Ver."D"ep.2 〜よくぼうにそまるあかきつき〜
こちらは『内輪の悪ふざけ』的な話となります。
モデルのイメージとは異なりますので、悪しからず。
女の子は、女の人の笑顔に見惚れ、動けなくなってしまいます。すると。
「もしよければ、みんなで一緒にお話しよ?」
と、女の人が手招きをしてくれます。おずおずと近付く女の子。
女の子は、本を抱きしめたまま、彼女の正面の丸太に座ります。
「あ、あの…おねぇちゃん、ここは…?」
女の子は、少しビクビクしながら、お姉さんに尋ねます。
「ふふ、ここはね。たぬきの夢の世界、だよ」
お姉さんは、星空を見上げながら、そう言いました。
「おねぇちゃんの…せかい?」
女の子は、不思議そうに尋ねます。
「うん、そうだよ。ここはね、たぬきが話したいことを話せる場所。それと、ここに来てくれたみんなと、会える場所なの」
空を見上げるお姉さんは、笑っているようです。もふもふの大きなしっぽが、ゆらゆらと揺れています。
「んぇ…よく、わかんない」
女の子は、下を向いてしまいます。そんな彼女へと、顔を向けるお姉さん。
「ふふ、そうかなぁ…?周りを見てみて?」
女の子は、お姉さんにそう言われて、周りを見てみます。
「あれぇ…?な、なぁに…?これぇ…」
お姉さんの周りには、犬のような、たぬきのような…二足歩行の妖精がいます。妖精の手には、スパナが握られています。ある妖精は、そのスパナを磨き。またある妖精は、丸太に腰掛けて、片膝を立てながら、スパナを回し投げては、落ちてきたスパナをキャッチしています。
「ふふふ…この子たちはちわわちゃん。たぬきの妖精さん、だよ」
女の子は、不安そうな顔で、妖精を見ています。
「ちょっと…こわい」
「大丈夫だよ、怖がらないで。ね?ちわわちゃんたちはみんな優しいよねぇ?」
その声に、妖精は目を逸らして、体を震わせています。
「ゃ〜ん、ちわわちゃんたちぃ?恥ずかしいのかなぁ?」
お姉さんが笑顔でそう言うと、妖精たちはぷるぷると体を震わせながら、小刻みに頷きます。
「お、おねぇちゃん…?お顔…こ、こわいよ…?」
何かを察したのか、女の子も震えています。
「ふふ…ねぇ、ちわわちゃんたち…?」
と、お姉さんは立ち上がり、女の子の後ろに立ちました。そして…。
「この子もちわわちゃんたちの、仲間に入れてあげたいのぉ」
お姉さんの声に、妖精たちはバッ、とお姉さんの方へと向きます。そして、お姉さんの前に座る女の子とを、交互に見るように。
「お、おねぇちゃ…」
「ねぇ、良いでしょう?たぬきはあなたも、欲しいの」
女の子の声を遮るように、お姉さんは女の子の肩を掴んで、明るい声で続けます。妖精たちは、悩むように、震えながら下を向いています。
「ねぇ。…お鍋は、好き?」
「ふぇ…え…?おなべ…?」
突然そう聞かれて、困惑する女の子。
「す……すき…だけど…」
女の子がそう答えると、お姉さんは笑います。
「アハハハッ!よかったぁ。なら…ね?」
女の子の背中から、お姉さんがそう言うと…。
「………ッ!」
と、妖精たちは、意を決したように女の子を見つめます。
「お、おねぇちゃん…?なんで…そんなこと…ようせいさん…こわいよ…」
女の子がそう言うと、お姉さんはまた笑います。
「アハハッ!それはねぇ?」
と、お姉さんと妖精たちは、女の子の背を押していきます。
深く掘られた地面の下には、グラグラと湧く鍋がありました。
「ひゃぁっ…!」
掘られた地面の直前で、女の子とお姉さんは止まります。肩を掴んだまま、お姉さんは、低い声で囁きました。
「これで、あなたも…ちわわになれるよ…」
とん、、、。肩を押され、足が地面から離れます。
女の子は、暗い地面の下へ落ちていきます。
「きゃぁっ…!!!おねぇちゃ…。たすけ……あっ…!」
落ちながら見上げた先に立っていたのは、白いお姉さんではありませんでした。その髪は、耳は、尻尾は…赤く、紅く、朱い色をしています。まるで皆既月食の月のような…。
「アハハハハッ!あなたもかわいい妖精さんにしてあげるねぇ!」
そう笑いながら叫ぶお姉さんの隣には、スパナを構えて絶望の表情で見おろす妖精たち。
「あ…あぁ…!…いゃぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!!」
女の子は涙を流しながら、鍋の中へと落ちていきました。
◆ ◆ ◆
「……きゃぁぁあっ…!!!」
と、女の子はベッドから飛び起きます。汗をびっしょりかいて、荒い息をしています。
「はぁ…はぁ…はぁ…ゆめ……?うっ、うぅ…」
女の子は、泣いてしまいました。すると。
「…ぅなぁ……?」
心配そうに、茶色の猫が女の子を覗き込み、頬に前足をあててきました。
「あ……みぃくん……」
「…なぁ…ふぎゅっ…」
女の子は、猫を強く抱きしめます。猫は、苦しそうに暴れ、逃げ出してしまいます。
「あっ…ごめんね…」
逃げた猫を見て、女の子は謝りました。
ガチャッ…。
と、部屋のドアが開きます。入ってきたのは、女の子のお母さんでした。
「あら、起きてたの?おはよう。…ってあら、すごい汗じゃないの」
お母さんは女の子に近寄って、心配そうな顔をします。
「あ……ままぁ…。こわいゆめみちゃったの…」
女の子は安心したのか、お母さんに抱きつきました。
「あらあら…かわいそうに…。ねぇ、一緒にお風呂入ろっか?」
「うん……いく…」
女の子とお母さんは、一緒に部屋を出ていきました。
「………………………………」
部屋に残された猫は、じっと、窓を見つめていました。
…窓の外に、キラリと光る…スパナが見えたような気がして。