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ep.1 〜しろいたぬきとであうよるに〜

それは、とある夜のこと。

波の音がきこえる、海が近い森の中。空に浮かぶ満月が光って、木々の隙間から地面を照らしています。

ザッザッザッ…。

その森を、小さな女の子が歩いています。月の光にキラキラ光る、長い金色の髪を三つ編みにした、少しくせっ毛の女の子です。

「こっちかなぁ…?」

と、きょろきょろしている女の子は、空のような青い目で、両手に抱えた大きな本と、周りの景色を不安そうに見比べています。大きい服の袖には、途中で転んだのか、所々に落ち葉が付いています。本には、たくさんの難しい文字と、地図のような絵。その絵には、赤い丸のしるしがついています。

「えっと…ここが、これだから…」

と、迷いながらも少しずつ森の奥へ進んでいきます。段々と暗くなる森に、女の子も本を抱きしめて、少し怖がっているようです。すると…。

ドサッ。

と、木の上からなにかが落ちてきました。

「きゃあッ…!」

女の子は驚いて、尻もちをしてしまいます。痛いお尻をさすりながら、女の子は音のした方を見ました。

「にゃぁ〜ぉ……」

落ちてきたのは、茶色い少し大きな猫でした。落ちてしまったのが恥ずかしかったのか、後ろ脚で耳を掻いています。

「ねこさん、だいじょうぶ…?」

女の子は、猫に手を伸ばしました。猫はその手をクンクンと嗅いで。

「なぁ〜ん…」

と、安心したように頭をこすりつけます。しばらく撫でていましたが、女の子は行く場所があったのです。女の子は、地面に本を開いて、周りを見比べました。

「うーん…?ここどこぉ…?」

女の子は、道が全く分からなくなってしまいました。

「にゃぁ〜…?」

猫も本の絵と、周りの景色を見比べているようです。しばらく見比べたあと、猫は森の奥へと歩いていきます。

「……なぁぉ」

『ついてきて』と言うように、猫は女の子の方へ振り返りました。

「…そっちにあるの…?まって〜!」

女の子は、本を抱きしめながら走ります。女の子が猫に追いつくと、猫は女の子の隣を歩きます。

「へへ、いっしょにあるいてくれるの?やさしいね、ねこさん」

「……なぁぉ」

ひとりといっぴきは、お話をしながら、一緒に森の奥へと進みます。すると、段々と木が少なくなり、月の光が辺りを照らしはじめました。

「…にゃっ!」

と、突然猫が走り出しました。

「えっ!?ねこさぁん!どうしたの〜?」

女の子は、猫を追いかけようとします。

「あれ?なんだろう、ひかってる…?」

猫が走っていった先に、キラキラと光る何かが見えます。

「すごくきれい…。えっ…わらってる…?」

光の方から、とても楽しそうな笑い声が聞こえます。女の子は、歩きはじめました。

「…きっと、あそこだ」

女の子はそう言って、光の中へと走ります。光の中に入ったとたん、急に光が強くなりました。

「うわぁっ…!」

女の子は、あまりの眩しさに思わず目をギュッと閉じてしまいます。光が段々弱くなって、女の子は少しずつ目を開けました。

「んぇ…?なんだったの…?」

まだよく見えない目をこすりながら、女の子は呟きます。

そこは、大きな草原でした。サワサワと風が吹いて、草を揺らします。空には、たくさんの星が輝いています。けれど、森を照らしていた月は見えません。

「あれ…?」

女の子、不思議そうに首を傾げます。草原のまんなかに、灯りが見えたからです。灯りの周りには、月のように白く、輝くような人がひとり。周りには、それより小さな生き物がたくさんいるようです。話している声が聞こえてきます。笑い声は、そこから聞こえてくるようです。女の子はそれを見て、また本を開きました。

「これ…ここだ…やっぱり!」

女の子は、灯りの方へ歩きます。やがて話している人の横顔が見えるようになりました。輝くような長くて白い髪、ふんわりとした雰囲気の服を着た、女の人のようです。女の子との違いは、ふわふわな大きな尻尾と、たぬきのような可愛らしい耳。そんな女の人を見て、

「きれぇ〜……」

女の子は、思わずそう呟いてしまいます。すると、その声に気が付いたのか、彼女は女の子へ振り向きます。辺りはシーン…と静かになりました。彼女の、星のような青色の目と、女の子の、空のような目が合います。そして…。

「ちゎ!」

女の人は、まるで空に浮かぶ満月のような笑顔で、そう言ったのでした。

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