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新章第8話 古代遺跡の機械乙女 ~ポンコツ勇者、またもや何かを誤変換(そしてムチムチ)~


「(誰が食うかこんなもん!っていうか、俺のスキル、どこまでグルメ方面に特化していくんだよ!)」

俺――ユートの心の叫びも虚しく、湯けむりヘルゴーレムが変化した「最高級・虹色に輝く絶品温泉卵(S.A.G.E.鑑定・金貨500枚相当)」は、結局バルガスが「美味そうだ!」と一つペロリと平らげ(「力がみなぎるぜぇ!」と大興奮していた)、残りはポヨンちゃん(ニジカ)が大事そうに懐(?)にしまい込んだ。このスライム娘、意外と食いしん坊なのかもしれない。

そして、俺たちの目の前には、ギギギ…と重々しい音を立てて開いた、古代遺跡への入り口が口を開けていた。

「この魔力反応…そして、この独特の機械音…間違いありませんわ。この奥に、古代の『律動調整装置』、あるいはそれに類する何らかの巨大システムが眠っているはずです。それが、ミクストピア大陸全土で発生している、古代機械兵団暴走の根本原因と繋がっている可能性が極めて高いです…!」

エルミナの言葉に、一同の顔に緊張が走る。

開かれた石扉の奥へと足を踏み入れると、そこはひんやりとした湿った空気に満ち、カビと金属と、そして微かな機械油の匂いが混じり合った、独特の空間だった。通路は思ったよりも広く、しかし天井は低い。壁には意味不明なパイプや、断線した太いケーブルが、まるで巨大な蛇か蔦のように無数に絡みついている。

「素晴らしい!この配管構造、おそらくは高純度のエーテルを流動させるための循環システムの一環か!?そしてこのケーブルの材質は…未知の合金だ!動力源は、やはりこの地域の豊富な地熱と温泉水を利用した、ハイブリッド熱交換型エーテルリアクターと見た!」

クルトは、目を爛々と輝かせ、自作の解析装置(見た目はガラクタの寄せ集めだが、時々役に立つ)をかざしながら、いつものように興奮気味に早口でまくし立てている。

『S.A.G.E.より内部構造分析:当遺跡内部、高濃度の魔素粒子及び未知の指向性エネルギー波を広範囲に検知。一部区画では、微弱ながらも時空間の連続性が不安定になっている可能性あり。マスター、異次元に迷い込んだり、壁にめり込んだりしないよう、足元には十分注意したまえ。君は致命的に方向音痴で、ドジだからな』

「いちいち余計な一言が多いんだよ、お前は!」

S.A.G.E.の不吉な警告通り、遺跡の内部は危険なトラップと、この場所に適応した魔物たちの巣窟だった。

床から回転刃が勢いよく飛び出す古典的なトラップを、バルガスが「邪魔だ!」と力任せに斧で叩き壊せば、壁の小さな穴から無数のレーザー光線が照射される最新式(?)の罠が作動し、エルミナが咄嗟に展開した魔法障壁が激しく火花を散らす。

「チッ、面倒な仕掛けが多いな!」

クルトが毒づきながら、リュックから取り出したのは「対機械兵用・高出力電磁パルス発生装置『サンダーボルト・ディスラプター(試作品・暴発率35%)』」だ。エルミナが「待ちなさい、クルト!また何を!」と叫ぶのと、クルトが「くらえ!」とスイッチを押すのはほぼ同時だった。

幸い(?)、今回は暴発はしなかったものの、装置から放たれた強力な電磁パルスは、レーザートラップだけでなく、周囲の照明や、俺の頭の上で健気に風を送っていたスズメバチ君1号(扇風機ドローン)までも一時的に機能停止させてしまった。暗闇と蒸し暑さが俺を襲う。

そんな中、通路の奥から、オイルを撒き散らしながらカシャカシャと不気味な音を立てて、金属製の巨大な蜘蛛型モンスターが数体出現!

「うわああ!また虫かよ!しかもメカ!」

俺が悲鳴を上げると、リリアナさんが「ユート様、お下がりください!」と剣を構えて前に出る。

狭い通路での乱戦。機械蜘蛛の鋭い脚がリリアナさんを襲い、彼女はそれを紙一重でかわす。その際、バランスを崩したリリアナさんが俺の方へ倒れ込んできて、俺は咄嗟に彼女を支えようとして…結果、リリアナさんの豊満な胸に顔をうずめる形になってしまった。むぎゅっ、という柔らかな感触と、汗と石鹸の混じった彼女の匂いに、俺の脳みそはキャパオーバー寸前だ。

「ユ、ユート様!?だ、大丈夫ですか!?…って、ま、前が見えません…!」

顔を真っ赤にしたリリアナさんの声が頭上で響く。

さらに、天井からは半透明のゼリー状のモンスター(電気クラゲのようなビリビリしたオーラを放っている)がボトボトと降ってきた!

「今度はスライムかよ!?しかも電気属性!?」

俺は慌ててエルミナの背後に隠れようとして、思いっきり彼女とぶつかり、勢い余ってエルミナを壁に押し付けるような格好になってしまった!ドンッ!(物理的な壁ドンである)

「…勇者様。わたくし、このような状況で壁に押し付けられるというシチュエーションは、いささか…いえ、かなり不本意ですわね。それに、あなたの吐息が…すぐ耳元でかかっていて、少々…集中できませんの」

エルミナは、顔を僅かに赤らめながらも、あくまで冷静な声で俺を窘める。その整った顔が間近に迫り、彼女のミステリアスな紫色の瞳と、ふわりと香る知的な(そしてほんのり甘い)髪の匂いに、俺は完全に思考停止状態に陥った。

『S.A.G.E.よりラブコメ展開分析:マスター、君のポンコツスキルは、戦闘だけでなく、女性キャラとの親密度を(本人の意思とは無関係に)急上昇させる特殊効果も付随している可能性があるな。ただし、その後の修羅場発生確率も同様に上昇するが。健闘を祈る(主に精神面での)』

「だから、お前は本当に、人の心が無いのか!?」

そんなこんなで(主に俺が原因で)大混乱に陥りながらも、一行はなんとか機械蜘蛛と電気スライムを撃退。

行き止まりかと思われた壁の前で、ポヨンちゃんが「ユートお兄ちゃん、ここ!ここ、なんだか壁さんが『押してー』って言ってる気がするの!」と、壁の一点を指さした。そこには、巧妙に隠された小さなスイッチがあり、それを押すと、ゴゴゴ…という音と共に新たな通路が出現した。

「ポヨンちゃん、お手柄ですわ!」リリアナさんがポヨンちゃんの頭を撫でる。

その通路の先は、ひときわ広く、そして静謐な空間だった。壁には、星々や宇宙のような壮大なレリーフが描かれ、床には複雑な魔法陣のような紋様が刻まれている。そして、その部屋の中央に、一体の存在が静かに佇んでいた。

それは、磨き上げられた白い金属と、青く輝くクリスタルで構成された、美しい女性の姿をしていた。背中からは、幾重にも重なる金属製の翼が生え、その瞳は、感情を感じさせない、しかしどこか憂いを秘めた青色の光を放っている。その姿は、かつてクリスタリア地下で遭遇したアークガーディアンの設計思想に通じる、高度な魔導技術の結晶であることを物語っていた。

女性型の機械生命体(と呼ぶべきか?)は、俺たちを認めると、その美しい顔をわずかにこちらに向け、鈴を転がすような、しかしどこまでも無機質な声で言った。

「…侵入者を感知。警告いたします。ここは聖なる『律動調整の間』。これ以上の侵入及び干渉は、実力をもって排除させていただきます」

エルミナが、息を呑んでその存在を見つめる。

「あなたは…この『律動調整装置』を守護するガーディアン…?それとも、装置そのものが持つインターフェースなのですか…!?」

女性型ガーディアンは、エルミナの問いには答えず、ただ静かに、しかし確実に、その青い瞳で俺たちに敵意を向けていた。

次回、古代遺跡の最深部!謎の美しき機械の乙女との対決!『律動調整装置』を巡る戦いの行方は一体どうなるのか!?そしてユートのポンコツスキルは、ついに機械の乙女のハートすらも溶かしてしまうのか!?(たぶん溶かす方向性が致命的に間違っているだろうが、期待だけはしておこう!)

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