表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/73

第11話 爆裂魔法都市! ~マッドサイエンティストは賢者の弟子~


ドーーーーーン!!

クリスタリアの街の方向から立ち上る黒煙と、腹に響く爆発音。俺――ユートの眉間には、くっきりと深い皺が刻まれた。

「…なあ、S.A.G.E.よ。俺がこの世界に来てから、平穏無事だった日が一日でもあったか?」

『記録によれば皆無だ、マスター。むしろ、マスターの行動半径に比例してトラブル発生率が上昇しているデータもある。疫病神、あるいはトラブルメーカーとしての素質はS級と判定できる』

「うるさいわ!」

リリアナさんは「民の皆さんが心配ですわ!」と警戒を強め、バルガスは「おー、派手にやってんな!面白そうだぜ!」と目を輝かせている。ポヨンちゃん(ニジカ)は、大きな音に少し驚いたのか、俺の服の裾をギュッと握っていた。

水晶でできた美しい塔が立ち並ぶ、いかにも「魔法都市」といったクリスタリアの街並みとは裏腹に、衛兵たちが慌ただしく走り回り、一部の区画は騒然としている。

「勇者様、まずは情報収集を。あの爆発があった場所へ向かいましょう」

リリアナさんの提案に、俺は(どうせ断っても無駄だろうと諦めつつ)頷いた。

爆心地は、街の中心部から少し外れた、古びた塔のような建物だった。周囲には焦げ臭い匂いが立ち込め、金属片や割れたガラス、用途不明の機械部品がそこかしこに散乱している。どう見ても、まともな場所ではない。

その時、煤まみれの工房の扉が勢いよく開き、中から一人の青年が咳き込みながら転がり出てきた。

年の頃は俺と同じくらいか、少し下か。ボサボサに乱れた銀髪は爆風で一部がアフロのようになり、着ている白衣はあちこち破れて煤で真っ黒。しかし、その大きな眼鏡の奥の瞳だけは、妙な好奇心と探究心で爛々と輝いていた。

「ちっ、また失敗か…! 計算は完璧だったはずなんだが…! 触媒として使用した『賢者の石(の欠片の、さらに微細な粉末)』の純度が足りなかったのか? それとも、古代ルーン文字のエンチャント術式に致命的なバグでも混入していたというのか…!?」

青年は誰に言うともなく、しかし熱っぽくブツブツと独り言を呟いている。

『対象:クルト・クロノギア。種族ヒューマン、職業:魔導技師兼古代文明研究家。知能A+、論理的思考力S、ただし共感性及び危機管理能力F--。戦闘能力D(ただし、自作の魔導兵器使用時は未知数)。総合危険度S(主に周囲環境への被害甚大)。典型的なマッドサイエンティストのプロファイルだ。マスター、速やかな退避を推奨する』

S.A.G.E.の警告が、俺の脳内でけたたましく鳴り響く。こいつは絶対に関わっちゃいけないタイプの人間だ!

しかし、時すでに遅し。

「あなた! 今の爆発はあなたの仕業ですね!? 一般市民を危険に晒して、一体何ということを!」

正義感の塊であるリリアナさんが、真っ先にクルトと名乗った青年に詰め寄った。

クルトは面倒くさそうに顔を上げ、俺たちを一瞥すると、ややあってポヨンちゃんが興味深そうに拾い上げた、足元に転がる奇妙な歯車(古代文明の遺物の一部らしい)に気づいた。

「おや、失礼。少々実験が派手に成功しすぎてしまってね(どう見ても大失敗だ)。しかし、おかげで貴重なデータが採取できた。これであの『ガーディアン・ゴーレムMk-II』の自律思考制御システムに、また一歩近づいたはずだ」

「ゴーレムだと!? そりゃ面白そうじゃねえか! 兄ちゃん、あんた一体何を作ってんだ?」

バルガスが、目をキラキラさせてクルトに食いついた。ダメだこいつら、危機感というものがまるでない。

クルトの視線が、ポヨンちゃんが持つ歯車から、ポヨンちゃん自身へ、そして俺へと移る。

「そのお嬢ちゃんが持っているのは…まさか、先史文明の遺物か? そして、その虹色のオーラ…極めて高純度のエーテル結晶体の反応に酷似している…。さらに、そちらの君(俺を指差す)、君からは微弱ながらも観測したことのない異質な時空エネルギーの残滓を感じる…実に、実に興味深いサンプルだ!」

クルトは興奮したように早口でまくし立て、俺にズンズンと近づいてくる。その目は、獲物を見つけた肉食獣のようだ。

「(うわああ、ヤバい奴に完全にロックオンされた…! 逃げたい! 今すぐ逃げたい!)」

俺が後ずさろうとした時、クルトがハッとしたように口を開いた。

「君たち、もしかして賢者エルミナ先生に用があるのかい? 先生なら、今、街の地下にある古代遺跡の調査で留守にしているが…。ああ、もしかして君が、先生が噂していた『異世界より召喚されし勇者』なのか? ぜひ一度会って、その異質なエネルギーについて詳しく聞かせてもらいたいと思っていたところだ!」

賢者エルミナはクルトの師匠らしい。そして、俺のことも知っている…?

俺が何かを尋ねるより早く、クルトの背後にあった工房の奥から、ガシャーン!ゴゴゴゴ…!という地響きのような轟音と共に、壁が内側から突き破られた!

現れたのは、金属製の無骨な人型――おそらくクルトが言っていたゴーレムだ。その体躯はバルガスよりも一回り大きく、両腕は巨大な鉄塊のよう。そして、その一つ目のような赤いカメラアイが、不気味な光を放っている。

「しまった! さっきの爆発の衝撃で、格納庫のセーフティロックが解除されたか!? まずいぞ、あれはまだ調整前の試作段階で、攻撃対象識別ルーチンに深刻なバグを抱えたままだ!」

クルトが顔面蒼白になって叫ぶ。

その言葉通り、ゴーレムは赤いカメラアイをグルリと動かすと、一番近くにいたバルガスめがけて、その巨大な鉄の腕を振り上げた!

「うおおっ!? 面白え、やってやろうじゃねえか!」

バルガスは斧を構えてゴーレムに立ち向かう。リリアナさんも剣を抜き、ゴーレムの側面に回り込もうとする。

俺はポヨンちゃんを抱きかかえ、安全な場所へ逃げようとしたが、ゴーレムのもう片方の腕が、薙ぎ払うように俺たちに迫ってきた!

「うわああああ! 『鉄クズは鉄クズらしく大人しくスクラップになってろ!(超適当)』!!」

恐怖のあまり、またしても意味不明な絶叫を上げてしまった!

『ユニークスキル「誤変換」発動。入力:「鉄クズは鉄クズらしく大人しくスクラップになってろ!」。変換結果:「対象の行動ルーチンを『ラジオ体操第一(準備運動)』に強制変更(効果時間約1分)」』

次の瞬間、信じられない光景が広がった。

猛威を振るっていたゴーレムの動きが、まるでコマ送りのようにカクカクと止まり、そして――おもむろに両腕を大きく広げ、屈伸運動を始めたのだ! キィ、ゴション。キィ、ゴション。その動きは、紛れもなく俺が小学生の頃に叩き込まれたラジオ体操第一そのものだった!

「なっ!? ゴ、ゴーレムが…体操を!? そんなプログラムは万に一つも組み込んでいないぞ! いったい君は、何をしたというんだ!?」

クルトが呆然と叫ぶ。

リリアナさんとバルガスも、あまりのシュールな光景に攻撃の手を止めて固まっている。

ポヨンちゃんだけが、俺の腕の中で「ゴーレムさん、おもしろーい!」と無邪気に手を叩いていた。

『マスターの無意識下における「戦闘回避」と「無力化」への渇望が、またしてもカオス的で予測不能な結果を生み出したようだ。対象の攻撃性を一時的に完全に封じることに成功。素晴らしい。実に素晴らしいバグの活用事例だ』

S.A.G.E.のどこか嬉しそうな声が、俺の頭の中でだけ響いていた。

「くそっ、体操が終わればまた暴れだすぞ! コアユニットを破壊しない限り、完全に停止させることはできない! 勇者君、君のその訳の分からない不思議な力と、そこのお嬢ちゃん(ポヨンちゃんを指す)が持つ特異なエーテル親和性…もし僕の研究に協力してくれるなら、ゴーレムを止めるだけでなく、それ以上の世紀の大発見に繋がるかもしれないんだ!」

クルトが、目をギラつかせながら早口でまくし立ててくる。

「勇者様、この状況、彼に協力する以外に道はなさそうですわ!」リリアナさんが決然と言う。

「おう! 面白くなってきたじゃねえか! あの鉄クズ、俺がぶっ壊してやるぜ!」バルガスはやる気満々だ。

(なんで俺が、こんなマッドサイエンティストの尻拭いをしなきゃならんのだ…! でも、あのゴーレムがまた暴れだしたら街が危ないし…ああもう、どうしていつもこうなるんだよぉぉぉ!)

俺の胃は、すでに限界を超えて悲鳴を上げていた。

ポンコツ勇者のクリスタリア編は、到着早々、いきなりクライマックス(という名の更なる地獄)を迎えることになりそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ