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Ver."D"ep.3 〜いろかわるたぬきとおなべのひ〜

悪ふざけ編、第二弾です。

カオス回となりました。

「今日はお鍋を作りまぁす!」

そう大声で宣言したのは、月のように輝く白いたぬきだった。今宵集った妖精(ちゎわ)たちは、その声に身を震わせていた。

「とうとう鍋になる決心がついたのか…」

そう呟くように言ったのは、ヘッドホンを首にかけた妖精だった。

「ァァァァ…違う違う!今日はみんなでお鍋を食べるの!たぬきいずのっとふーど!」

そう言いながらも笑う彼女は、とても楽しそうにかがり火を(なら)して網を置く。

「おっ鍋おっ鍋〜ふんふんふ〜ん♪」

鍋の準備をするたぬきを横目に、妖精たちはこそこそと小声で話をする。

「なんで急に鍋…?」

「分からないですけど…お酒はありますかね?」

「まだ飲むには早いだろうに…。あ、チョコミントならあるぞ、ほら」

「あ、ありがとうございます。って…お鍋にチョコミント…?」

「お肉焼いて良いかな、網あるし」

「今日のたぬき、なんだか楽しそうだね〜」

「ところでたぬきと鍋…これはチャンスでは?」

「…あー私やっちゃいますね。しろたぬき鍋にしたいですー。たぬきさーん」

「「「「待て待て待て待て!」」」」

その声に気が付いたのか

「んゃ〜?なぁに〜?」

と、たぬきは手にスパナと包丁が合わさったようなモノを持ち振り返る。ちゎわ達は震えたのだった。

「あー…。いや、なんでもないですたぬきさん。私たちもやりますから、さぁどうぞこちらへ」

と、ちゎわのひとりがさりげなく鍋のそばに座るよう促した。

「ほんと〜?みんなでやった方が楽しいよぉ〜?」

そう言いながらもひと段落ついたのか、彼女は丸太へと腰かけた。

「ささ、どうぞ。こちらをお飲みください」

「ありがと〜。ん…んん…!?」

差し出された瓶を開け、ひとくち飲んだたぬきはその味に驚いたのか、眉間にシワを寄せる。

「美味しいでしょう?カレーパンサイダーですよ」

そう言ったちゎわは、持っていた飲み物を鍋のそばのテーブルに置く。

「あ、あはは…独特な味、だね」

苦笑いを浮かべる彼女をよそに、ちゎわ達は鍋の周りに集まり、各々に食材を入れていく。その輪に混ざるように、彼女も立ち上がった。

「とりあえず白菜だよな…えいっ」

「お肉焼けたぜ。…っておい入れんな!高級なカモ肉だぞ!」

「ふゃ〜ん!カモー!たぬきカモだぁいすきぃ!ネギも入れよ〜!」

「里芋も入れたぁい♪…えいっ」

「っておいやべぇぞ!ちゎわが落ちた!」

「ゴボボボボ………」

「あー大丈夫ですか…?よい…しょっと」

「た……助かった…ありがとう…」

「あれ、ここに置いてあったサイダーは!?」

「あーそれなら彼を助ける為に使…ってあれ、(カラ)になってますね…」

「これも入れたら美味そうだな…おらっ」

「チョコミントぉぉお!!!??」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


完成した鍋は、鍋…というより別のナニカになっていた。黒いような、茶色いような鍋を前に、彼らは絶望の表情で立ち尽くした。

「…どうするよ………」

「うわぁ、闇鍋だぁ…」

「うわ…ミントのニオイすっご…」

「あーこれは…」

コポコポと音のする鍋を眺めながら冷や汗を流すちゎわ達。

「ふ、ふふ……あははははっ」

笑い声に振り向いたちゎわ達は、その主を見て震えた。そこには輝くような白い毛なみ…ではなく、赤い毛なみに染まったたぬきの姿があった。

「あははっ。はぁ…。ねぇ…首領(ドン)。味見してね?」

「オレ!?」

ヘッドホンを首にかけた妖精は、突然の指名に驚愕(きょうがく)した。

「そうだよ…?だってちゎわちゃんの首領(ドン)、でしょう?それに、さっき『鍋になる決心』とか言ってたよね?ねぇ、食べるよね?それとも、お鍋にしちゃおうか…?」

圧をかけるような笑みと、軽く振り上げたスパナに、首領と呼ばれたちゎわが身を震わせた。

「あ、あぁ…。い、いや…たぬきさんよぉ…。ここはチョコミントを入れた本人に食べさせるべきじゃ…」

「おい!巻き込むなよ!」

そんな小競り合いを横目に、赤いたぬきは器に盛ったお鍋を首領に差し出した。

「ほら、首領(ドン)。よそってあげたよ?」

満面の笑みで差し出されたものを、おずおずと受け取った首領は、生唾を飲み込んだ。

「ま、マジか…。くっ……」

「ほーらっ♪」

渡されたスプーンを震わせながら。

「うっ…くっ…いただき、ます。……あー…ん」

首領はひとくち、鍋を口に運んだ。心配そうに見つめるちゎわと、満面の笑みのたぬき。

「ンンッ!?こ…これは…!?」

「どう?どう?美味しい?美味しい?」

ゴクン、と喉を鳴らした首領は言った。


「カレーだ、これ。しかも美味い」


「「「「え、ウソでしょ(だろ)…?」」」」

その反応に、全員が耳を疑った。

「いや、鍋…とは言えないかもしれないけど…。えぇ…?」

と、更にもうひとくち食べる首領。

「いや、うん…。カレーだな。ふわっと香るミントがちょうどいいぞこれ。食べてみ?」

「「「「えぇ………」」」」

そう言われて、少しずつ器によそう。緊張しながらも、おずおずと口に運んだ。

「ふゃ、はふ…あれ、美味しい!」

「…おや、カモ肉もいい味出してますね…」

「美味いけど、カモ…焼きで食べたかったなぁ…。まぁ美味いから良いかぁ」

「あーこれなんでこんな…。うわぁ、美味しいの不思議ですねぇ」

不思議なことに美味しくなった鍋を囲み、談笑をする。

「ふゃ〜ん…美味しかったぁ…お腹いっぱ〜い」

いつの間にか白い毛なみに変わったたぬきは、満足そうに丸太にくつろいでいた。

その周りでくつろぐちゎわが言う。

「そういえば、なんで急に鍋やろうってなったの?」

「ん~?たまにはみんなで美味しいご飯、食べたかったんだぁ。それに、楽しかったでしょう?」

柔らかく微笑む彼女に、ちゎわ達もまた微笑んだ。

「あぁ、楽しいな。今日も」

「ふゃ〜ん。良かったぁ」

そう言って、白いたぬきは空を見上げる。満天の星空の片隅に、朝焼けが滲み始めていた。



満たされたちゎわ達は、丸太に横になりすやすやと寝息をたてている。そろそろ目覚めの時らしい。

白いたぬきはその様子に、幸せそうに笑みを浮かべる。そしてまた、遠くの空を見上げて、ほぅ…とため息を吐く。


「…今日も来てくれてありがとう。どうかよき一日を…」


そう呟いた空に、白い尾のような湯気がのぼっていった。

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