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第4話 今を享受すること、未来をつかみ取ること

何かができることが特別なのだろうか。

何かができることが特権なのだろうか。

私は常に答えを求め続けてる。

解の求め方を学ばなかった。

ずっと、ずっと、彷徨い続けるのだ。


でも…、

一つ確かなことは

答えを求めている人物が私で、

その私はずっと歩みを止めているということだ。


結局、

何も変わることができないまま、

ここまで来てしまった。


ずっと、自堕落な日々を送り続けている。


私はこの先も勝負を諦め続ける。

いつかの夢も忘れて、

理想の未来をつぶしても

”今”という快楽を貪り続けるのだ。

 足の指先にナニカが重たくのしかかった。目には見えないけれど、確かにそこには質量を伴ったナニカがあった。体はピクリと衝撃を受けたが、慣性がかかったかのように部屋へと入っていく。次第に、その重さは手、腕、肩と飲み込む。もがこうと体を必死に動かしても、力が入らない。ナニカが完全に体を包み込んだ時、あるものを心の中に感じた。支配、圧力、主従。有無を言わせない圧倒的権威がソコにある。


 こんな気迫を感じたことがない。重い、息が詰まる、呼吸が荒くなりそう。その正体を目にしたわけではない。文献で目にしたわけでもない。けれど、触れたい。指先までその感覚を享受したい。もっと、もっと、もっと。その激しさを、鮮烈に。


 好奇心の赴くままに、歩みを続ける。子どもが新しい玩具を与えられたように、久々の刺激を堪能したい。重さに誘発された欲が身も心も支配してしまった。結局、自分も欲には抗えない獣だった。自分に首輪に付けて、快楽に溺れる今を望む。今が幸せであればいいと思ってしまった。


 部屋の先には誰かがいた。数人が長机に向かって、自分の到着を待っていたかのような印象を受けた。けれど、全員が異なる。全員がそれぞれの権威を、堂々たる自分を持っている。それを認識した途端、心が震えた。殴打ではない、爆発のような重低音が心臓に響く音を聞いた。強者であるが所以の覇気は、鼓膜を貫き、鼻腔を突き抜くかのようにして、概念という曖昧な言葉で片づけられる次元を超える。この空間において、自分という異質な存在が踏み入る資格がないことを痛感させられる。



「被検体No.00 アンセスを連れてきました。」


 ここまで連れてきた者たちが奥にいる人物へと報告した。


 その者は、貫禄のある顔つきに、衣服の外側からも分かるほど筋骨隆々とした体つき、そして誰よりも強くまとう覇気。間違いなく、この部屋の誰よりも上に立つことが推測される。左目下から右目上まで引き裂かれた傷を見せつけるように、こちらの目の中を覗き込む。眼光が自分の瞳孔を狙撃する感覚を得る。


「下がれ。」


 威圧にも近いような声色で部下たちを下がらせる。しかし、その者たちは一切表情を変えることなく、与えられた命令を忠実に実行する。そこから彼らの優秀さが垣間見える。そして、その者はこちらに目を向けると、話を始めた。


「歓迎の意を示すべきか、それとも警戒の眼差しを向けるべきか。」


 その態度はまるでこちらを見定めているようだ。しかし、その言葉には不安や迷いが一切ない。淡々と述べられているはずの言葉がやけに腹の奥まで刺さるような感覚を与える。感動というには奇妙で、驚嘆というには冷たい。ただ一つ、この者には隙が無い。それだけしか分からない。この者の奥なんて触れることすら許されないと実感させられるのだ。


「ひとまず説明をしよう。私はアーノルド=フロイツ、この組織の総督だ。」


「組織」という言葉を聞き、少し身構えてしまう。以前の施設での光景が時々ちらついてしまうのだ。そのたびに、受けた苦痛が何度も何度もよみがえってしまうのだ。これからも、その悪夢に苛まれることになることを想像すると、気が気ではない。ここでの回答すべてが全員の運命に直結するということは明らかである。だからこそ、体は無性に臨戦態勢に入ろうとしたがるのだ。


 刹那、首元の血の気が一気に引いた。そして、湧き出る冷や汗がより事態が深刻であることを認識させられる。脊髄反応に遅れて脳に情報が伝達した時、ようやく首元に当てられた銃口を目で捉えた。目の前には、月に照らされる狼のようだ。狩人の目を静かに光らせ、その瞬間を狙うみたいに。赤黒い髪がその男の狂気を映し出す。どこか惹かれてしまうのに、捕まれば待ち構えた首を掻っ切る予感をもたらす。そこであるものを思い出す。甘酸っぱく赤いジャム。そう、彼は…


「待て、クランベリー。その者に危害を加えることは許可していない。」


 アーノルドがそう言うと、目の前の男は銃口を逸らした。が、その目がこちらから外れることはない。すべてを見透かすようにじっと構えている。そうだ、クランベリー。彼にぴったりとあてはまる果物。なんとなくそんな気がした。すると、彼は口を開く。


「妙な気は起こすなよ。いつでもてめえの首を掻き切ってやる。」


 そう忠告すると、彼は自分の席に戻り、図々しくも机の上に足をのせる。彼の忠告は心に深く刻まれた。だからこそ、臨戦態勢はより強固になる。いや、緊張感といった方がいいだろうか。どうしてか、常に自身の命が断頭台の上にあるような気分になるのだ。


 それにしても、彼の言動には少々覚えがある。それだけでなく、仕草・態度・雰囲気に至るまである人物と酷似していた。ウェプノ。どうしてか、彼とクランベリーはよく似ている。でも、少しばかり違う。この男には棘がある。ウェプノは掴めないところがある。視界に映る男がクランベリーならば、ウェプノはラズベリーだろうか。なんて、軽く妄想してしまった。


 すると、アーノルドが一つコホンと咳ばらいをした。それと同時、辺りはまた重い空気に包まれる。少々、雑談が過ぎてしまったようだった。自分が置かれている立場を再認識させられてしまった。


「その他説明は多々あるが、さっさと本題を済ませるとしよう。」


 そして、アーノルドはその言葉を発した。何度も聞いたはずなのに、やけに重く聞こえる。だからこそ、ここにおける回答次第で自分の命運がいともたやすく儚くなることを知る。その言葉とは…


「君は私たちの味方か?」

クランベリーって美味しいんですかね。

僕食べたことありませんけど。

でも、ウェプノとクランベリーが似ているって、意外ですよね。

そもそも、なんで似てるんでしょう。

とりあえず、クランベリーってなんか響きがかっこいい。

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