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黒水晶とナポリタン、そしてどら焼き狂想曲 ~ポンコツ勇者、ご当地グルメで世界を救う(かもしれない)~

龍の寝床山頂での激闘、その結末やいかに!?そしてポンコツ勇者のスキルは、またしても我々の想像の斜め上を行くのか!?


「おのれ…おのれおのれおのれぇぇぇ!この私が…こんな…こんなふざけたナポリタンごときにぃぃぃ!」

魔界風・熱々鉄板ナポリタン・ギガントマウンテン盛り(漆黒イカスミ麺・不気味な紫色ブルーベリー風味デミグラスソース・目玉キノコと触手謎肉と大量ラッキョウのみじん切り入り)に頭からまみれ、その威厳も誇りもケチャップ(のような何か)と共に地面に叩きつけられた魔神族風戦士ヴァルザスは、屈辱と怒りにその巨体をブルブルと震わせていた。

その隣では、昆虫型暗殺者キリシェが、相棒のあまりの惨状と、周囲に漂う甘酸っぱくも刺激的なラッキョウ臭に、その複眼を白黒させて完全にフリーズしている。

「(俺はただ、美味いナポリタンが腹いっぱい食いたかっただけなんだ…!なんでこんな、見た目も匂いも完全に放送コードギリギリアウトな代物が召喚されちまうんだよ…!しかも敵にぶちまけるとか、もはやただの嫌がらせじゃねえか!)」

俺――ユートは、自分のポンコツスキルがまたしても引き起こしたカオスな状況に、もはやツッコミを入れる気力すら失いかけていた。

「今ですわ!ヴァルザスの動きが鈍り、キリシェも混乱している!一気に畳みかけます!」

エルミナが、いち早く我に返り、鋭い指示を飛ばす。その白いローブの肩口は、先ほどのキリシェの攻撃で浅く切り裂かれ、白い肌が覗いているが、そんなことなど気にも留めない様子で、杖を構え直した。

「おうよ!あのナポリタン野郎、今度こそミンチにしてやるぜ!」ギンジが短剣を逆手に持ち、地を蹴る。

「リリアナ殿、援護します!」エルミナも強力な光の魔法をヴァルザスめがけて放つ。

リリアナさんも、聖なる力を剣に込め、ナポリタンの山から這い出そうともがくヴァルザスに斬りかかった!

しかし、その時だった。

「ヴァルザス様…今こそ…『主』の御力を…この歪みきった祭壇の真の力を、我らに!」

キリシェが、それまで沈黙を守っていた巨大な黒水晶――「歪みの祭壇」――に、その鋭利なカマのような腕の一本を、ブスリと深々と突き刺したのだ!

次の瞬間、黒水晶が、まるで生きているかのように禍々しい赤い光を激しく放ち始め、ドクン、ドクンと不気味な脈動を開始した。そして、ヴァルザスとキリシェの体に、その黒水晶から溢れ出す闇のエネルギーが、まるで黒い血管のように流れ込み始めた!

二体の魔物の傷は瞬く間に癒え、その全身から放たれるオーラは、先ほどとは比較にならないほど、絶望的に増大していく!ヴァルザスの魔剣は血のような赤い輝きをさらに増し、キリシェの刃は空間そのものを切り裂くほどの鋭さを帯び始めた。

「まずいですわ…!」エルミナが顔面蒼白になって叫んだ。「あの黒水晶、瘴気を生み出すだけでなく、彼らに無限に力を供給し、強化する能力まで持っているようです!あれを破壊しない限り、ヴァルザスとキリシェは、何度でも再生し、さらに強力になってしまう…!」

村に残ったクルトの声が、通信機(ユートの頭の上のスズメバチ君1号が受信機能も兼ねているらしい)越しに、悲鳴のように響く。

『エルミナ先生!ユート君!センサーの数値が振り切れていますぞ!山頂の黒水晶を中心に、この龍の寝床全体が、巨大な「負のエネルギー永久機関」として機能し始めているようです!このまま放置すれば、ミクストピア全土に、あの「歪みの化身」クラスの、いや、それ以上の規模の災厄が解き放たれてしまいますぞ!阻止できる猶予は…おそらく、あと10分もありません!』

「(嘘だろ…せっかく鉄板ナポリタンで一時休戦ムード(?)かと思ったら、余計に敵を本気でパワーアップさせちまったってのかよ!?俺のポンコツスキル、本当に、本当にいい加減にしてくれぇぇぇ!)」

俺の心は、もはや絶望という名のナポリタンソースでぐちゃぐちゃだった。

パワーアップしたヴァルザスは、その巨体を覆っていたナポリタン(の残骸)を邪悪なオーラで吹き飛ばすと、血走った目で俺たちを睨みつけた。

「ククク…ハハハ!礼を言うぞ、異世界の勇者(笑)よ!貴様のおかげで、我らは『主』よりさらなる御力を賜ることができたわ!もはや貴様らに勝ち目はない!この黒き楽園にて、永遠に苦しみ続けるがいい!」

ヴァルザスとキリシェが、先ほどとは比較にならないスピードとパワーで、ギンジとリリアナさんに襲いかかる。二人は必死に応戦するが、その動きは明らかに劣勢。エルミナも強力な魔法で援護しようとするが、黒水晶から放たれる負のエネルギーの奔流が、彼女の魔法をことごとくかき消してしまう。

仲間たちが次々と深手を負い、絶望的な状況に追い詰められていく。

俺は、目の前の光景に、恐怖と無力感で体が震えた。

「(ダメだ…もう終わりだ…俺のせいで、ミクストピアも、そしてきっと、この影響は米子にまで…!せめて、せめて最後に、鳥取の、米子の、あの、どらドラパーク米子(米子市民球場などのある運動公園)で売ってる、ふわっふわの皮にあんこがぎっしり詰まった、あの美味いどら焼きをもう一度…いや、いっそのこと、あの禍々しい黒水晶が、巨大などら焼きにでもなれば、少しは平和な気分で逝けるのに…あるいは、鳥取県民の心の故郷、雄大な大山みたいに、どっしりと構えて動かない、ただのデカい岩になってくれれば、こんな騒ぎも収まるのに…!)」

ポヨンちゃんが、弱々しい声で俺の服の裾を掴む。「ユートお兄ちゃん…諦めちゃ…ダメなの…ポヨンも…最後まで…頑張るから…」ポヨンちゃんの小さな体から、虹色の涙石の最後の力が、まるで祈りのように、ほんのりとユートの体を包み込む。

ユート「ポヨンちゃん…!そうだよな…諦めたら、そこで試合終了だよな…!俺のこの、クソの役にも立たないポンコツスキルが、最後の最後に、とんでもない奇跡を起こすって、俺、心の底から信じてる!(半分以上ヤケクソで、もう何が何だかわからないけど!)」

ユートは、涙石を強く握りしめ、目の前の絶望的なまでに禍々しい黒水晶「歪みの祭壇」と、それを守るヴァルザス、キリシェに向かって、ありったけの郷土愛と食欲と、そして仲間たちへの熱い想い(と、大量のヤケクソ)を込めて、人生最大級の、そしておそらくは最も意味不明な絶叫を上げた!

「うおおおおおおお!こんな禍々しい黒水晶なんて、鳥取県米子市が誇る、どらドラパーク米子のふわっふわの特製巨大どら焼きみたいに、みんなで仲良く美味しく食べられる、平和の象徴に変わっちまえ!いや、それがいやなら、いっそのこと、鳥取県民の心の故郷、日本遺産にも認定された、あの雄大なる大山みたいに、どっしりと微動だにしない、ただのデカい平和な岩になれ!そしてお前ら(ヴァルザスとキリシェのこと)、大山のカラス天狗にでもなって、山頂から米子の平和でも永久に見守ってろぉぉぉ!(郷土愛と食欲と平和への願いと、その他もろもろが頂点に達した、もはやカオスを通り越して宇宙の真理に触れそうな絶叫)」!!!

『ユニークスキル「誤変換」最終奥義(ネーミングはS.A.G.E.が後で考える)、涙石の調和エネルギー及びポヨンちゃんの純粋な想い、そしてマスターの無茶苦茶だが強烈な郷土愛と食欲と平和への渇望が融合し、ついに世界の法則を書き換えるレベルの超絶現象を発動!対象:黒水晶「歪みの祭壇」及びその守護者ヴァルザス、キリシェ。変換プロセス開始…!』

ユートの絶叫と共に、黒水晶「歪みの祭壇」が、これまでにないほど激しい光と、地響きのような振動を発し始めた!そして、その禍々しい黒色が、みるみるうちに…香ばしい焼き色のついた、巨大などら焼き(直径数十メートルはあろうか、中にはぎっしりと北海道産小豆を使用した最高級つぶあんが詰まっているように見えるが、おそらく原材料は魔界の何かで、食べると腹を壊すか、あるいは異世界のグルメ番組で紹介されるレベルの珍味かもしれない)へと、その姿を変え始めたのだ!あるいは、別の可能性としては、みるみるうちに土砂と緑に覆われ、雄大な大山(のミニチュア版だが、それでも十分にデカい。頂上にはなぜか一体のカラス天狗の石像が、険しい顔で米子の方角を見下ろすように鎮座している)へと、その姿を変えようとしていた!

『S.A.G.E.より緊急実況:『誤変換』効果、現在進行形で対象「黒水晶・歪みの祭壇」の存在定義を「負のエネルギー増幅永久機関」から「鳥取県米子市名物(予定)・巨大どら焼き型観光モニュメント(ただし食用は自己責任・周辺には甘い香りが充満)」または「大山信仰・ご神体レプリカ(強力な厄除け及び観光客誘致効果付き・ただしカラス天狗の視線がちょっと怖い)」へと、強制的に、そして物理的に上書き中!同時に、対象に紐付けられていた負のエネルギー供給及び増幅システムを完全かつ永久に遮断!…マスター、君はもはや、世界の理を捻じ曲げるのではなく、自分の好きなように、故郷の観光名所を『ご当地プロデュース』する能力を手に入れたのかもしれんな。素晴らしいぞ、鳥取県観光大使(非公認・ただし超強力)!』

黒水晶からのエネルギー供給を完全に断たれたヴァルザスとキリシェは、その力が急速に失われていくのを感じ、愕然とした表情を浮かべていた。

「ば、馬鹿な…我が力が…『主』から賜ったこの無限の恩寵が…消えていく…!?しかも、なんだこの、抗いがたいほどの甘ったるい匂いと、やけにありがたい山の気配は一体…!?」

二人の体は、急速にその禍々しいオーラを失い、まるで風化するかのように、サラサラと霧散し始め、跡形もなく消滅していく(あるいは、本当にカラス天狗の小さな置物になって、巨大大山岩の山頂にちょこんと残されたのかもしれない)。

黒い瘴気が嘘のように晴れ渡り、龍の寝床山頂には、穏やかな風と、巨大などら焼き(または大山岩)の圧倒的なまでの存在感、そしてほんのりと漂う甘いあんこの香り(または清浄な山の空気)だけが残された。

ギンジとリリアナが、息を切らしながらも駆け寄り、ユートと、彼を支えるエルミナの無事を喜ぶ。ポヨンちゃんも、元気を取り戻したのか、巨大などら焼き(または大山岩)に興味津々で、ペタペタと触り始めている。

エルミナは、もはや言葉もなく、ただユートの顔と、目の前の信じられない光景を交互に見つめている。その瞳には、畏敬と、感謝と、そしてほんの少しの…いや、かなりの量の戸惑いが浮かんでいた。

「(俺、また何か、とんでもないものを、このミクストピア大陸に召喚しちゃった気がする…でも、とりあえず、本当に、今度こそ助かった…のか?)」

ユートは、もはや自分のポンコツスキルが、次に何をしでかすのか、全く予想もつかないという事実に、ある種の悟りを開きかけていた。

しかし、S.A.G.E.が、そこで静かに、しかしどこか不吉な響きを込めて告げた。

『マスター、喜ぶのはまだ早い。黒水晶の消滅(あるいはご当地モニュメントへの変質)により、確かにこの地域の歪みは完全に解消された。だが、その中心部…かつて黒水晶があった場所の、さらにその直下の地中深くから、極めて不安定で、かつ高次元のエネルギー反応を持つ、巨大な『裂け目』のようなものが、新たに形成されつつあるのを感知した。これは…おそらく、ヴァルザスたちの言っていた『主』へと直接繋がる、本物の異次元ゲートだ…』

ユートピア村の危機は去った。しかし、それは、更なる深淵への入り口が、今まさに開かれようとしている瞬間でもあったのだ。

ポンコツ勇者の戦いは、まだ、本当にまだ終わらない。そして、巨大などら焼き(または大山岩)の後始末は、一体誰がするのだろうか!?

次回、ついにこの章のクライマックス(本当に最後か?)!開かれた異次元ゲートの先に待つものとは!?そして、ユートは故郷の平和と、ミクストピアの未来を、今度こそ守り切れるのか!?(胃薬の追加発注を忘れずに!)


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