俺の胃痛が、また一段と強くなった気がした。

その頃、龍の寝床山では――。

エルミナ、クルト、フレアの三人は、ついにギンジが狼煙を上げたと思われる尾根へとたどり着いていた。

そこには、激しい戦闘の痕跡があった。数本の矢が地面に突き刺さり、木々には斬撃の跡が残っている。そして、岩陰には…

「ギンジさんっ!」

フレアが悲鳴に近い声を上げる。

ギンジは、肩から血を流し、岩にぐったりともたれかかっていた。幸い、意識はあるようだ。

「よぉ…エルミナの嬢ちゃんたちか…思ったより早かったな…ゲホッ」

「ギンジ!しっかりして!一体何があったの!?」

エルミナが駆け寄り、持っていた回復ポーションをギンジに飲ませる。

ギンジは顔を歪めながらも、尾根の向こうを指さした。

「…敵だ…思ったより、数が…多い…。それに…あれは…まずいぜ…」

三人がギンジの指さす方向――山の頂上付近を見やると、そこには信じられない光景が広がっていた。

黒い装束の者たちが、何十人も集結し、巨大などら焼き(あるいは大山岩)の周囲で、何か不気味な儀式のようなものを行っている。そして、その中心部、どら焼きの真上には、空間が陽炎のように揺らめき、黒紫色の亀裂が、まるで空に開いた傷口のように、ゆっくりと広がろうとしていたのだ。

「あれは…『歪みの門』…!まさか、本当に開こうとしているというの!?」

エルミナの顔から血の気が引いた。クルトも「おお…!これが異次元へのゲート…!なんと冒涜的で…素晴らしい光景だ!」と不謹慎にも目を輝かせている。

フレアは、その不気味な光景と敵の数に、ただ立ち尽くすしかなかった。

そして、儀式を行っている集団の中から、ひときわ大きな影が姿を現す。

その影は、ゆっくりとこちらを向き、禍々しい赤い双眸を光らせた。

「――招かれざる客には、相応の歓迎をせねばな」

重く、冷たい声が、山頂から響き渡った。

ポンコツ勇者、胃薬とレア薬草探しのフラグが同時進行!一方、仲間たちは絶体絶命の大ピンチ!どうするユート、どうなるエルミナ!?次回、胃が痛すぎて乞うご期待!

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