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VS 大地のヌシ・イモグラーン!~ポンコツ勇者、まさかの米子弁で地鎮祭?!~


「グルルルルォォォォ!!ワレラノナワバリ、アラシタノハ、オマエタチカァァァ!!」

大地を揺るがす怒りの咆哮と共に、巨大イモグラーンがそのおぞましい姿を現した。モグラの頑丈な爪、ミミズのヌメヌメとした体表、そして背中には巨大なサツマイモが不気味な光を放っている。推奨レベル90に対し、俺たちときたら平均レベル25(しかも俺は実質レベル1)。どう見ても詰んでいる。

「こりゃあ、ちょいとどころじゃない強さじゃのう…!」

普段は豪快なバルガスも、さすがに目の前の規格外のモンスターに冷や汗をかいている。リリアナさんは即座に剣を構え、臨戦態勢に入るが、その表情はいつもより険しい。

「あの巨体…並の攻撃ではまるで通用しないでしょう。それに、地中からの奇襲にも警戒が必要ですわ!」エルミナが冷静に分析する。クルトはというと、「素晴らしいフォルム!地中生物と植物のキメラ!これは生態学的に…!」と、いつものように戦闘そっちのけで興奮している。おい、現実を見ろ。ギンジは無言で腰の短剣に手をかけ、鋭い眼光でイモグラーンの動きを注視している。ルルナは「ひっ…おっきい…」と震えながらも、精霊魔法を発動させるべく小さな両手を合わせた。ポヨンちゃんは俺の影に隠れてプルプル震えている。

『S.A.G.E.より生存戦略アドバイス:マスター、正面からの戦闘は自殺行為以外の何物でもない。ここは一計を案じるべきだ。具体的には、あのモンスターの弱点を探る、あるいは、君のポンコツスキルを最大限に利用して、戦わずに済む方法を模索するのが賢明だろう。まあ、君のスキルがまともに機能した試しはないがな』

「余計なお世話だ!」

イモグラーンは、地響きと共に巨大な爪を振り上げ、俺たち目掛けて叩きつけてきた!

「危ないっ!」

ギンジが素早く俺を突き飛ばし、寸前で攻撃を回避!地面には巨大なクレーターができていた。一撃でミンチにされるところだった。

「感謝するぜ、小僧」ギンジはそう言うと、そのまま流れるような動きでイモグラーンの側面に回り込み、数本の短剣を同時に突き刺した!しかし、分厚い体表に阻まれ、ほとんどダメージを与えられていないようだ。

「クソッ、硬すぎる!」ギンジが舌打ちする。

その隙に、リリアナさんが正面から斬りかかるが、これもまた深手を負わせるには至らない。バルガスが雄叫びを上げながら斧を振り下ろすが、イモグラーンは巨大な体躯を活かした尻尾の一撃で、バルガスを吹き飛ばしてしまった!

「バルガス!」

リリアナさんが慌てて駆け寄る。その隙を突き、イモグラーンは再び俺に狙いを定めた!

「ユート様、危ない!」

ルルナが小さな体で俺を庇おうとするが、間に合わない!

その時、俺の脳裏に、またしても故郷の風景が浮かんできた。田植えが終わったばかりの緑の絨毯のような田んぼ、その間を流れる清らかな水路、そして、豊穣を願って行われる村の地鎮祭の光景――神主さんが祝詞を上げ、鍬入れを行い、五穀豊穣と村の安泰を祈る、あの厳かな儀式だ。

「(そうだ!地鎮祭だ!この土地の主に、いきなり畑を荒らして悪かったと謝って、仲良く共存する方法を模索するんだ!言葉が通じるかは知らないけど、気持ちは伝わるはず!)」

俺は、迫りくる巨大な爪を前に、覚悟を決めて大声で叫んだ!

「ちょ、ちょっと待ってください!わしら、あんたの縄張りをいきなり荒らしてしもうて、ほんまにごめんなさい!別に、あんたに喧嘩売るつもりも、追い出すつもりもなかったんです!ただ、みんなで仲良く、この土地で一緒に暮らしていけたらええなぁ、と思いまして…」

俺は、気づけば故郷の訛り全開の米子弁で、必死にイモグラーンに訴えかけていた。

『ユニークスキル「誤変換」発動。入力:「(上記ユートの米子弁による謝罪と共存希望の訴え)」。変換結果:対象ユニークモンスター「大地のヌシ・イモグラーン」に対し、「古の地霊との友好的対話」プロトコルを強制実行。副次効果として、対象に「鳥取県西部の方言(特に米子弁)の理解能力」を一時的に付与。さらに、ユートの言葉に呼応する形で、周囲の白ネギ・ブロッコリー・梨の木々が、豊穣を祈る古式ゆかしい祭囃子を奏で始める(ただし、かなり音痴)』

俺の必死の米子弁が響き渡った瞬間、巨大イモグラーンの動きがピタリと止まった。その巨大な体が、ブルブルと震えている。そして、信じられないことに、そのつぶらなのようなものから、一筋の涙(のような液体)が流れ落ちたのだ!

「……な、なんじゃ…おめぇら…そんな風に思っとったんか…わしは、わしらは…ただ、静かに土の中で…ぐねぐね…イモ食って…暮らしとうだけなのに…いきなり畑なんか作られて…びっくりして…怒ってしもうた…」

なんと、イモグラーンが、これまた完璧な米子弁で、しょんぼりと語り出したのだ!しかも、声がやけに寂しげで、まるで長年連れ添った夫婦に誤解された頑固親父のようだ。

周囲の白ネギやブロッコリー、梨の木々からは、どこか間の抜けた、しかし心温まるような祭囃子が聞こえてくる。音痴な笛の音、リズム感のない太鼓の音…それでも、この場を和やかな雰囲気に変えているのは確かだった。

「せ、せやろ?わしらも、あんたと争いたいわけじゃないんです。もしよかったら、これからもこの土地で、一緒に…その…たまには美味しいイモとか分けてもらったりしながら…仲良くやっていけませんか?」

俺は、恐る恐るイモグラーンに話しかけた。

イモグラーンは、しばらく考え込むように地面を見つめていたが、やがてゆっくりと顔を上げ、大きな体で地面にゴロンと寝転がった。

「……わかった。おめぇらの気持ちは、よーく分かった。わしも、もう怒っとらん。ただし!わしの畑も、ちょっとだけ作らせてくれんか?美味しいサツマイモ、みんなで分け合って食べようや」

こうして、まさかの米子弁による地鎮祭&和解交渉は、大成功に終わったのだった。

推奨レベル90のユニークモンスターとの初遭遇は、戦闘らしい戦闘もなく、あっという間に幕を閉じた。これもまた、俺のポンコツスキルがもたらした、予想外の結末だったと言えるだろう。

『S.A.G.E.より驚愕の分析:マスター、まさか言葉が通じるとは…。いや、正確には、君の訛りスキルが、異世界の神獣の心を揺さぶったということか。言語能力ではなく、ソウルジェスチャーでコミュニケーションを図るとは…恐るべし、ポンコツ勇者。だが、これでユートピア建設の第一歩は、思いがけない形でクリアされたな。次は何が起こるのか、全く予想がつかないぞ』

こうして、俺たちのユートピア建設は、大地のヌシとの異例の友好関係を築くという、誰も予想しなかった形でスタートを切ったのだった。

しかし、この平和な時間は、長くは続かない予感が、俺の胃痛と共に、じわじわと湧き上がってくるのを感じていた――。

次回、ユートピア村、まさかの住人第一号?!~ポンコツ勇者、種族を超えた友情(と苦労)を育む~

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