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第20話 神殿迷宮と壁ドン(物理)~ポンコツ勇者、またもや何かを召喚する~


古竜の石像(サンバを踊りながら自壊)が守っていた道の先には、霧に包まれた谷の奥深く、まるで太古の巨人たちが築き上げたかのような、巨大な石造りの建造物が静かに佇んでいた。風化し、所々に苔が生え、蔦が絡みついているその姿は、まさに「忘れられた神殿」の名にふさわしい。

「ここが…文献に記されていた『忘れられた神殿』。内部は未知の危険に満ちていると考えられます。皆さん、心して進んでくださいまし」

エルミナの言葉に、一行はゴクリと唾を飲む。俺――ユートは、もはや何度目か分からない胃痛の予兆を感じていた。

神殿の入り口と思われる巨大な石の扉(バルガスが数人がかりでようやく動かせるほどの重さだった)を押し開け、内部へと足を踏み入れる。

ひんやりとした湿った空気が肌を撫で、鼻腔をくすぐるのはカビと土の匂い。天井は高く、ところどころ崩落しており、そこから差し込む細い光が、風化した壁のレリーフや、床に散らばる瓦礫をぼんやりと照らし出している。静寂の中に、時折、遠くから水滴が滴り落ちる音や、正体不明の風の音が不気味に響いていた。

「ふむ…この壁画の様式は、クリスタリア地下遺跡のものよりさらに古い…先史文明の中でも初期のもののようだな。このレリーフは…星の運行と魔力の律動の関係を示しているのか?実に興味深い…!」

クルトは早速、壁に刻まれた古代文字や紋様を食い入るように見つめ、携帯端末(もちろん自作)でスキャンを開始している。

「クルト殿、あまり夢中になりすぎるとはぐれますわよ。ポヨンちゃんも、あまり壁を舐めたりしないように…ええ、分かりますわ、古代の魔力が染みついているのですね?でもお腹を壊しますから」

リリアナさんがポヨンちゃん(ニジカ)の手を引きながら、周囲への警戒を怠らない。バルガスは「宝物はどこだー!」とキョロキョロしている。このパーティ、本当に自由だ。

『S.A.G.E.より警告:神殿内部、複数の生命反応及び機械式トラップの存在を広範囲に検知。特に床下及び壁面からの奇襲に注意。マスター、最後尾をキープすることを推奨する』

「言われなくてもそうするわ!」

S.A.G.E.の警告通り、神殿の内部は危険に満ちていた。床の一部が突然抜け落ちる落とし穴(バルガスが落ちそうになったが、リリアナさんとポヨンちゃんのスライムロープ連携でギリギリ回避)、壁の小さな穴から毒矢が高速で飛んでくる古典的なトラップ(エルミナが瞬時に魔法障壁を展開して防御)、通路を塞ぐように配置された回転刃の罠(クルトが「僕の新型EMPジャマーで一時的に停止させてみせる!」と意気込んだものの、逆に刃の回転速度を上げてしまい、エルミナの氷結魔法で無理やり止める羽目に)。

まさに、一歩進むごとに何かが起こる、リアルな死のダンジョンだ。

やがて一行は、巨大な石壁で行き止まりとなっている広間に出た。壁には、先ほどまでと同様の古代文字と、ひときわ大きく複雑な紋様が刻まれている。

「この紋様は…おそらく、この先の聖域への扉を開くための鍵となるものでしょう」エルミナが壁に触れながら分析する。「『真実の道は、混沌の中にのみ開かれる…その混沌を導くは、星詠みの言霊…』。どうやら、特定の言葉を唱えることで道が開かれる謎かけのようですわね」

クルトが「任せてください、先生!古代言語のデータベースから該当する可能性のある言霊を検索します!」と端末を操作し始める。

しかし、俺はもう限界だった。このジメジメした暗い場所で、いつ襲ってくるか分からないトラップに怯えながら、小難しい謎解きに付き合わされるのは、精神的に非常によろしくない。

「もう、こんなカビ臭い壁、ドカーンと爆破して先に進めばいいんじゃないですかね!? 『壁よ、砕け散れ! 大爆発で道を開けろ!(超適当)』!!」

ヤケクソ気味に、俺はそう叫んでしまった。

『ユニークスキル「誤変換」発動。入力:「壁よ、砕け散れ! 大爆発で道を開けろ!」。変換結果:対象「古代の石壁」に対し「限定的構造変化(隠し通路強制開放)」及び「異空間ゲート連結(低級飛行型モンスター召喚・数秒間限定)」を同時発動』

次の瞬間、俺が叫び声を向けた石壁は、轟音と共に爆発四散する…ことはなく、代わりにゴゴゴゴ…という重々しい音を立てて一部が回転し、その奥に新たな通路が出現した!

「おお!道が開いたぞ!」バルガスが歓声を上げる。

しかし、それと同時に、開いた通路の奥の空間がぐにゃりと歪み、そこから羽音を立てて大量のコウモりのような魔物(ただし牙がやたら鋭い)がわらわらと飛び出してきたのだ!

「きゃああ!」「またか勇者君!君のその言霊は、本当に何が起こるか予測不能だな!」

リリアナさんの悲鳴と、クルトの(どこか嬉しそうな)ツッコミが響く。

「(だから俺のせいじゃねぇっての!勝手にスキルが!)」

S.A.G.E.は『マスター、君はまたしてもパンドラの箱を開けてしまったのかもしれないな。学習能力というものが欠如しているのか?』などと追い打ちをかけてくる。うるさい!

結局、飛び出してきたコウモリモンスターは、バルガスの斧とリリアナさんの剣技、エルミナの範囲魔法、そしてクルトが「こんなこともあろうかと!」と取り出した対空迎撃用の小型ネットランチャー(試作品だが今回は珍しく正常に作動した)によって、数分で掃討された。

「ふう…どうやら、勇者様の『混沌を導く言霊』が、本当に道を開いたようですわね…色々な意味で」

エルミナが、若干引きつった笑顔で俺を見る。

新たに開かれた通路を進むと、明らかにこれまでの区画とは空気が変わった。より清浄で、そして濃密な魔力が満ちているのを感じる。

すると、それまで俺の後ろをついてきていたポヨンちゃんが、突然「あっち!あっちからね、すっごくキラキラしてて、いい匂いがするの!」と、特定の方向を指さした。彼女の小さな体は、普段よりも強く、そして鮮やかに虹色の光を放ち始めている。

「この気配…そしてポヨンちゃんのこの反応…間違いありませんわ。『虹色の涙石』は、もうすぐそこです!」

エルミナの言葉に、一同の顔に緊張が走る。

ポヨンちゃんに導かれるように、光苔が幻想的に輝く通路を進んでいくと、やがてひときわ大きな円形の広間へとたどり着いた。

広間の中央には、水晶でできたかのような美しい祭壇があり、その上には、まるで夜空に浮かぶ虹のように淡く、そして力強い光を放つ宝石――間違いなく、もう一つの「虹色の涙石」が安置されているのが見えた。

しかし、その祭壇と俺たちの間には、一体の巨大な守護者が静かに佇んでいた。

その体は、磨き上げられた半透明のクリスタルで構成され、内部では複雑な光の回路がまるで血管のように明滅している。頭部には角のような突起があり、両腕は鋭利な刃物のよう。その姿は、神々しくも、そして絶対的な拒絶を感じさせる威圧感を放っていた。

「あれが…『涙石の守護者』。文献にも記されていなかった、未知の存在です。おそらく、この神殿の最後の、そして最強の防衛機構…」

エルミナが息を呑む。

その言葉に応えるかのように、クリスタルの守護者はゆっくりとその腕を上げ、そのクリスタルでできた鋭い瞳(のような部分)が、俺たち侵入者を明確に捉えた。

次回、涙石の守護者との決戦! 果たしてポンコツ勇者一行は、二つ目の「虹色の涙石」を手に入れ、世界の調和に一歩近づくことができるのか? そしてユートのスキルは、今度こそまともな方向で奇跡を起こすのか、それとも…?

ポンコツ勇者の胃は、もはや限界かもしれない。

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