ユートピア村、最初の住人はイモ!?~踊る野菜と炎の魔法使い(トラブルメーカー)~
大地のヌシ・イモグラーンとのまさかの和解を果たしたユートたち。彼らのユートピア建設計画は、一体どうなるのでしょうか?
推奨レベル90のユニークモンスター「大地のヌシ・イモグラーン」との遭遇戦が、まさかの米子弁による説得と、周囲の野菜たちが奏でる謎の祭囃子によって平和的(?)に解決してから数日。俺――ユートたちのユートピア建設計画は、予想の斜め上を行く形でスタートを切った。
イモグラーンは、意外にも話の分かる(そして寂しがり屋の)ヌシだったらしく、俺たちが作ったカオス農園の一角に、自身の縄張りである広大な「サツマイモ畑(聖域)」を確保することを条件に、俺たちの村作りを(主に地ならしや巨大岩石の除去といった力仕事で)手伝ってくれることになった。時折、地中から掘り出したという珍しい鉱石や、巨大なトリュフ(みたいなキノコ)を差し入れしてくれるのだが、その度に「わしの畑、荒らさんようにな…」と釘を刺してくるのが玉に瑕だ。
そして、俺が前回『誤変換』スキルで召喚してしまったカオス農園の作物たち。
天を突く勢いで育った巨大白ネギは、かじると口から火を噴くほど辛いが、なぜか一時的に身体能力が爆上がりする。バスケットボール大のブロッコリーは、食べると頭が冴え渡り、難解な古代文字もスラスラ読めるようになる気がするが、約3分後には強烈な睡魔に襲われてその場で爆睡してしまう。そして、サンバを踊り狂う二十世紀梨の木から採れる梨は、食べると体が勝手に情熱的なサンバを踊りだし、周囲にいる者も巻き込んでしまうが、食べ終わる頃にはMPが全回復しているという、まさに諸刃の剣ならぬ「諸刃の梨」だった。
これらの作物は、クルトが「副作用さえ制御できれば、とんでもない秘薬になるぞ!」と目を輝かせ、エルミナは「…この世界の食文化の多様性と、ユート様のスキルのカオス性は、底が知れませんわね」と遠い目をしている。
そんな中、俺たちの最初の仲間(人間としては)となってくれたのは、やはりギンジとルルナの兄妹だった。
「こんなに毎日が刺激的で、美味いメシ(副作用付きだが)にありつけて、しかもタダで寝床まで提供してくれるなんざ、最高の楽園じゃねえか。俺も正式に、この村の一員ってやつにならせてもらうぜ、勇者様?」
ギンジは、持ち前のサバイバル知識と手先の器用さで、あっという間に頑丈な丸太小屋を数軒建ててみせた。その手際の良さは、元盗賊というより、もはやベテランの大工だ。
「私も、ユート様たちの目指す、みんなが笑って暮らせる村作りのお手伝いがしたいです!精霊さんたちも、この土地の不思議なエネルギーをとても気に入っているみたいですし…!」
ルルナは、その可憐な見た目とは裏腹に、強力な治癒魔法で怪我人を癒し(主に俺が実験台にされるクルトの発明品の爆発事故の被害者だ)、さらには植物の成長を促進させる精霊魔法で、カオス農園の作物の副作用を少しだけマイルドにしてくれるという、このパーティに不可欠な存在となりつつあった。
先日も、俺が彼女の作った(少し焦げたが愛情たっぷりの)クッキーを受け取ろうとして手を滑らせ、彼女の柔らかくも豊満な胸に顔をうずめてしまった際には、「ユ、ユート様!?だ、大丈夫ですか…?」と顔を真っ赤にしながらも俺を心配してくれた。その時の、彼女の髪から香った甘い花の匂いと、胸の谷間の温もりは…いかん、思い出すだけで鼻血が出そうだ。
『S.A.G.E.より警告:マスターの脳内お花畑指数が急上昇中。現実逃避も結構だが、目の前の課題から目を逸らすな。例えば、あの空から降ってくる炎の塊とかな』
「炎の塊ぃ!?」
S.A.G.E.の言葉に顔を上げると、空の彼方から、何やら派手な爆発音と共に、火の玉のようなものがこちらへ猛スピードで落下してくるのが見えた!
「たーすーけーてーくーだーさーいー!!」
火の玉は、可愛らしい(しかし切羽詰まった)女の子の声援と共に、俺たちの開拓地のど真ん中にズドン!と墜落。土煙が晴れた後、そこには、髪を真っ赤なツインテールにした、へそ出しルックの快活そうな少女が、服をところどころ焦がしながらも、ケロッとした顔で立っていた。年の頃は、ルルナと同じくらいだろうか。
「あー、びっくりしたー!まさか自爆魔法のコントロールに失敗して、こんなとこまで吹っ飛ばされるなんて思わなかったよー!えっと、ここはどこ?君たちだれー?」
少女――フレアと名乗った――は、あっけらかんとした様子でそう言った。彼女は、伝説の「何でも願いが三つだけ叶うけど、四つ目の願いを言うと世界が滅びる(かもしれない)超危険な魔法」を探して旅をしている、自称・天才炎魔法使いらしいが、その魔法のコントロールは壊滅的で、行く先々で小規模な爆発や火事を起こす、歩く火薬庫のような存在だった。
どうやら、俺たちの村の噂(「なんか変な野菜が踊り狂ってる、ヤバくて面白い場所があるらしい」という、またもや原型を留めないもの)を聞きつけ、興味本位で近づいてきたところ、案の定、自爆してここに不時着したらしい。
「炎の魔法使いか!面白そうだ!俺と勝負しろ!」バルガスが早速目を輝かせる。
「また面倒そうなのが増えましたわね…」エルミナがやれやれといった表情でため息をつく。
クルトは「自爆するほどの高エネルギーを内包する魔法…!その術式、ぜひ解析させてほしい!」と目をギラつかせている。ギンジは「こりゃまた、騒がしくなりそうだ」と肩をすくめ、ルルナは「あ、あの、大丈夫ですか…?火傷とか…」と心配そうにフレアに駆け寄った。ポヨンちゃんは、フレアの真っ赤な髪の毛に興味津々だ。
フレアが村に加わった(というか居座った)ことで、俺たちのユートピア(仮称)は、さらにカオス度を増した。
数日後、フレアが「みんなのために、美味しい焼き芋を作ってあげる!」と張り切り、イモグラーンから分けてもらった巨大サツマイモに炎魔法を放った結果、サツマイモは黒焦げになり、畑の一部が小規模な山火事を起こしかけた。
慌てた俺は、近くを流れる小川(以前、なぜか白バラ牛乳の川に変わったが、数日で普通の水に戻っていた)に向かって、必死に叫んだ。
「水よ!今すぐ超大量の水を降らせて、この火事を消し止めてくれー!頼むから、今度は牛乳とか梨汁とかじゃなくて、普通の水でお願いしまーす!(米子市の水道局に心からの祈りを込めて!)」
『ユニークスキル「誤変換」発動。入力:「(上記ユートの切実な普通の水への渇望)」。変換結果:対象「小川」の性質を、一時的に「鳥取県が誇る清流・天神川(ただし、何故か川底から大量のシジミ(大和シジミ・Lサイズ・美味)が湧き出すボーナス付き)」へと状態変化。及び、その清流から適度な量の水が竜巻状に巻き上がり、ピンポイントで火元へ放水』
次の瞬間、小川の水が、まるで意思を持ったかのように渦を巻き、小さな竜巻となって燃え盛る畑へと正確に降り注ぎ、あっという間に火事を消し止めたのだ!そして、なぜかその水と共に、大量の活きのいい大粒のシジミがバラバラと畑に降り注いだ。
エルミナは「…白バラ牛乳の次は、天神川のシジミですって…?勇者ユート、あなたの故郷の特産品は、本当にバラエティ豊かで、そして万能ですのね…」と、もはや感嘆を通り越して呆れ果てたような表情を浮かべていた。
S.A.G.E.は『マスター、君はついに水資源だけでなく、水産資源すらも自在に召喚する能力を獲得したか。もはや君を止めるものは何もない。この村の次の特産品は「踊る野菜と天神川のシジミのチャウダー(白バラ牛乳風味・副作用:虹色に発光しながらサンバを踊る)」で決まりだな』などと、またしても勝手に新メニューを開発していた。
こうして、俺たちのユートピア村は、大地のヌシと、踊る野菜と、炎のトラブルメーカー魔法使いと、そして時々シジミが降る不思議な川と共に、少しずつ、しかし確実に形になり始めていた。
しかし、そんなある日のこと。森の偵察に出ていたギンジが、血相を変えて村へ駆け込んできた。
「おい、勇者様!大変だ!どうやら、俺たちのこの『おかしな楽園』の噂を嗅ぎつけて、招かれざるヤバい客が、もうすぐそこまで来てるらしいぜ!」
ギンジの険しい表情が、新たな、そしておそらくこれまでとは比較にならないほど厄介な騒動の始まりを告げていた。
ユート「(せっかく村の生活がちょっとだけ楽しくなってきたと思ったのに、やっぱり俺に平穏な日々は訪れないのかよぉぉぉ!)」
俺の胃痛は、もはやデフォルト設定になりつつあった。
次回、ユートピア村に迫る新たなる脅威!その正体は近隣の強欲領主か、それとも悪名高き闇ギルド「七つの影」か、あるいは…!?ポンコツ勇者と仲間たちは、この小さな希望の灯を守り抜くことができるのか?そして、ユートの胃は、ついに限界を突破するのか!?