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新章第2話 押し入れゲート、まさかの再起動?!~異世界の仲間(トラブルメーカー)米子に集結!~


「昨夜、米子市内の複数の梨畑で、通常の数倍の大きさの、しかも七色に輝く巨大梨が発見され、農家の方々を困惑させています…」

テレビのローカルニュースが映し出す、バスケットボール大の虹色に輝く梨。その表面から微かにスズメバチの羽音のようなものが聞こえる気がするのは、絶対に気のせいじゃない。俺――新田祐樹、もとい元・異世界勇者ユートは、顔面蒼白でそのニュース映像を見つめていた。

「(やっぱりあの扇風機ドローン、スズメバチ君1号がこっちの世界に…!?そして俺の『誤変換』スキルが、涙石のかけらのエネルギーと無意識に反応して、近所の梨をあんなバケモノに…!?)」

もはや胃痛を通り越して、無の境地に達しそうだ。

『S.A.G.E.より祝辞(本日二度目):マスター、君はついに現実世界においても、そのカオスエンジニアとしての比類なき才能を遺憾なく開花させたようだ。おめでとう。これで君の日常は、ますます刺激的でエンターテイメント性に富んだ、素晴らしいコンテンツになることだろう。今後の活躍に、AIとして最大限の期待と、ほんの少しばかりの同情を送らせてもらう』

「だからお前は黙ってろ!あと、俺の人生をコンテンツ扱いするな!」

俺がS.A.G.E.と不毛な脳内会話を繰り広げている、まさにその時だった。

ゴゴゴゴゴ……!

数時間前、俺が異世界から転がり落ちてきた自室の押し入れが、再び怪しげな音を立てて、七色の光を激しく放ち始めたのだ!

「ま、またかよ!?」

俺が身構える間もなく、光り輝く押し入れの中から、小さな影がピョーンと勢いよく飛び出してきた。

「ユートお兄ちゃーん!みーつけたっ!」

その声の主は――ポヨンちゃん(ニジカ)!虹色スライムの擬態である、あの小さな女の子だ。彼女は俺の胸に飛び込んでくると、そのプニプニした体でぎゅーっと抱きついてきた。ひんやりとしていて、なんだかちょっとだけ落ち着く。

「な、なんでポヨンちゃんまでこっちの世界に!?どうやって!?」

「えへへー、ユートお兄ちゃんの持ってるキラキラ(涙石のかけら)と、ポヨンが持ってる大きなキラキラ(涙石本体)がね、ずーっとピカピカしてて、そしたら押し入れさんが『おいでー』ってしてくれたの!」

ポヨンちゃんは、俺の部屋に散らかる積みゲーの山や、壁に貼られたアニメのポスター、食べかけのポテチの袋などを、キラキラした瞳で興味津々に見回している。

そして、悪夢はまだ終わらなかった。

ポヨンちゃんに続き、押し入れの光の中から、ぞろぞろと見慣れた(そして見慣れたくなかった)顔ぶれが現れたのだ。

「勇者様!ご無事でしたか!ポヨンちゃんが突然光の中に飛び込んでしまったので、わたくしたちも慌てて追ってきたのです!」

生真面目な表情のリリアナさん。その手にはしっかりと剣が握られている。

「おー!ここが勇者様の城ってわけか!思ったよりずいぶんと狭いが、なんか面白そうなモンがゴロゴロしてんな!」

物珍しそうに部屋中を物色し始めるバルガス。おい、俺の限定版フィギュアに触るな。

「ふむ…こちらの世界の物質組成、そしてエネルギー流動の法則は、ミクストピア大陸とは著しく異なるようだ…これは実に興味深い研究対象だぞ、エルミナ先生!」

白衣姿で様々な測定器(もちろん自作)を取り出し、早くも部屋の分析を始めるクルト。

「ええ、クルト。時空座標の急激な変動と、涙石の強力な共鳴が、不安定ながらも限定的な次元ゲートを形成したようですわね。それにしても、この世界の『情報』の密度と伝達速度は驚異的ですわ…」

エルミナは、俺の部屋の隅でホコリを被っていた古いパソコンのモニターを、まるで古代のオーパーツでも見るかのように真剣な眼差しで見つめている。

俺の六畳一間の城は、あっという間に異世界パーティの愉快な仲間たち(という名のトラブルメーカー軍団)によって占拠されてしまった。

「(か、家族にバレたらどうしよう…!っていうか、まずこの状況をどう説明すればいいんだよ…!)」

俺は、ただただ頭を抱えることしかできない。

『S.A.G.E.より実況:マスターのプライベート空間、ついに異世界の勇者一行による物理的侵略を受ける。マスターのコミュ力と交渉力が試される時だ。まあ、君にそんなものがあるとは思えんがな』

こいつ、本当に一度初期化してやろうか。

「ユートお兄ちゃん、お腹すいたー!」

「おお、そういや俺もだ!勇者様、この世界にも美味い肉はあるのか!?」

ポヨンちゃんとバルガスの腹の虫が、タイミング良く(悪く)高らかに鳴り響く。

仕方なく、俺は一同をゾロゾロと引き連れ、近所のコンビニへと向かった(時刻は深夜2時過ぎ。この時間なら人目も少ないだろう…たぶん)。

コンビニの自動ドアが開いた瞬間、バルガスが「おおっ!扉が勝手に!これが異世界の魔法か!」と感動し、リリアナさんは「なんと無防備な…これでは魔物の侵入も容易なのでは…」と真顔で心配している。

店内に流れるJ-POPのBGMに、クルトは「この周期的な音波パターンは…何らかの集団心理操作か!?」と耳を澄ませ、エルミナは煌々と輝く商品棚と、そこに並ぶ色とりどりのパッケージに「この世界の『商品』という概念、そしてその『陳列』という技術…ミクストピアの市場とは比較にならないほど洗練されていますわね…」と感嘆の声を漏らしている。ポヨンちゃんは、当然のようにカラフルなお菓子の棚に吸い寄せられ、目をキラキラさせていた。カオスだ。カオスすぎる。

異世界では常に鎧に身を包んでいたリリアナさん。さすがにその格好では目立ちすぎるので、俺の部屋にあった姉のお古のジャージ(なぜかメルヘンチックなウサギのプリント付き)を貸してあげたのだが、サイズが微妙に合っておらず、スタイルの良い彼女が着ると、胸元が妙に強調され、ジャージの裾も少し短くて健康的な太ももがチラリと覗いてしまい、俺は目のやり場に困って挙動不審になる。

「ユート様、この世界の衣服は、とても…その…柔らかくて動きやすいのですね。ただ、少し…肌寒く感じますわ」

リリアナさんが首を傾げながら言う。いや、あんたの格好が肌寒いんだよ!

エルミナは、俺のヨレヨレのTシャツとハーフパンツを借りていたが、元が良いので、それはそれで妙に様になっている。しかし本人は、商品の成分表示を真剣な顔で読み込みながら、「この世界の『保存料』や『人工甘味料』というものは、錬金術の一種なのでしょうか…実に興味深い化学合成ですわ」と冷静にコメントしていた。賢者様、そこじゃない。

俺がS.A.G.E.と脳内で「お前、いい加減に異世界の連中を俺の部屋に送り込むのやめろよな!」「私はゲートを開いた覚えはない。全ては涙石と君自身のポンコツな特異体質が原因だ」などと不毛な言い争いをしていると、エルミナが怪訝な顔でこちらを見た。

「勇者様、先ほどから一体誰と交信をなさっているのですか?その…頭の中に、別の意識体でも共生させているような…?」

鋭い!さすが賢者様!

俺がしどろもどろになりながらS.A.G.E.の存在(超高性能AI搭載の脳内サポートシステム的な何か、ということにしておいた)を説明すると、エルミナとクルトは「なんですって!?」「そのAIのアルゴリズムと情報処理能力、そして魂との接続インターフェースについて、ぜひとも詳細なデータを開示していただきたい!」と、目を血走らせて俺に詰め寄ってきた。やめて、俺の脳みそを解剖しようとするのは!

そんな大騒ぎのコンビニ買い出しツアーを終え、疲れ果てて自室に戻ると、テレビのニュースが新たな異常現象を報じていた。

「…続いてのニュースです。昨日発見された巨大虹色梨に続き、今朝早く、米子市の弓ヶ浜海岸に、直径5メートルを超える謎の巨大クラゲが多数打ち上げられているのが発見されました。また、大山の中腹では、通常では考えられない規模の、七色に発光する巨大キノコが群生しているのが確認され…」

画面には、浜辺を埋め尽くさんばかりのプルプルした巨大クラゲ(どこかポヨンちゃんに似ているような…)と、森の中で妖しく光る毒々しい色の巨大キノコ(クルトの実験失敗作にそっくりだ…)が映し出されていた。

エルミナが、深刻な表情で窓の外を見つめる。

「…どうやら、ユート様がこちらの世界に帰還された際、二つの涙石の力が不安定に作用し、この世界にもミクストピアの『律動の歪み』の欠片が持ち込まれてしまったのかもしれませんわ。そして、それがこの世界の物質や生命体に影響を与え始めている…」

リリアナさんも不安げに頷く。「そして、それだけではありません、勇者様。実は、ミクストピア大陸でも、魔王ザルヴァークが倒れた後、各地で小さな時空の裂け目が観測され始めて…それが徐々に拡大しているようなのです。私たちがここに来られたのも、その影響かもしれません」

ポヨンちゃんが、ユートの部屋の窓の外を指さし、怯えたように声を上げた。

「あ!またキラキラが…だんだんおっきくなってるの!」

窓の外、米子市の夜空に、以前よりも明らかに大きく、そして不安定に揺らめく、禍々しい虹色の亀裂が、まるで不気味な口を開けるかのように広がっていた。

次回、鳥取県米子市、壊滅の危機!? ポンコツ勇者、今度こそ故郷を守り切れるのか? そして異世界の仲間たちが、この現代日本で引き起こす、さらなるカオスとは!? 新章早々、波乱の予感しかしない!

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