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第13話 地下迷宮と暴走ドローン ~賢者は意外とビューティフル?~


クルト・クロノギアという、歩くトラブル発生装置のような男を新たな仲間に加え、俺たち一行はクリスタリア地下大空洞へと足を踏み入れた。クルト曰く、彼の工房の地下には、この古代遺跡へと続く秘密の通路があるらしい。ホントかよ。

「ここを真っ直ぐ進めば、第3セクターのメインシャフトに出られるはずだ。そこからは僕の記憶と、この自作の遺跡マップ(未完成・一部推定)を頼りに進むことになる!」

薄暗い通路を先導するクルトは、壁に刻まれた古代文字や奇妙な紋様を見つけては立ち止まり、興奮気味にその意味や構造について熱弁をふるう。その長広舌を聞いているのは、主に目をキラキラさせているリリアナさんだけで、バルガスは「腹減ったなぁ」と呟き、ポヨンちゃん(ニジカ)は壁から生えている光る苔をちぎって口に入れようとしては、リリアナさんに優しく止められている。俺はといえば、ただただこの陰鬱な場所から早く抜け出したい一心だった。

『この遺跡の建造年代は推定約5200年前。現行文明よりも遥かに高度な魔導技術、及びエーテル物理学の応用が見受けられる。なお、空気中の未知の魔素粒子濃度が地表と比較して約1200%上昇。長時間の滞在は人体に何らかの影響を及ぼす可能性がある。マスター、体調管理には十分注意しろ』

S.A.G.E.の警告が、不安をさらに煽る。

しばらく進むと、少しだけ開けたドーム状の空間に出た。天井からは巨大な水晶がいくつもぶら下がり、淡い光を放っている。

「よし、ちょうどいい場所だ!」クルトが突然立ち止まり、背負っていたリュックから手のひらサイズの、スズメバチに似た形状の機械を取り出した。「僕の最新最高傑作『全自動索敵殲滅ドローン・スズメバチ君1号(試作改良版)』のフィールドテストを行うのに、ここは最適の環境だ!」

「スズメバチ?面白そうじゃねえか!飛ばしてみろよ、兄ちゃん!」

バルガスが子供のように目を輝かせる。やめろ、絶対碌なことにならないから。

クルトが胸を張ってドローンの起動スイッチを入れる。ブゥゥン、という羽音と共にスズメバチ君1号が宙に舞い上がった。

「どうだい?この滑らかな飛行!搭載された小型エーテルリアクターにより、理論上は半永久的な活動が可能で、さらに敵対対象を自動で索敵し、高出力レーザーで殲滅…」

クルトの説明の途中だった。スズメバチ君1号が、突然ピピピッと警告音を発し、一番近くにいたバルガスの頭を敵と認識したのか、その巨頭めがけて猛然と突進し始めたのだ!

「うおっ!?なんだこのチビっこい機械!俺に喧嘩売ってんのか!?」

バルガスが棍棒で叩き落とそうとするが、スズメバチ君は小型ゆえの素早い動きでそれをひらりとかわし、バルガスの鼻先を掠めるように飛び回る。リリアナさんも剣を抜いて加勢しようとするが、なかなか捉えられない。

「だから言わんこっちゃない!」俺が叫んだ瞬間、スズメバチ君のターゲットが俺に変わった!

「うわっ!なんでこっちに来るんだよ!ただの虫けらが調子に乗るんじゃない!ええい、『殺虫剤ジェット噴射!(超強力なやつをイメージして)オーバードーズ!』」

恐怖のあまり、またしても適当なフレーズを絶叫してしまった!

『ユニークスキル「誤変換」発動。入力:「殺虫剤ジェット噴射!オーバードーズ!」。変換結果:「対象ドローンの行動ルーチンを『敵対的索敵殲滅』から『献身的快適空間提供(マスター限定・過剰サービスモード)』へ強制変更」』

次の瞬間、スズメバチ君1号はピタリと動きを止め、まるで忠犬のように俺の頭上へと飛来した。そして、その小さな羽根を健気にパタパタと高速で動かし、俺の頭に心地よい(しかしちょっと強すぎる)風を送り始めたのだ。

「ピピピ…マスターノ快適度ヲ最優先事項トシマス。現在ノ風量デヨロシイデショウカ? ピピ…」

電子音声まで発し始めた。

「なっ!?スズメバチ君が…扇風機に改造されただと!?しかも君をマスターと認識しているというのか!?僕の組んだ完璧な索敵アルゴリズムと攻撃命令系統が、一瞬で書き換えられたというのか!?一体どんなオーバーライドを…素晴らしい!実に素晴らしいバグだ!ぜひ解析させてもらいたい!」

クルトは、自分の発明品がおかしなことになっているにも関わらず、目を爛々と輝かせて俺とスズメバチ君を交互に見ている。この男、やはり根本的に何かがおかしい。

『マスターの潜在的願望「なんか涼しくなりたいなぁ、できれば楽して」が、極めて限定的ながら具現化した模様。なお、この「スズメバチ君(扇風機モード)」は、今後マスターの忠実なるパーソナル空調しもべとして機能するだろう。ただし、バッテリー消費が激しい可能性があるので注意が必要だ』

S.A.G.E.の説明はもはやどうでもいい。俺の頭の上で、小さな扇風機が健気に風を送ってくれている。ちょっとシュールだ。

ドローンの騒ぎが原因か、あるいは元々そういう仕掛けなのか、突然、周囲の壁の一部が開き、中から石造りのガーディアンゴーレム(小型だが数は多い)がゴトゴトと数体出現した!

「チッ、遺跡の警備システムが作動したか!だが好都合だ、スズメバチ君2号から5号までの実戦データも取れる!」

クルトはリュックからさらに数機のドローンを取り出し、ゴーレムたちにけしかける。しかし、それらのドローンも次々と制御不能に陥り、あるものは同士討ちを始め、あるものは壁に激突して自爆し、あるものはポヨンちゃんの頭の上でクルクルと回り始めた。大混乱だ。

バルガスとリリアナさんは、暴走ドローンとガーディアンゴーレムを相手に奮戦している。ポヨンちゃんは、ゴーレムの足元に虹色の粘液を撒き散らして転倒させようとしたり、自分の頭の上で回るドローンを面白がって捕まえようとしたりしている。俺は頭の上の扇風機ドローンに涼ませてもらいながら、ただオロオロと戦況を見守るだけだ。

その時、一体のガーディアンゴーレムが倒され、その破片が勢いよく俺めがけて飛んできた!

「うわっ!」

『ユニークスキル「絶対安全拒否」発動。飛来物の軌道を強制変更』

破片は俺を綺麗に避け、近くの壁に埋め込まれていた、明らかに「押してください」と言わんばかりの怪しい赤いスイッチにクリーンヒット!

ゴゴゴゴゴ……。

重々しい音と共に、俺たちの目の前の壁が左右に開き、新たな通路が出現した。

「おお! こんなところに隠し通路が! まさか、君のその勇者としての天賦の才(盛大な勘違い)が、この遺跡の隠された秘密をも暴き出すとは! やはり君はただ者ではないな!」

クルトは、またしても俺の手柄になってしまっているに興奮している。

隠し通路の先は、先ほどまでの通路とは明らかに雰囲気が異なり、より一層強い魔素の気配と、古代文明の高度な技術の痕跡が色濃く残っていた。壁面は巨大な水晶で覆われ、それが放つ幻想的な光が通路を照らしている。

「間違いない! この通路の先が、エルミナ先生の研究室がある最深部に繋がっているはずだ! 先生、今行きますよー!」

クルトは、まるで宝物を見つけた子供のように走り出した。

一行がだだっ広いドーム状の空間に出ると、その中央には天を突くかのような巨大なクリスタルタワーと、それを取り囲むように配置された複雑怪奇な古代機械群が鎮座していた。そして、その機械の一つを、背を向けた一人の人物が操作している。

後ろ姿しか見えないが、床まで届きそうな長い銀髪がサラサラと揺れ、白衣とは異なる、どこか神官服を思わせる特殊なデザインのローブを身にまとっている。その人物から発せられる魔力のオーラは、これまで感じた誰よりも強大で、そして澄み切っていた。

「先生! エルミナ先生! ご無事でしたか!」

クルトが呼びかけると、その人物はゆっくりと機械の操作を止め、静かにこちらを振り返った。

その顔は――驚くほど若く、そしてこの世のものとは思えぬほど整った顔立ちの…美しい女性だった。年の頃は、もしかしたらクルトよりも下に見えるかもしれない。水晶のように透き通る紫色の瞳は、深遠な知性と、そしてどこか近寄りがたい憂いを秘めているように見えた。

「…クルト? それに…見慣れない方々もご一緒ですのね。こんな遺跡の最深部に…一体何の騒ぎですの?」

鈴を転がすような、しかしどこか張り詰めたような声が、静寂なドームに響き渡った。

「(え…この人が…賢者エルミナ? 思ったよりずっと若い…っていうか、とんでもない美人さんだ…でもなんか、めちゃくちゃ機嫌が悪そうなオーラが出てるんですけど…?)」

俺の胃は、もはや何の感覚も伝えてこなくなっていた。



ポンコツ勇者一行と、美しき(そして不機嫌そうな)賢者との邂逅。新たな波乱の幕開けを、S.A.G.E.だけが静かに

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