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第19話 古竜はサンバがお好き? ~ポンコツ勇者、またもやボスを踊らせる~


ゴゴゴゴゴ……!!

霧深い谷の入り口に鎮座していた古竜の石像が、地響きと共にその巨大な石の身体をゆっくりと起こした。風化し苔むしたその姿は、何千年もの間この地を守り続けてきたかのよう。そして、その瞳に宿る鈍い赤い光が、侵入者である俺たち――ユート一行を明確に捉えた。

「来ます!総員、散開!あれはただの石像ではありません、古代の魔導技術で造られた強力な自動防衛ゴーレムですわ!」

エルミナの鋭い声が飛ぶ。その言葉が終わるか終わらないかのうちに、古竜の石像は岩石が擦れるような轟音の咆哮を上げ、その巨大な口から白濁したブレスを吐き出してきた!

「石化ブレスか!食らうなよ!」

バルガスが叫び、間一髪でブレスを回避。ブレスが掠めた地面の一部が、みるみるうちに石へと変わっていく。えげつない攻撃だ。

「うおおおっ!この石頭ドラゴンめ!」

バルガスは巨大な斧を振りかざし、正面から古竜の石像に打ちかかるが、分厚い石の装甲はびくともせず、逆にその衝撃で斧が弾き返されそうになる。

「バルガス殿、無茶です!側面から関節部を狙います!」

リリアナさんが俊敏な動きで石像の側面に回り込み、剣で関節の隙間を狙うが、なかなか有効なダメージを与えられない。

「クルト!何か弱点は分からないのか!?」俺が叫ぶ。

「解析中だ!あの石像の材質は…通常の岩石ではない!魔力を帯びた特殊な鉱石が用いられている!しかも内部には複雑な魔導回路が…うわっ!」

クルトが解析装置を構えながらブツブツ言っていると、古竜の石像が薙ぎ払った巨大な尻尾の先端が、クルトの持っていた「対ゴーレム用超振動ブレード(もちろん試作品)」を粉々に砕いた。

「ああ!僕のブレードが!しかし貴重なデータは取れたぞ!あの尻尾の攻撃パターン、一定の周期が…!」

懲りない男だ。

エルミナは、強力な攻撃魔法「ジオ・クラッシュ」や「エアリアル・カッター」を次々と放つが、古竜の石像は少しよろめくだけで、致命傷には至らない。

「くっ…なんて耐久力なの…!アークガーディアンとはまた質の違う頑強さですわね…!」

ポヨンちゃん(ニジカ)は、あまりの迫力に恐怖で半スライム化し、俺の足元でプルプル震えていたが、それでも勇気を振り絞ったのか、古竜の石像の足元めがけて虹色の粘液をピュッピュッと飛ばし始めた。巨大な石像にとっては些細な嫌がらせにしかならないだろうが、その健気な姿に少しだけ胸が熱くなる。

戦況は完全に膠着状態。いや、じりじりとこちらが不利になっている。

その時、古竜の石像が体勢を低くし、その巨大な頭部を俺めがけて突進させてきた!まるでブルドーザーのような勢いだ!

「うわああああ!なんで俺ばっかり狙うんだよこの石頭ァ!『石頭は昼寝でもしてろって言ってるだろ!(渾身の適当さ)』!!!」

俺はパニックで、先ほど頭に浮かんだフレーズを、もはやヤケクソで絶叫した!

すると、エルミナが何かを察したように叫んだ。

「クルト!古代竜の停止コマンドを!確か文献に…『ルクス・スタシス・ドラコニウム!(光よ、古竜を静止させよ!)』だったはず!」

エルミナの叫びと、俺の絶叫が、奇妙なタイミングで重なった。

『ユニークスキル「誤変換」発動。入力:「石頭は昼寝でもしてろ!(ルクス・スタシス・ドラコニウム!との混線を確認)」。変換結果:対象「古竜の石像」の行動ルーチンを「戦闘モード」から「常夏熱情カーニバル・ダンスモード(耐久力著しく低下、防御行動放棄)」へ強制上書き』

次の瞬間、世界から音が消えた気がした。

古竜の石像の猛烈な突進が、ピタリと止まったのだ。そして…。

どこからともなく、サンバのリズムが聞こえてきた。陽気で、情熱的で、そしてこの場に全くそぐわない、底抜けに明るい音楽が。

古竜の石像は、その赤い瞳をカッと見開き、次の瞬間、その巨大な石の身体を、ぎこちなく、しかし確かに、サンバのリズムに合わせて揺らし始めたのだ!

クネクネと腰を振り(石像に腰があるのかは謎だが)、両腕を天に突き上げ、ステップを踏む(地響きがする)。その姿は、あまりにもシュールで、あまりにも滑稽だった。

俺たち一行は、全員が口をあんぐりと開けたまま、踊り狂う巨大な石のドラゴンを呆然と見つめていた。

「(またかよ…!なんで俺の周りではボスがこうも陽気に踊りだすんだよ…!俺はそういう星の下に生まれたのか!?)」

「な…なな…エルミナ先生…あれは…その…古代の防衛機構に、そのような…陽気な機能が…?」

クルトは解析装置を落としそうになりながら、震える声でエルミナに尋ねる。

エルミナは、美しい顔を盛大に引きつらせながら、「…古代文献のどこにも、ゴーレムがサンバを踊るなどという記述は…断じてありませんでしたわ…」と絞り出すのがやっとだった。

『S.A.G.E.より報告:対象「古竜の石像」、現在「常夏熱情カーニバル・ダンスモード」を実行中。このモード中は、対象の防御力及び回避能力が著しく低下し、攻撃行動は一切行わない。効果時間は不明だが、おそらく対象のエネルギーが尽きるか、あるいはマスターが別の意味不明な単語を叫ぶまで継続するものと推察される。マスター、君のその場の勢いだけで発する無意味な単語が、これほどまでに強力な言霊と化すとは…もはや畏敬の念すら覚える。ある意味、君こそがこの世界のバグそのものなのかもしれない』

S.A.G.E.の冷静なツッコミだけが、俺の心の支えだ。

「…皆さん、好機ですわよ!」エルミナが、我に返って叫んだ。「踊っている間は、防御が完全に疎かになっているはず! あの石像の弱点は…おそらく、首の付け根にある、あの赤く明滅している制御クリスタルです!」

確かに、古竜の石像が情熱的なステップを踏むたびに、首の付け根あたりで赤いクリスタルがチラチラと見え隠れしている。

「よっしゃあ! あんなデカブツが踊ってるスキに、ケリつけてやるぜ!」

「勇者様の御力、もはや理解の範疇を超えておりますが…この好機、逃すわけにはまいりません!」

バルガスとリリアナさんが、踊り狂う石像めがけて突撃する。クルトも懐から残っていた試作爆薬を取り出し、タイミングを計っている。ポヨンちゃんは、なぜかサンバのリズムに合わせて、虹色の体をプルプルと楽しそうに揺らしている。こいつ、意外とノリがいいな。

俺はといえば、「なんで俺の人生(異世界だけど)、こんなにサンバと縁があるんだ…」と、もはや哲学的な問いに頭を悩ませるしかなかった。

踊り狂う古竜の石像。その首元に露出した制御クリスタルめがけて、バルガス渾身の斧の一撃が叩き込まれる!

ガキィィィン!!

甲高い金属音と共に、赤いクリスタルに大きなヒビが入った! 石像の踊りが、一瞬だけよろめく。

「もう一息です!」リリアナさんの剣が、ヒビに的確に突き刺さる!

そして、クルトが投げた爆薬が、クリスタルの根本で炸裂!

バキィィィィン!!

制御クリスタルは木っ端微塵に砕け散り、古竜の石像は、サンバの最後のポーズを決めたかのような格好で、ピタリと動きを止めた。そして、ゆっくりと石の身体が崩れ始め、やがてただの瓦礫の山となった。

戦闘終了。周囲には、サンバのリズムの残響と、俺たちの荒い息遣いだけが残った。

「…信じられませんわ。古代の超兵器が…サンバを踊り、そして自滅(に近い形で)するとは…勇者ユート、あなたのその力は、本当に、本当に規格外ですね」

エルミナは、もはや呆れを通り越して、何か別の感情…それは畏怖か、あるいは純粋な好奇心か…をその紫色の瞳に宿らせて、俺を見ていた。

古竜の石像が崩れたことで、その背後に隠されていた道が姿を現した。霧が少し晴れ、谷の奥へと続くその道の先には、古代の石造りの巨大な建造物――「忘れられた神殿」の入り口らしきものが、霞んではいるが確かに見えていた。

「ついに見えてきたぞ、忘れられた神殿! いったいどんな古代の叡智と超技術が眠っているというんだ!?」

クルトは、いつもの調子を取り戻し、目を輝かせている。

ポンコツ勇者一行、ついに神殿の入り口(と思われる場所)へと到達。しかし、この調子で、神殿内部の試練とやらを乗り越えることができるのだろうか?

そして何より、俺の胃薬はもうとっくにない!

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