一章『命の恩人+ストーカー=好感度振り出しに戻る』⑤
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「それでレオくん、これからどうしますか?」
「どどど、どうするって!?」
ネクへのご褒美タイム(本人談)が終わり。この後の予定を聞かれ、オレは思わず動揺をしてしまう。
「平和にとはいえ、ここまでずっと移動続きでしたから例えばお風呂に入るとか食事を取るとか」
「ああ、そういうこと」
しかし、ネクの口から出た思いのほか普通の提案に拍子抜けしつつ、ホッとして胸を撫で下ろす。
時刻は昼過ぎ。窓の外は明るく、太陽が沈むにはまだ時間がありそうだった。
外を眺めて、休むには少し早いなと思っていたオレの考えに気づいたのか、
「それとも、近くでモンスターを倒しに行きますか?」
ネクが呆れ笑いを浮かべながら提案してくれた。
「モンスターを倒すっていうと、ギルドの依頼とか?」
「いえ、今は手当たり次第にやっていいと思います。依頼だと一回一回に手間と時間がかかりますし」
「その言い方だと、目的は報酬やお金じゃないんだね」
というか、ここまでの行動を見たかぎりネクがお金に困っていそうには見えない。
いやそれはそれで何者なんだって話だけど。
「ええ、将来的には分かりませんが……今はお金には困っていません。というより、今、わたしはなにも困っていませんよ」
「わたしは、ってことはオレ?」
「はい。でも、これはわたしから言うよりも自分で感じた方が早いと思います」
「う、うん?」
「では行きましょう! この時代、森の奥ならモンスターなんていくらでもいるでしょうから」
そう言って立ち上がり。荷物を置いたまま部屋を出ていくネクに続きオレは宿屋を後にした。
目的も行き先も分からないオレは軽い運動をしに行く感覚で大人しくネクの背中について行き。
村の南門をくぐって村の外に出る。
そんな村から出た矢先。オレは街道の脇で動く小さな影を見つける。
「ん? なあ、あれ」
「遭遇するにはだいぶ早いはずなんですが……」
村から続く街道の脇に生えた草むら。
そこに一匹の小鬼のモンスター、ゴブリンがこちらの様子を窺うように顔を出しているのが見えた。
「なんにせよ、こんな所にモンスターを放置するのは危険だな」
「村の人たちでもゴブリンの一匹くらいなら対処できると思いますけど」
「奴が、一匹狼ならね」
歩きながら眺めていたが、おそらくこの村には教会はおろか、ギルドのような施設は存在しない。
奴を見逃して仲間でも呼ばれれば、後に取り返しがつかない事態になってしまうだろう。
ゴブリンとの距離は、ネクから離れてもギリギリ死体に戻らない範囲内。
よし! ここならいける。
敵は低級モンスターとはいえ、生き返ってから一度も戦闘をしていなかったオレは三年間のブランクを確かめる機会に意気込む。
「ほっ!」
駆け出し、背負った鞘から剣を引き抜く。
ゴブリンはこちらの接近に驚いているのか、咄嗟に反撃や逃走の素振りも見せない。
(戦闘に慣れていないのか? それでも、容赦はしない!)
隙だらけの敵に、一閃を見舞う。
「ギャア!!」
袈裟に切ったゴブリンが苦痛に悲鳴を上げる。
攻撃の後。もがき苦しむゴブリンを見て、オレは少し驚く。
けれど、今は構わず隙だらけのその身にもう一度剣を振り下ろす。
「ふん!」
「ギッ!?」
頭蓋を潰され、倒れた体から黒いモヤを出して、ゴブリンは今度こそ絶命した。
黒いモヤを、オレの右手のグローブに装着された空色の勇者魂が吸い上げる。
「……まだ感覚が鈍ってるのかな」
「お見事です! 反撃の隙も与えず一瞬で倒してしまうなんて!」
倒したゴブリンを見てぼやくオレは、手を叩いて褒めそやすネクに恥ずかしくなり、そっぽを向いて答える。
「ゴブリンなんて冒険者なら倒せて当たり前だろ」
馬鹿にされてるようには聞こえないけど、一撃でなくとも一匹のゴブリンに手こずるのなんて、冒険に出たばかりの新米冒険者くらいだ。
ネクはオレへの評価が大袈裟なので仕方ないのかもしれないけど、ザコを倒す度にこの反応はさすがにやめてほしいな。
「では、気を取り直して目的地の森に行きましょうか!」
「う、うん」
一体、森に何があるのか分からないけど。
オレは言われるままに、少しはりきっているネクの後についていくのだった。