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第15話 熱唱!アークガーディアン ~ポンコツ勇者は歌で奇跡を呼ぶ(呼ばない)~


ゴゴゴゴゴ……。

賢者エルミナに促され、俺――ユートたち一行が足を踏み入れた「始原の祭壇」は、想像を絶するほど広大で、そして荘厳な空間だった。天井は見上げるほど高く、壁面には複雑な幾何学模様と古代文字がびっしりと刻まれ、淡い光を放つ巨大なクリスタルがいくつも林立している。まるで、太古の神々が儀式を行った場所のような…。

そして、その祭壇の中央に、そいつは鎮座していた。

アークガーディアン。

全長10メートルはあろうかという金属の巨人。分厚い装甲に覆われたその巨躯は、まるで移動要塞のよう。両腕には物騒なエネルギー砲らしきものが装備され、頭部には巨大な赤い単眼カメラが、まるで獲物を探す肉食獣のようにギョロリと動いている。その姿は、絶望という二文字を具現化したかのような威圧感を放っていた。

「来ます…!皆さん、ご武運を!」

エルミナの緊迫した声と共に、アークガーディアンの赤いカメラアイが俺たちをロックオン! 機械的な駆動音と共に、その巨体が動き出した。

「グォォォォン!!」

アークガーディアンは、咆哮ともとれる甲高い駆動音を上げると、右腕のエネルギー砲から極太の光線を撃ち込んできた! 光線が着弾した床が、轟音と共に爆発し、破片が四方八方に飛び散る。

「うおっ、とんでもねえ威力だぜ! 先手必勝だぁ!」

バルガスは臆することなく斧を構え、アークガーディアンめがけて突進する。

「バルガス殿、無謀です! クルト殿、何か弱点は!?」

リリアナさんも剣を抜き、バルガスを援護するように続く。

「データ収集中だ! あの装甲の材質は…オリハルコンとアダマンタイトの複合合金か!? エネルギー反応も桁違いだ…! 通常兵器では歯が立たないぞ!」

クルトは小型の解析装置を構え、額に汗を浮かべて叫んでいる。

ポヨンちゃん(ニジカ)は、あまりの迫力に怯えきってしまい、俺の足元で小さなスライム形態に戻ってプルプルと震えている。その気持ち、痛いほど分かるぞ!

バルガスとリリアナさんが果敢に攻撃を仕掛けるが、アークガーディアンの分厚い装甲はびくともしない。逆に、ガーディアンの薙ぎ払うような攻撃や、散弾のように放たれるエネルギー弾に翻弄され、徐々に追い詰められていく。

クルトが懐から取り出した小型のEMPグレネード(もちろん試作品)を投擲するが、効果は一瞬。ガーディアンの動きが僅かに鈍ったかと思えば、すぐに再起動し、むしろ怒りを買ったかのようにさらに凶暴な攻撃を繰り出してきた!

「まずい!このままではジリ貧だ!」

エルミナが苦々しげに呟く。

その時、アークガーディアンの赤いカメラアイが、的確に俺を捉えた! まるで「お前がリーダーか!」とでも言いたげに。左腕のレーザー砲が、俺めがけてチャージを開始する。

「うわあああ!なんで俺なんだよ!『こっち来んなビーム!(超適当)』!!」

俺は情けない悲鳴を上げ、咄嗟に横っ飛びで回避しようとした。

『ユニークスキル「絶対安全拒否」発動。対象の攻撃ベクトルを強制変更。変更先:近隣の古代制御盤』

S.A.G.E.のアナウンスと同時。レーザーは俺の鼻先を掠め、あらぬ方向へと逸れていき、祭壇の壁面に埋め込まれていた巨大な古代の制御盤のようなものに直撃!

バチバチバチッ!!

制御盤が激しい火花を散らしてショートし、いくつかのランプが明滅を始める。すると、アークガーディアンの動きが、ほんの一瞬だがカクンと鈍ったのだ。

「今の…! あの制御盤は、アークガーディアンの補助動力システムとリンクしているはず…! もしかしたら…!」

エルミナが何かに気づいたように声を上げる。

『S.A.G.E.より戦術情報:対象アークガーディアンの行動パターンに一定の周期性を確認。現在、胸部装甲の特定部位に高エネルギー集中反応を検知。そこがコアユニットか、あるいは致命的な弱点である可能性92.5%』

「胸のあたりが弱点だってよ! S.A.G.E.が言ってる!」

俺は戦闘の轟音にかき消されないよう、大声で叫んだ。

その言葉に反応したのか、あるいは偶然か、アークガーディアンが新たな攻撃モーションに入った。胸部装甲がゆっくりと開き始め、内部から禍々しい光を放つ球体――おそらくコアユニットだろう――が姿を現す。そして、そこから極太の破壊光線を発射しようと、莫大なエネルギーをチャージし始めた! アニメでよく見る、ボスキャラの必殺技チャージシーンだ!

「まずい!あれを食らったら、この祭壇ごと吹き飛ぶぞ!」クルトが絶叫する。

「くっ…!総員、退避!」エルミナも危険を察知し、指示を出す。

「(いやいやいや、退避ってどこへ!?っていうか、あんなのチャージさせてたまるか!)」

俺は、もはやヤケクソだった。

「『チャージキャンセル!お願いだから止まってください、空気読んでください!(心の底からの祈り)』!!」

『ユニークスキル「誤変換」発動。入力:「チャージキャンセル!お願いだから止まってください、空気読んでください!」。変換結果:対象の攻撃命令『最大出力エネルギーチャージ』を、デバッグモードに記録されていた隠しコマンド『セレブレーション・モード(コア無防備・バースデーソング斉唱機能付き)』へ強制変換』

ピタッ。

アークガーディアンのエネルギーチャージが、嘘のように停止した。

そして、次の瞬間。

パカァッ!と胸部装甲が完全に開き、内部のコアユニットが完全に無防備な状態で露出する。

それと同時に、祭壇全体に、どこか気の抜けた機械合成音声によるメロディが流れ始めた。

「♪ハッピバ~スデ~ トゥ~ ユ~… ハッピバ~スデ~ トゥ~ ユ~…♪」

俺たち一行は、一瞬、何が起こったのか理解できず、全員がポカンと口を開けて固まっていた。

アークガーディアンが…歌っている…? しかも、バースデーソングを…?

「「「「「はぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」

俺、リリアナさん、バルガス、クルト、そしてエルミナ様の驚愕の声が、祭壇にこだました。

『極めて稀なクリティカルバグの発生を確認。おめでとう、マスター。君はまた一つ、この世界に新たな伝説を刻んだようだ。なお、この「セレブレーション・モード」の持続時間は約30秒と推定される。有効活用を推奨する』

S.A.G.E.の声だけが、いつも通り冷静だった。

「い、今です! 胸のコアが完全に無防備になっている! あの歌が終わる前に、あそこを叩けば…!」

エルミナがいち早く我に返り、叫ぶ。

「な、なんてこった…こんな機能、古代のどの文献にも…いや、しかし、これは千載一遇のチャンスだ!」クルトも興奮と困惑が入り混じった表情で続く。

「よく分かんねえが、歌ってるうちにぶっ叩くしかねえってことだな!」バルガスは斧を握り直す。

「勇者様! あなた様のその不可思議な御力、本当に、本当に計り知れませんわ…!」リリアナさんは、もはや尊敬を通り越して畏怖の念すら浮かべている。

ポヨンちゃんは、なぜかアークガーディアンの歌に合わせて、プルプルと楽しそうに体を揺らし始めた。おい、空気読め。

「(なんでバースデーソングなんだよ…!俺のポンコツスキル、どこまで斜め上なんだよ…!)」

俺は頭を抱えながらも、この千載一遇(?)のチャンスを逃すわけにはいかないと直感した。

コアの露出時間は残りわずか。バルガスとリリアナさんが、露出したコアめがけて渾身の一撃を叩き込もうと突撃する。クルトも懐から何か取り出し、投げ込む準備をしている。

歌が終わる寸前、彼らの攻撃がコアに集中した。ゴギャァァァン!!という甲高い金属音と共に、アークガーディアンの巨体が大きく揺れ、その動きが完全に停止したかのように見えた。

「やったか!?」バルガスが叫ぶ。

しかし、アークガーディアンの赤いカメラアイの光は、まだ消えていない。それどころか、先ほどよりもさらに禍々しく、そして怒りに満ちたような赤い光を放ち始めた。

「まずいです…!」エルミナが顔面蒼白になって叫んだ。「コアへの直接攻撃は、アークガーディアンの最終防衛シーケンス…『バーサーカーモード』を起動させてしまったかもしれません…!さらに強力な形態に…!」

その言葉を裏付けるように、アークガーディアンの全身の装甲が軋み、一部が変形を始め、その巨体から黒いオーラのようなものが立ち上り始めた。



次回、アークガーディアン最終形態(仮)!? ポンコツ勇者は、果たして歌以外の方法で世界を救えるのか!?(たぶん救えません)

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