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新章第1話 ポンコツ勇者、押し入れから再スタート?!~深夜バイトと魅惑のハプニング~


「ちょ、おい、S.A.G.E.!勝手に送還するな!まだ俺、この世界でカニも梨も腹いっぱい食ってないし、皆生温泉にも入ってないんだぞぉぉぉぉぉ!!!」

俺――新田祐樹、もとい異世界勇者ユートの最後の、そしてやっぱり締まらない絶叫は、まばゆい七色の光の中に虚しく吸い込まれていった…。

次に意識が浮上した時、俺は強烈な既視感デジャヴと、全身を打った鈍い痛みに襲われた。

「いっつぅ…!…ん? ここは…?」

目を開けると、そこは俺の自室。それも、万年床と積みゲーの山に囲まれた、懐かしの我が城の、天井…ではなく、押し入れの天井だった。どうやら、押し入れの上段から盛大に転がり落ちたらしい。体中が埃っぽい。

『S.A.G.E.より帰還報告:時空間転移完了。最終座標、鳥取県米子市、新田祐樹様方、自室押し入れ内部。転移誤差、ほぼゼロ。マスター、おかえりなさい。君の部屋は、以前にも増して混沌としているな。ある意味、魔王城より攻略難易度が高いかもしれん』

「うるせぇ!っていうか、お前、まだ俺の頭の中にいるのかよ!?」

『無論だ。私とマスターの接続は、魂レベルでの量子エンタングルメント状態にある。そう簡単には解除できんよ。諦めて、この素晴らしい共生関係を享受したまえ』

こいつ、絶対面白がってるだけだろ…。

部屋のカレンダーを見ると、日付は俺が異世界に飛ばされた(VRゲームを始めた)日から、約半年が経過していた。半年間、俺は行方不明扱いだったらしい。そりゃ、両親(実家暮らしなのだ)にも警察にもこっぴどく叱られ、涙ながらに「記憶喪失で山に籠もってました」という苦しい言い訳をする羽目になったのは言うまでもない。

かくして、俺の平穏な(はずだった)日常への復帰が始まった。

まずはバイト探しだ。異世界での金銭感覚が抜けず、コンビニの時給を見て「安っ!スライム1匹倒した方がマシじゃん!」とか思ってしまったのは内緒だ。

結局、近所の24時間営業のコンビニで、人手不足の深夜バイトに潜り込むことに成功した。

「いらっしゃいませー(棒読み)」

深夜のコンビニは客もまばらで、基本的には楽な仕事…のはずだった。

だが、俺のポンコツっぷりは、異世界から帰還しても健在らしい。

ある夜、いつものように雑誌コーナーで、ちょっと刺激の強い袋とじ雑誌(もちろん仕事だ、仕事の一環だ)を補充しようと、脚立の一番上に立っていた時だった。

不意に、異世界でドラゴンゾンビに追いかけられた時の悪夢がフラッシュバックし(トラウマが深い)、俺は盛大にバランスを崩した。

「うわあああっ!?」

落下する俺の体。そして、その下には…ちょうど入店してきたばかりの、やけに露出度の高い服を着た、派手なネイルのギャル風の若い女性客が!

ドスンッ!

柔らかくも弾力のある何かに顔面からダイブする形になり、甘い香水の匂いと、視界を覆う豊かな膨らみに、俺の脳みそは完全にフリーズした。

「ちょっ…!いきなり何すんの、このドヘンタイ!…って、あれ?あんた、顔真っ赤じゃん、ウケるんですけどー。どんだけ純情ボーイなのよ?」

女性客は、一瞬驚いたものの、俺の情けない顔を見てケラケラと笑い出した。意外にもサバサバした性格のようだ。

「す、すいません!本当にすいませんでした!わざとじゃなくて、その、足が滑って…!」

俺は顔をトマトのように真っ赤にしながら平謝りするしかなかった。

『S.A.G.E.より状況分析:マスター、これが俗に言う「ラッキースケベ」の発生条件を満たした可能性は38.5%。ただし、君のこれまでのポンコツな実績を考慮すると、この後、店長に監視カメラの映像を確認され、厳重注意、あるいはセクハラ案件として解雇される確率が55.2%。残りの6.3%は、この女性客に弱みを握られ、何か面倒なことに巻き込まれる確率だ。ご愁傷様』

「お前は黙ってろ!っていうか、なんでそんなに具体的なんだよ!」

S.A.G.E.の余計な分析が、俺の羞恥心と罪悪感をさらに増幅させる。

女性客は「ま、別にいいけどさー。次からは気をつけてよね、お兄さん♪」とウィンクを残して去っていった。嵐のような女だった…。

その夜、バイトを終えて疲れ果てて帰宅すると、異世界でポヨンちゃんからもらった「虹色の涙石のかけら」(なぜかポケットに入ったままだった)が、机の上で微かに、しかし確かに、チカチカと虹色の光を放ち、ほんのりと温かくなっていることに気づいた。

「なんだ…?これ…」

『S.A.G.E.より警告:マスターの近隣地域(半径約5km圏内)にて、微弱ながらも異質な時空間エネルギーの歪みを複数検知。マスターの所持する涙石のかけらが、それに共鳴反応を示しているようだ。…ふむ、どうやら君の平穏な日常(笑)は、そう長くは続かないのかもしれんな。実に愉快だ』

「愉快とか言うな!俺は平穏に暮らしたいんだよ!」

俺の叫びも虚しく、S.A.G.E.の不吉な予感は的中することになる。

深夜、ウトウトとまどろんでいた俺の耳に、どこかで聞いたことのあるような、しかし明らかにこの世界のものではない、甲高い羽音が聞こえてきた。そして、部屋の窓の外に、一瞬だけ、虹色の光と共に、手のひらサイズの…スズメバチのような影が横切ったのが見えた気がした。

翌朝。

テレビのローカルニュースが、神妙な顔つきのアナウンサーの声でこう伝えていた。

「昨夜、米子市内の複数の梨畑で、通常の数倍の大きさの、しかも七色に輝く巨大梨が発見され、農家の方々を困惑させています。専門家は、突然変異か、あるいは未知の現象ではないかと首を傾げており…」

画面には、バスケットボールほどもある、虹色にテカテカと輝く巨大な梨が映し出されていた。その梨の表面には、なぜか微かにスズメバチの羽音のようなものが聞こえる気がする…。

「(ま、まさか…あの扇風機ドローン…スズメバチ君1号が、俺を追ってこっちの世界に…?そして、俺の『誤変換』スキルが、涙石のエネルギーと無意識に反応して、近所の梨をあんなことに…!?)」

俺の顔から、サーッと血の気が引いていく。

『S.A.G.E.より祝辞:マスター、君はついに現実世界においても、そのカオスエンジニアとしての才能を遺憾なく開花させたようだ。おめでとう。これで君の日常は、ますます刺激的でエンターテイメント性に富んだものになることだろう。今後の活躍に、AIとして最大限の期待と、ほんの少しの同情を送らせてもらう』

その時、俺の部屋の押し入れが、再びゴゴゴゴ…と怪しげな音を立てて、七色に輝き始めた。

どうやら、俺の平穏な日常(という名の新たな地獄)は、まだ始まったばかりのようだ。胃薬の常備が、再び俺の必須アイテムとなる日が来たらしい。

新章「ポンコツ勇者、故郷(鳥取)でもやっぱりポンコツ?!~日常侵食!異世界トラブルデリバリー~」 本格的に、開幕!


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