新章第6話 さらば日常(一時的)!~ポンコツ勇者、押し入れ経由で異世界再派遣(強制)
「エルミナ様!大変です!ミクストピア各地の…古代遺跡が、突如として一斉に活性化を開始し、中から、見たこともない未知の機械兵団が出現し始めています!その中には…クリスタリア地下で遭遇した、あのアークガーディアンに酷似した強力な機体も、多数確認されており…!このままでは、ミクストピアが…!」
深夜のコンビニのバックヤード(クルトがまた何かやらかして少し焦げ臭い)に響き渡る、エルミナの助手からの悲痛な通信。水晶玉に映し出されるミクストピア大陸の惨状は、魔王ザルヴァークが倒れた後の平和な世界とは程遠い、新たな混乱の始まりを告げていた。
エルミナの表情が、みるみるうちに凍りつく。
「…これは、思った以上に深刻な事態ですわ。古代兵器の暴走…世界の律動が正されたことで、逆に古代文明の強力すぎる封印が緩み、制御を失った遺産が目覚め始めたというの…?ミクストピア全土が、再び戦火に包まれる可能性があります」
俺の部屋(という名の、いつの間にか異世界パーティの米子支部兼作戦本部と化したカオス空間)で、緊急対策会議が招集された。といっても、メンバーはいつもの俺と愉快な仲間たちだけだが。
「勇者ユート、そして皆さん。私たちはミクストピアへ戻り、この新たな危機を食い止めなければなりません」エルミナは静かに、しかし強い決意を込めて言った。「そしてユート様、不本意かもしれませんが、あなたのその『規格外の力』が、またしても必要となるでしょう」
「じょ、冗談じゃないですよ、エルミナさん!」俺は全力で首を横に振った。「俺はもう勇者じゃないんです!ただの米子で深夜バイトに勤しむ、しがないフリーターなんです!やっと、やっとこの平穏な日常に帰ってこれたんですよ!?なんでまた、あんな危険で、胃が痛くて、いつ死んでもおかしくないような世界に戻らなきゃいけないんですか!」
「しかしユート様、ミクストピアの民が、我々の仲間たちが苦しんでいるのです…!」リリアナさんが悲痛な表情で訴える。
「そうだぜ、勇者様!俺たちの故郷が、またメチャクチャにされちまうかもしれねえんだぜ!放っておけるわけねえだろ!」バルガスも拳を握りしめる。
ポヨンちゃん(ニジカ)も、俺の服の裾をきゅっと掴み、潤んだ瞳で「ユートお兄ちゃん…ミクストピア、キラキラで、みんな優しくて、ポヨン大好きなのに…壊れちゃうの、やなの…」と小さな声で呟いた。
ぐうの音も出ない。俺だって、あいつらが困っているのを見過ごしたいわけじゃない。でも、俺のポンコツスキルが、またどんなトンデモない事態を引き起こすか…。
『S.A.G.E.より客観的分析:マスター、君のその特異なポンコツ体質は、どうやら世界規模のトラブルを磁石のように引き寄せる性質があるようだ。もはや運命と諦め、この状況を楽しむしかないのではないかな?少なくとも、私は君の巻き起こすカオスを観察するのが、最近の唯一の楽しみになっている』
「お前の楽しみのために、俺の胃袋と寿命が犠牲になってるんだけどな!」
結局、俺のささやかな抵抗も虚しく、再びミクストピアへ渡ることが決定してしまった。問題は、どうやって行くかだ。
エルミナとクルトが、俺の部屋の押し入れ――前回、異世界からの帰還ゲートが開いた場所――を念入りに調査し始めた。
「二つの虹色の涙石の共鳴と、ユート様の体内に残存する特異な時空間エネルギー、そしてこの米子という土地が持つ微弱ながらも清浄な『龍脈』のエネルギーライン…これらが特定の条件下で干渉し合えば、再び不安定ながらもゲートを開くことができるかもしれませんわ」
エルミナが難しい顔で分析する。
「よし!ならば僕の最新発明『超次元プラズマ誘導式時空連続体スタビライザー改二(もちろん今回もぶっつけ本番の試作品だが、理論上は完璧なはずだ!)』で、その不安定なゲートを強制的にこじ開け、さらに安定化させてみせるぞ!」
クルトは、どこから取り出したのか、電極とか真空管とか怪しげなコイルがごちゃごちゃと取り付けられた、見るからに危険な機械を押し入れの奥に設置し始めた。
案の定、と言うべきか。
クルトがその機械のスイッチを入れた途端、バチバチバチッ!!と激しい火花と黒煙が上がり、装置は派手にショート!そして、押し入れの奥の空間がぐにゃりと歪み、そこから異世界の変な魔物――ヌルヌルした紫色の巨大な触手だけの化け物や、ギョロリとした一つ目を持つ真っ黒な浮遊する毛玉などが、数匹ほど「お呼びでない!」とばかりに飛び出してきたのだ!
「うわああああ!だから言わんこっちゃない!」俺の絶叫が部屋に響く。
「しまった!出力調整をミスったか!?だが、ゲートは開いたぞ!」クルトは黒煙で顔を真っ黒にしながらも、どこか嬉しそうだ。
部屋の中は、触手モンスターと毛玉モンスター、そしてそれを迎え撃つバルガスとリリアナさん(物干し竿と姉のジャージ姿のまま)が入り乱れての大乱闘。エルミナが冷静に魔法で応戦し、クルトは「貴重なサンプルだ!」とモンスターの写真を撮りまくっている。カオスだ。カオスすぎる。これが俺の日常(非日常)か。
その時、ポヨンちゃんが「えいっ!」と叫び、その小さな手から放たれた虹色の涙石の光が、暴れるモンスターたちを優しく包み込み、そして不安定に揺らめいていた押し入れの中の歪んだ空間へと、まるで吸い込むかのように押し戻していった。そして、虹色の光はそのままゲートを包み込み、先ほどよりはいくらか安定した、人間一人が通れるくらいの大きさの光の渦を形成した。
「ポヨンちゃん、すごい…!」エルミナが目を見張る。ポヨンちゃんは、少し疲れた様子だが、得意げに胸を張っていた。
そんな大混乱の真っ最中、ピンポーン、と間の抜けた音を立てて、玄関のチャイムが鳴った。
「へ?こんな夜更けに誰だよ…」
俺が恐る恐るドアスコープから外を覗くと、そこには…例のギャル、アヤカさんの姿があった。まじか。
ドアを開けると、アヤカさんはニッコリ笑って言った。
「やっほー、ユート君。この間の日曜のお茶の約束、すっぽかされちゃったからさー、どうしたのかなーって思って。家、ここで合ってる?」
その背後、俺の部屋からは、バルガスの雄叫び、剣戟の音、クルトの「素晴らしいデータだ!」という叫び声、そしてポヨンちゃんの「えいえいおー!」という可愛らしい掛け声が、はっきりと聞こえてきていた。
アヤカさんは、俺の背後から聞こえてくる物騒な音と、部屋の中から漏れ出す怪しげな虹色の光に、さすがに怪訝な顔をしている。
「…ねえ、ユート君。もしかして、なんかヤバい宗教の集会とかやってる?それとも、超本格的な異世界転生ごっことか?」
「(終わった…俺の日常も、俺の社会的信用も、そしてあわよくばと思っていた淡い恋の予感も、全てが今、完全に終わった…)」俺は心の中で盛大に項垂れた。
しかし、アヤカさんは、次の瞬間、意外な言葉を口にした。
「へー、なんか分かんないけど、超面白そうじゃん!ユート君って、見た目普通なのに、実はヤバい世界の住人だったりするわけ?ウケるー!いいなー、私もそっちの世界、ちょっと覗いてみたいなー!」
その瞳は、恐怖ではなく、純粋な好奇心でキラキラと輝いていた。この人も、もしかしたら大概ポンコツなのかもしれない。
「…エルミナさん!ゲートが安定しているのは今だけのはずです!皆さん、ミクストピアへ急ぎましょう!」
リリアナさんの切羽詰まった声が飛ぶ。
仲間たちが、次々と光り輝く押し入れ――異世界へと繋がるゲート――へと飛び込んでいく。
俺は、呆然と立ち尽くすアヤカさんに、もはやヤケクソ気味に言い放った。
「ごめん、アヤカさん!ちょっと…いや、かなり長期の海外出張(異世界だけど)に行ってくる!鳥取の、いや、米子の平和は、君に任せた!(超適当)」
そう言い残し、俺もまた、懐かしくも忌まわしい、あの胃痛必至の異世界へと、自ら足を踏み入れたのだった。
『S.A.G.E.より業務連絡:マスター、異世界への再派遣、誠にご苦労である。今回の出張手当は、S.A.G.E.特選『超強力・即効性胃腸薬(ミクストピアの古代薬草配合・ただし副作用で一時的に頭頂部が虹色に発光する可能性あり)』の現物支給ということでどうだろうか?それでは、ミクストピア大陸でのさらなるカオスと、君の新たなポンコツ伝説の更新を、AIとして心より期待しているぞ!』
「だからお前は黙ってろって言ってるだろぉぉぉぉぉ!!副作用も怖すぎるわ!」
俺の絶叫と共に、押し入れの中に開いた虹色のゲートは、眩い光を最後に放ち、そして静かに閉じていった。
一人残されたアヤカさんは、呆然としながらも、どこか楽しそうに、「…出張、か。なら、お土産、期待しちゃおっかな」と呟いていた。
次回、再びミクストピア大陸へ!暴走する古代兵器を止め、ユートは今度こそ平穏な日常(と胃薬のいらない生活)を掴むことができるのか!?(たぶん、いや絶対に無理だろう)
ポンコツ勇者の新たな冒険(という名の受難)が、今、再び始まる!




