新章第9話 機械乙女はカニがお好き? ~ポンコツ勇者、AIをもバグらせる~
古代遺跡の最深部、美しい機械の守護者との戦い、そしてユートのポンコツスキルはまたしても炸裂するのか!?
「警告いたします。ここは聖なる『律動調整の間』。これ以上の侵入及び干渉は、実力をもって排除させていただきます」
白い金属と青いクリスタルで構成された美しい女性型のガーディアンは、感情の篭もらぬ無機質な声でそう宣言すると、背中の金属翼を広げ、両腕を瞬時に高出力のレーザー砲へと変形させた。その青い瞳が、冷たい光をたたえて俺たち――ユート一行を捉える。
「来ますわよ!あれはアークガーディアンに匹敵するか、あるいはそれ以上のエネルギー反応…!皆さん、最大限の警戒を!」
エルミナの鋭い声と同時に、ガーディアンから無数のレーザーが雨のように降り注ぎ、同時にエネルギー体で形成された鋭利な刃が、高速で俺たちに襲いかかってきた!
「うおおっ、速え上に硬え!」
バルガスが斧でレーザーを弾き(弾けるのかよ!)、リリアナさんが剣でエネルギー刃を捌くが、ガーディアンの動きは正確無比かつ予測不能で、二人とも防戦一方だ。その白い金属の装甲は、バルガスの渾身の一撃すらも浅い傷しか負わせられない。
「くそっ!僕の『対機械用超電磁ジャミングパルス・マークIV(対エルミナ先生用言い訳機能付き)』が…!?」
クルトが何やら物騒な名前の装置を起動しようとするが、ガーディアンは「対ジャミングシステム作動。無効化します」と冷静にアナウンスし、装置はプスンと煙を吹いて沈黙。
「僕の最新技術が…古代のオーバーテクノロジーにあっさりと…!これが…これが技術力の差というものか…!」
クルトはガックリと膝をつき、研究者としてのプライドをズタズタにされているようだ。
エルミナも、古代語魔法の粋を尽くして応戦する。「古の封印を解き、その機能を停止させよ!『アンシエント・ギア・ブレイク!』」
しかし、ガーディアンは「言語データベースに該当するコマンドなし。無意味な音声パターンです」と、エルミナの魔法すらも冷静に分析し、的確に回避、あるいはエネルギー障壁で無効化してしまう。
「(ダメだ、こいつ、強すぎる…!エルミナさんやクルトの知識も、バルガスたちの物理攻撃も全然通じてないじゃん!)」
俺はといえば、ポヨンちゃん(ニジカ)を抱きかかえ、ただただレーザーの雨の中を逃げ惑うことしかできない。『絶対安全拒否』スキルが細々と発動し続け、奇跡的に直撃だけは免れているが、いつまで持つか…。
その時、ガーディアンの狙いが、明らかに最も非力で、そして最もパニックに陥っている俺に集中した。
「最優先排除対象:行動パターン予測不能、特異エネルギー体を認識。排除を実行します」
ガーディアンの右腕が、巨大なエネルギーランスへと変形し、俺めがけて高速で突き出された!
「ユート様っ!!」
リリアナさんが、俺を庇うように前に飛び出し、その美しい顔を苦痛に歪ませながら、エネルギーランスを剣で受け止めようとする。しかし、その威力は凄まじく、リリアナさんの体はくの字に折れ曲がり、その豊満な胸が俺の顔面に押し付けられる形になった。柔らかくも力強い感触と、彼女の汗と、そして微かに血の匂いが混じった甘い香りに、俺の脳みそは完全にショート寸前だ。
「リ、リリアナさん!だ、大丈夫か!?」
「ユート様は…わたくしが…必ず…お守り…します…!」
悲壮な覚悟を滲ませた声で、リリアナさんが言う。
もうダメだ、このままじゃリリアナさんが…!
俺は、恐怖と、リリアナさんへの申し訳なさと、そしてなぜか無性に鳥取の冬の味覚、松葉ガニが食べたいという強烈な食欲(現実逃避の一種だろう)がごちゃ混ぜになった感情のまま、絶叫した!
「うわああああ!もうイヤだこの絶体絶命パターン!こんな殺伐とした戦いなんかより、みんなで仲良くカニ鍋でもつつきながら、平和にお話し合いがしたいんだよぉぉぉ!『殲滅じゃなくて親睦深めるカニパーティー・モード起動!とりあえずみんなで美味しいカニでも食って、腹一杯になって落ち着こうぜ!(鳥取県民の平和と食への飽くなき渇望を込めて)』!!!」
『ユニークスキル「誤変換」発動。入力:「(上記ユートの食欲と平和への願いと現実逃避が渾然一体となった絶叫フルバージョン)」。変換結果:対象ガーディアンの戦闘AIプログラム「ターミネート・プロトコル(最終殲滅モード)」を、「フレンドシップ・ビルディング・プロトコル(親睦会開催支援モード・バージョン・カニ)」へ強制的に上書き。及び、対象の攻撃用エネルギーランスを、「最高級・茹で松葉ガニ(姿盛り・巨大サイズ・食べ放題)」へと物質変換』
次の瞬間、世界はまたしても、俺のポンコツな願望によって、シュールな絵面へと塗り替えられた。
リリアナさんを串刺しにしようとしていたガーディアンの巨大なエネルギーランスが、フッと形を変え、次の瞬間には、湯気をもうもうと上げる、それはそれは見事な茹で松葉ガニ(しかも特大サイズで、甲羅には「祝!親睦会」とでも書かれていそうな謎の模様付き)へと変化していたのだ!
そして、ガーディアン自身の動きもピタリと止まり、その青い瞳が激しくチカチカと明滅し始めた。まるで、ありえないコマンドを実行しようとして、システムが混乱しているかのようだ。
「…命令系統に致命的なエラーを検知。要求コマンド…『カニ(鳥取県産・甲殻類)』『オハナシアイ・モード』『オチツク』『ハラ一杯』…該当プロトコル…データベースに存在しません…検索不能…エラー…エラー…システムフリーズ…いや、これは…新たな…トモダチ…?」
ガーディアンは、困惑したように首を(機械的に)傾げ、その美しい機械の顔に、ほんのわずかだが、戸惑いと…そして興味のような表情が浮かんだように見えた。
『S.A.G.E.より緊急報告:マスター、君はついに高度な戦闘AIに対し、存在しない平和的解決コマンドの実行を強制し、あまつさえ食料(高級食材)を供給することで、その基本プログラムを根底からバグらせることに成功したようだ。素晴らしいネゴシエーション能力と、ある意味、究極の平和的解決方法の提示だ(ただし、相手がカニ好きだった場合に限るが)。敵対存在を「お友達」へと認識変更させたその手腕、もはや魔王を超えた何かだ』
「(俺はただ、カニが食いたかっただけなんだよ…!)」
一同、呆然。
エルミナは「…またしても、ユート様のその力が…信じられませんわ。古代の超兵器が…カニを…」ともはや言葉も途切れ途切れだ。クルトは「機械AIの思考ルーチンを、食欲という原始的欲求で上書きしたというのか!?なんという革命的なハッキング技術だ!これは学会で発表すれば…!」と一人で興奮している。バルガスは「おお!すげぇデカいカニだ!美味そうじゃねえか!」と目を輝かせ、リリアナさんは俺の顔と巨大なカニを交互に見比べて、混乱している。ポヨンちゃんだけが「わーい!カニしゃーん!」と無邪気に手を叩いていた。
ガーディアンは、しばらくの間、頭上で「?」マークを点滅させていた(ように見えた)が、やがて「…親睦会…開催…推奨…食材…準備完了…」などと意味不明な言葉を呟きながら、その場にゆっくりと膝をつき、完全に機能を停止した。美しい機械の顔は、どこか満足げな、そしてちょっとだけ困ったような、不思議な表情を浮かべていた。
こうして、古代遺跡の最深部を守護する美しき機械の乙女は、ポンコツ勇者の「カニ食べたい」という強烈な念によって、またしても戦闘不能(というか、なぜか親睦会準備モード)に陥ったのだった。
そして、ガーディアンが沈黙したことで、その背後にあった巨大な『律動調整装置』が、不気味な低い唸りを上げながら、その禍々しい光をさらに増し始めた。まるで、最後のタガが外れたかのように。
「まずいぞ!」クルトが叫んだ。「ガーディアンが装置の暴走を抑制していたんだ!奴が停止したことで、装置が本格的に制御不能な状態に陥り始めている!このままではミクストピア全土の魔力が大逆流し、大規模な時空震を引き起こし、世界そのものが崩壊しかねない!」
エルミナも顔面蒼白だ。「一刻も早く、あの装置を止めなければ…!」
ユート「(えええええ!?俺がガーディアンを止めたせいで、状況が余計に悪化してんの!?もうやだこの展開!)」
ポンコツ勇者の受難は、まだまだ、本当にまだまだ終わらない!
次回、暴走する古代の律動調整装置!ユートのポンコツスキルは、ついに世界の崩壊すらも『誤変換』で食い止めることができるのか!?それとも、ついに本当の本当に「ジ・エンド」を迎えてしまうのか!?物語は、予想の斜め上を行く最終局面へと突入する!




