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第三話 繰り返しの扉

 その後も幾度となく問答は繰り広げられた。そのたびに目にするのは、彼に向けられる疑いの視線。鋭い眼光と目つきを伴ったそれらに彼はすでに飽きている。同じ問答、同じ反応、同じ宥め。月日が流れる感覚が一切ない彼にとって苦痛であったのは言うまでもない。

 ただ無機質な天井へと手を伸ばし物思いに耽るだけだった。共に育った仲間の安否を確認することもできず、ここで過ごす他ない。

 彼らが何をされているかなど知る由もない。嫌な妄想が何度も何度も頭によぎる度にここから抜け出そうとするが、寸前で扉を破壊しようとするその手を止める。ギリギリとその拳を握りしめて無関係な壁に振りかざすも、その手も止めてしまう。結局、行き場を失った不安も心配も身体の中に留まうのだ。下唇を噛んでドクドクと血を流しても、決して流されてくれることはなかった。

 そんな時間がのらりくらりと流れたある時、いつも通り見知らぬ人が部屋に入ってくる。またいつも通りの時間がやってくるのかとそう思ったが、今回ばかりはいつもと違った。その人は目の前の椅子に座らずにこちらに向かって話しかけてくる。


「部屋を出てくれ。」


 いつもとは違う流れ。だからこそ、混乱した。悠長に時間を過ぎさせる神様にがいるならば、呪ってやりたいと強く願っていたほどの想いは断ち切られた。灰色の天井と物思いに耽る時間は終わった。でも、いざそう言われたとき、頭の中でマイナスな妄想が誘惑してきた。とうとう処分される時間が来てしまったのか、塵芥のごとく使われてしまうのあろうか。本当に、ココロというものは常に都合が良くて、常に不便だ。

 しかし、だからと言ってこちらが悠長にする時間は許されていない。駄々をこねる立場じゃないことくらいは分かっている。そうして、椅子から立ち上がる。が、どうしてかこの部屋が手を放してくれないように感じた。行かないでと、そう懇願するみたいに。

 もしかしたら、この部屋も居場所を求めていたのかもしれない。ずっと、ここで一つ寂しく話し相手を待っていたのかもしれない。いや、求めていたのはこちら側だったのかもしれない。この部屋がかつての閉ざされた楽園と、以前の自分の部屋と似ていたから。心のどこかで変貌を遂げてしまいそうな自分の心を慰めてくれるみたいな、そんな場所が恋しかったから。

 けれど、ずっとそうしていては何も進んでくれない。何も得ることができない。それに、自分と一緒に進んでくれる人たちがいる。…行かなければ。そう心に決めて、力を込めて、その手を振り払った。そのまま振り返らずに、部屋を出ていくのであった。


・・・・・・・・


 鎖にも繋がらず、ただ周りの人間のペースに合わせて歩いた。これもまた誰かにとっては退屈なのかもしれないが、景色が見えることと何も繋がれていないことが、これほど心地良いものだとは思わなかった。真っ暗な視界で身動きもろくに取れない世界に、独りで投げ出される恐怖はとても耐えがたかった。

 それでも、見慣れない世界というのはとても奇妙で、とても不気味だ。ネオンライトみたいな光が断続的にほとばしり、そのたび仄かに明るさを伴う藍色の壁。外界から隔絶されたこの空間は、太陽の光を一切受け付けない。似ているようでどこか違う。放し飼いのようで、拘束されているような感覚。幻想に染まった世界を見てみたいと思う気持ちがずっと募っていく。

 しかし、どこでも似た光景というものはあるもので、こんな移動中でも人の声が聞こえなければ物寂しくなってしまう。人声は如何様に使えども、孤独を埋めてくれるような気がする。それは言葉の刃だとしても狂愛的であれば許せてしまう。どこにも存在しなくて、どこにも存在できない。そんな状況があるとしたらならば。

 そうしていると、とある扉の前にやってくる。無機質にたたずみ、こちらの問いかけにも応じなさそうだ。不愛想といえば失礼なようにも感じるが、一言で表すならそれが一番適切だと思う。しかし、そんな扉よりも注目をひくものがあった。

 扉の向こう側。何者も通すまいとしている扉の向こう側に圧倒的な存在感を持つものを感じる。あまりにも巨大で、キリキリと胃が締めつけられるような緊張感が生じる。何かは分からないが、ナニカはそこにいる。バケモノであろうか。それとも、それに匹敵する人物なのであろうか。

 思わず笑みがこぼれてしまった。先ほどまでの杞憂が嘘のように吹っ飛んだ気分で、恐怖の中に安心を覚えた。もし本当に自分に人間すべてを滅ぼす力があったとしても、その遥か上に君臨する可能性というのはゼロではない。ここでこの身が朽ちようとも、それはそれでいいのかもしれない。ただ、その前に、皆ともう一度会いたいと願うのだ。

 扉は重たい音を立てながら、ギギギと開いていく。それに伴って、その向こうからようやく明かりが差し込んできた。どうしようとも、覚悟を決めるしかないようだ。扉の先に待ち構える強大な気配と相対するために、足を踏み入れるのであった。


・・・・・・・


 踏み入れた途端、ナニカが重くのしかかる感覚。力ずくで頭を下げさせられているみたいで、体が重い。そして、圧迫感が四方八方から飛んでくるように襲った。

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