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第2話 王様は勘違いがお好き? ~初クエストは死亡フラグですか?~


「ちょ、ちょ、リリアナさん!? 本気で言ってます!? 俺、勇者とかそういうキャラじゃないんで! ただの一般ゲーマーなんで!」

姫騎士リリアナ・フォン・エルドラドに腕をがっちり掴まれ、引きずられるように王宮へと連行される俺――ユートこと新田祐樹。周囲の民衆からは「おお、あれが勇者様か!」「なんと凛々しい(どこがだ!?)」「これで我らも救われる!」などと、あらぬ期待のこもった視線が突き刺さる。リアルすぎて胃が痛い。

「勇者様、何を弱気なことを仰います! あなた様こそ、このエルドラド王国、いえ、ミクストピア大陸を救う唯一の希望なのですぞ!」

リリアナさんは太陽のような笑顔で言い放つが、俺にとっては絶望宣告でしかない。つーか、この人、俺の言葉全然聞いてないだろ。

壮麗な城門をくぐり、きらびやかな王宮の廊下を進む。床は大理石、柱には金細工、壁には歴代王族の肖像画たぶん。俺みたいな安アパート住まいのフリーターには眩しすぎて目が潰れそうだ。完全に場違い。

(ああ、もうダメだ…誰か助けて…ヘルプ! ヘルプミー!)

心の中で必死に叫んだ、その時だった。

『――呼んだかね? 我こそは、S.A.G.E. (Sarcastic AI Guiding Entity - 皮肉屋AI案内実体)。しがない勇者(仮)の道行きを、適度に不親切にご案内するシステムAIだ。以後、お見知りおきを、マスター(笑)』

脳内に直接、やけにクリアで、そして底意地の悪そうな男の声が響いた。

(な、なんだ今の!? AI!? ゲームのヘルプ機能か何かっぽいけど、性格悪すぎだろ!)

『光栄だね。で、早速だが、現状の打開策は皆無。諦めて運命に身を委ねることを推奨する。健闘を祈る。…まあ、祈るだけだが』

(使えねぇぇぇ!!)

俺が内心でAIとの不毛なやり取りをしている間に、巨大な扉の前に到着した。リリアナさんが扉の前に立つ衛兵に何事か告げると、重々しい音を立てて扉が開かれる。その先には、だだっ広い謁見の間と、玉座にどっかりと腰を下ろす、見るからに「王様です」といった風貌の厳ついオッサンがいた。

「勇者ユート様、国王アルフォンス三世陛下に御座います!」

リリアナさんの声に促され、俺はなすすべなく王様の前に引きずり出された。

「面を上げよ。よくぞ参った、異世界よりの勇者ユート殿! このアルフォンス、そなたの来訪を心より歓迎する!」

朗々とした声が響く。威圧感が半端ない。俺は膝が笑って立っているのがやっとだ。

「あ、あ、あの、その、これは何かの壮大なドッキリ企画で…? カメラとか、どこかに隠してません…?」

俺の情けない声は、静まり返った謁見の間に妙に大きく響いた。リリアナさんが顔面蒼白になっている。やばい、地雷踏んだか?

しかし、国王アルフォンスは眉一つ動かさず、むしろ鷹揚に頷いた。

「ふむ。いせかいのじょーく、というものか。あるいは、我々の覚悟を試しておられるのか。いずれにせよ、勇者殿の肝の太さ、気に入ったぞ!」

(ぜんっぜん違います! ただの現実逃避ですからぁぁぁ!)

『マスターの虚勢、意外にも高評価のようだ。あるいは、この国の王も相当なポン…いや、大らかなお人柄とお見受けする』

(お前は黙ってろ!)

国王は続ける。

「ご存知やもしれぬが、我がミクストピア大陸は今、魔王ザルヴァークの脅威に晒されておる。各地で魔物が活性化し、人々の暮らしは困窮を極めておるのだ。そして、古の言い伝えによれば、魔王を討ち滅ぼせるのは、異世界より現れし勇者のみ…!」

それは、俺がプレイしようとしていたゲーム『ミクストピア・サーガ』の導入ストーリーそのものだった。だが、王様の目は真剣そのものだ。

「つきましては、勇者ユート殿! どうか、その御力で魔王ザルヴァークを討伐し、この世界に平和を取り戻してはいただけぬだろうか!」

深々と頭を下げる国王。リリアナさんをはじめ、周囲の騎士や文官たちも一斉に頭を垂れる。

(いやいやいや、無理無理無理! 絶対無理だって!)

「む、む、む、無理です! 俺、レベル1ですし! HPも30しかないですし! 特技なんて『ネットサーフィン』と『積みゲー崩し』くらいですよ!?」

俺の悲痛な叫びに、国王は不思議そうに首を傾げた。

「れべる? えいちぴー? …ふむ、異世界の秘術であろうか。ねっとさーふぃん、つみげーくずし…なんとも奥深そうな響き。流石は勇者殿、我々の理解を超える力をお持ちのようだ!」

(なんでそうなるんだよぉぉぉ!!)

『解釈の自由とは素晴らしいものだな、マスター(笑)』

S.A.G.E.の野郎、完全に楽しんでやがる。

どうやら俺の言葉は一ミクロンも正しく伝わっていないらしい。もはや何を言っても無駄な気がしてきた。

国王は満足げに頷くと、パンパンと手を打った。

「さて、勇者殿。長旅でお疲れのところ申し訳ないが、まずは小手調べといくとしよう。城の西にある『ウィンドリアの森』に、近頃凶暴化したゴブリンの群れが出没して民を困らせておる。これを討伐してきてはくれまいか。もちろん、我が騎士団が誇る姫騎士、リリアナも同行させよう」

ゴブリン!? ゲームじゃ雑魚の代名詞だけど、リアルで遭遇したら槍とか棍棒で普通に殺しに来るやつだろ!?

「(死ぬ! 絶対死ぬって! まだ異世界に来て数時間も経ってないのに、初戦闘でゲームオーバーとか笑えない!)」

俺は必死に首を横に振ろうとしたが、リリアナさんの「勇者様、お任せください! わたくしが必ずやお守りいたします!」という、やる気に満ち溢れた力強い言葉と、キラキラした期待の眼差しに阻まれた。

「そ、そんな、俺なんかが行っても足手まといに…」

「ご謙遜を! 勇者様の真の力、このリリアナ、拝見できることを楽しみにしております!」

(だから、その真の力とやらが存在しないんだってば!)

結局、俺の貧弱な抵抗はむなしく、初クエスト(強制)への参加が決定してしまった。

謁見の間から解放され、リリアナさんに半ば引きずられるように森への出発準備をさせられる俺の脳内に、S.A.G.E.の無慈悲なアナウンスが響く。

『初陣おめでとうございます、勇者(笑)様。現時点での生存確率は0.38%と算出されました。ゴブリンの棍棒による頭蓋骨陥没が最も有力な死因です。ご武運を』

「うるせぇぇぇ! 少しでも確率上がるようなアドバイスしろよ、役立たずAI!」

『おっと失礼。では一つだけ有益な情報を。リリアナ嬢の背後に隠れれば、生存確率が0.02%ほど上昇する見込みだ。せいぜい頑張りたまえ』

(微々たる差すぎるだろぉぉぉ!!)

「勇者様、どうかされましたか? 何かお悩みでも?」

俺の顔面蒼白ぶりに気づいたのか、リリアナさんが心配そうに声をかけてくる。その腰には、いかにも切れ味の良さそうな長剣。

「い、いえ、何でもありません…ハハハ…」

乾いた笑いを浮かべる俺の明日はどっちだ。いや、今日の夕方にはもう、ゴブリンのエサになっているかもしれない。

ポンコツ勇者の異世界ライフ、開始早々にして最大のピンチ到来である。


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