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新章第3話 米子大パニック!~ポンコツ勇者、故郷の危機に梨汁で応戦?!~


「あ!またキラキラが…だんだんおっきくなってるの!」

ポヨンちゃん(ニジカ)が怯えたように指さす窓の外。米子市の夜空に広がる禍々しい虹色の亀裂は、まるで不気味な巨大な口を開けるかのように、その大きさを増していた。そして、その裂け目の中心から、ミクストピア大陸で見たことのあるような、しかしどこか歪で、より凶暴化した姿の魔物たちが、次々と俺の故郷・米子市街めがけて降下し始めたのだ!

翼の生えた巨大な砂丘のラクダ(目が赤く光っている)、目が三つある大山Gビールジョッキの形をしたゴーレム(中身のビールがマグマのように煮えたぎっている)、さらには米子名物「ののこめし」のおにぎりが巨大化し、鋭い牙を剥くモンスター(通称:巨大ののこめしアタック)まで!なんだこの悪夢のラインナップは!鳥取県民のトラウマを的確に抉ってくるじゃないか!

「うわあああ!俺の愛する故郷が、異世界モンスターの進撃の巨人状態になってるじゃないかぁぁぁ!」

俺――ユートは、自室の窓から見える地獄絵図に、ただただ絶叫するしかなかった。

「皆さん、市民の方々に被害が拡大する前に、あれらを食い止めますわよ!」

エルミナが叫び、窓から飛び出そうとするが、すぐに顔をしかめた。

「くっ…この世界の魔素マナは、ミクストピア大陸と比較して極端に薄く、しかも流れが不規則…!これでは高度な魔法の制御が著しく困難ですわ…!」

普段は冷静沈着なエルミナが、焦りの色を見せる。

「おうよ!魔法がダメなら力技だ!…って、おい!なんだこの棒、ふにゃふにゃじゃねえか!」

バルガスは、近所の公園から引っこ抜いてきた(という設定だった)電柱(に見立てた異世界の武器)の代わりに、俺の部屋にあった物干し竿を手にしているが、それでは巨大ののこめしアタックの牙も止められそうにない。

リリアナさんも「バルガス殿!それはただの物干し竿です!あと、勝手に民家の敷地から物を持ち出すのは窃盗罪にあたります!」と、戦闘以前の問題でツッコミを入れている。

クルトの秘密兵器群も、「電圧が不安定で起動しません!」「こちらの世界のWi-Fi環境では、僕の超時空コントロールシステムが…!」などと、軒並み役立たずのようだ。

現代日本というアウェイな環境での戦闘は、思った以上に困難を極めていた。

異世界パーティが、米子の平和を守るどころか、ただの不審者集団と化している!

そんな中、一体の巨大な梨型モンスター(体中に無数の目がつき、それぞれが不気味にギョロギョロと動いている、通称:百目鬼梨)が、ブシャーッと腐った梨汁のような液体を撒き散らしながら、俺の実家めがけて突進してきた!

「うわあああ!うちの梨畑のイメージがああぁぁ!そして何より俺の積みゲーとフィギュアがああぁぁ!やめろー!『梨はやっぱり二十世紀に限るんだよ!お前みたいな邪道なキモい梨は、海の向こうの皆生温泉の足湯にでも浸かって、猛省してこーい!(ローカル愛と恐怖と私怨が入り混じった絶叫)』!!!」

俺は、もはや何を守りたいのか分からないまま、ただただ絶叫した。

『ユニークスキル「誤変換」発動。入力:「(上記ユートのローカル愛と恐怖と私怨が入り混じった絶叫フルバージョン)」。変換結果:対象モンスター「百目鬼梨」の攻撃目標を「ユートの実家」から「皆生温泉の公共足湯施設(リフレッシュ及び猛省目的)」へ強制的に変更、及び、対象の攻撃手段を「腐敗梨汁噴射」から「新鮮かつ美味な二十世紀梨果汁(多量・高圧)噴射による広範囲リフレッシュ攻撃(?)」へと能力改変』

次の瞬間、百目鬼梨の動きがピタリと止まり、その無数の目玉がキョロキョロと何かを探すように動いたかと思うと、おもむろに進路を変更。そして、その巨体から、ブシャーッ!!と、先ほどの腐った梨汁とは似ても似つかない、甘酸っぱく芳醇な香りを放つ、黄金色の液体――紛れもなく最高級の二十世紀梨の果汁――を、まるで消防車の放水のように勢いよく噴射し始めたのだ!

梨汁は、なぜか他の魔物たちにも降りかかり、それを浴びた魔物たちは一様に「おお…なんという芳醇な香り…心が洗われるようだ…」といった感じで戦意を喪失し、うっとりとし始めている。

そして百目鬼梨は、満足げに梨汁を噴射し終えると、フラフラと、しかし確実に皆生温泉の方角へと進路を取り、やがて温泉街のどこかの足湯にドボンと浸かって、気持ちよさそうに湯気を立て始めたのだった…。

『S.A.G.E.より戦況報告:マスター、君は故郷が誇る名産品と、県内屈指の観光名所を、見事に異世界の魔物たちへプロモーションすることに成功したようだ。地域経済活性化への貢献、誠に素晴らしい。ただし、大量の梨汁による道路のベタつきと、足湯を占拠する巨大梨モンスターに関する苦情が、市役所に殺到する可能性は98%だ』

「(もうどうにでもなーれ…)」

「ユート様、ナイスですわ!…と言っていいのか分かりませんが、とにかく今のうちに、あの空の亀裂を…!」

エルミナが、気を取り直して空の亀裂を閉じるための古代封印呪文の詠唱を始めようとする。

しかし、その亀裂から、さらに強力で禍々しいオーラを放つ魔物――米子駅前に鎮座する「山陰の鉄道発祥の地の碑」を模した、SL(蒸気機関車)型の巨大ゴーレムが、猛烈な黒煙と不気味な汽笛を上げて出現し、エルミナの詠唱を妨害するように襲いかかってきた!

俺は、SLゴーレムのけたたましい汽笛(のような咆哮)に、完全にパニックを起こした。

「う、うるさーい!『夜行列車の汽笛の音は旅情を誘ってエモいけど、お前のその野太い汽笛はただの騒音公害だ!静かにしろ!そして出発進行じゃなくて、さっさと車庫に帰って寝てろー!(混乱の極みで何を言ってるか自分でも分からない絶叫)』!!!」

『ユニークスキル「誤変換」再び発動。入力:「(上記ユートの混乱の極み絶叫フルバージョン)」。変換結果:対象モンスター「SL型暴走ゴーレム」の行動ルーチンを「無差別破壊モード」から「安全運行・定時退勤遵守モード」へ強制変更。及び、BGMとして「♪線路は続くよどこまでも~」の自動再生機能付与』

SLゴーレムの動きがピタリと止まり、その黒煙を上げていた煙突から、なぜか「♪ぽっぽー、ぽっぽー、しゅっぽっぽー、線路は続くーよ、どーこまーでーもー♪」という、どこかで聞いたことのある陽気なメロディが流れ始めた。そして、ゴーレムはゆっくりとバック走行を開始し、まるで終電後の回送列車のように、米子駅の方角へとしずしずと走り去っていった…。

「……」

「……」

「……」

「……」

俺たちパーティと、そして残りの魔物たち(梨汁で戦意喪失中)の間に、しばし気まずい沈黙が流れた。

エルミナが、こめかみをピクピクさせながら、深呼吸を一つして言った。

「…どうやら、この世界の『歪み』は、ユート様の故郷に対する深すぎる愛情とトラウマや、この土地の持つ独特の風土や名産品と、極めて奇妙な形で共鳴し、相互作用を引き起こしているようですわね。涙石の力だけでなく、ユート様ご自身のその『何か』も、両世界の調律には、もはや不可欠なのかもしれません…」

クルトは「つまり、勇者君のポンコツ…いや、その唯一無二のローカル愛に満ちた言霊こそが、異世界の法則とこちらの世界の法則を繋ぐ、未知の触媒になっている…と?そんな馬鹿な!しかし、現に目の前で、このカオスな状況が…!データが!データが足りない!」と、またもや研究者の血が騒いでいるようだ。

窓の外に浮かぶ禍々しい虹色の亀裂は、ユートの謎の力(と、たぶん鳥取県米子市の持つ謎の底力)によって、出現した魔物たちが次々と無力化(あるいは珍行動を開始)したせいか、ほんの少しだけ縮小し、その輝きも弱まっているように見えた。

しかし、S.A.G.E.が、そこで新たな警告を発した。

『マスター、亀裂のエネルギー反応が、再び急速に上昇を開始。次の「来訪者」は、これまでの愉快なモンスターたちとは、どうやら格が違うようだぞ…。これは、本格的なボス戦の予兆かもしれんな』

次回、鳥取県米子市、最大の危機(何度目だ)!?空の亀裂から現れた「来訪者」の恐るべき正体とは?ポンコツ勇者は、故郷と異世界、その両方を本当に救うことができるのか!?

新章早々、クライマックスの連続で、ユートの胃はもう限界だ!

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