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一章『命の恩人+ストーカー=好感度振り出しに戻る』③

3




「もう一度言いますけど、村に着いたらレオくんはわたしの兄ということで通してくださいね」


「わかってる」


この先にある村に向かう商人の馬車の荷台に揺られ、ネクから小屋を出る時に決めたオレたちの外での身分を耳打ちされる。


三年も前に死んだ剣士なんて言っても誰も信じないとは思うんだけどな。


「あと当たり前ですけど、死霊術ネクロマンシーは大陸の安全領域では禁忌です」


「さすがにそのくらいは知ってるよ」


ネクは安全領域ではと言ったが、魔王軍侵略域では咎める者が居ないってだけで禁忌扱い自体は変わらないけど。


「ええ、ですからレオくんの正体がバレるとその瞬間からわたしはお尋ね者になります」


「それは自業自得なんだよなぁ」


『ファンだから』とかいう訳分かんない理由で生き返されているので、その件に関しては一切擁護できない。


「なに他人事みたいに言ってるんですか」


「だって、オレ死霊術(その術)に関係ないし」


「わたしから二◯メートル以上離れたら、今のレオくんはただの死体なんですよ? それでどうやってわたしを騙しながら魔王城に向かうんですか」


「──はっ!?」


そうだったぁ!


今のオレが使命を果たそうとするなら、ネクが拘束されて動けなくなるとオレも周囲から離れることが出来なくなって強制的に旅は終了してしまう。


だから絶対にそれだけは避けないといけないのか!


ていうか、しれっとオレがネクをその気にさせて魔王城に行こうとしてるのが当然のようにバレていた。


「おーい、お二人さん。そろそろ村に着くぞー」


内緒話をするオレたちの後ろから荷台のオレたちに、荷車を引く馬に乗ったおじさんが声をかけてくれる。


「はーい! ……じゃあこれからは今言ったことに気をつけてくださいね」


「ああ、よーく分かった」


つまりネクが言いたいのは、オレの目的を果たしたいならネクと一緒に正体を偽り。仲間を集めた後で魔王城へリトライをしなくてはいけない、ということだろう。


頷くオレの横で、ネクは胸の前で両手をぐっと握る。


「では、これから二人のラブラブ生活ライフを存分に楽しみましょうね!」


「わっかんねえよ!!」


キラキラと瞳を輝かせてなんの疑いもなく言うネクを見て、やっぱりこの子の考えてることを予測するのは非常に難しいそうだと思い至っていた。




「ありがとうございました」


「いやあ困った時はお互い様だ。若いのにこんな世の中で、教会の用事とはいえ兄妹だけで旅なんて気をつけてな!」


「はい、がんばります!」


ネクが馬車の御者に数枚のゴールドが入った包みを手渡し、笑顔で見送られてこちらに戻ってくる。


「さあ、レオくん。やっと硬い床に敷いた布の上で眠る生活から解放されますよ、嬉しいですか?」


「いやオレとしては硬さはともかく、ベッドは二つがいいなあ、と」


「たしかに兄妹で恋人用の部屋だと、これまでのように一つの寝具の部屋だと怪しまれる可能性がありますね……うーん、設定を考え直すべきかなぁ」


「ん、どうかした?」


「ううん、独り言なので気にしないでください」


「……へーい」


なにか不穏な言葉が聞こえたような気がしたが、深入りした方が怖そうなので詮索はやめておく。


それから尻の痛くなる馬車の荷台から降りて、歩くこと数分。


オレたち遠目から見えていた、背の高い木製の柵に覆われた小さな村の前に到着した。


門の前に立っているのは守衛というには、心許ない装備を身に付けた図体の大きい男が一人で立っていた。


あの装備、ギルドの人間じゃないよな? もしかして村の人間が見張りをやってるのか。


少し違和感を覚えながらも口にはせず、門の方へと歩く。


目の前に来たところで、オレたちを物珍しそうに見ていた守衛の男が一度止まるように声をかけ、戸惑いながら尋ねてくる。


「止まってください。あの失礼ですが、シスターがどうしてこんな所に?」


「実は教会の使いで近くに来たのですがポーションなどが底をつきそうになり、もう数日は歩いているのですが入れてもらうことはできませんか?」


ネクの言葉を聞いて、オレはさっき渡された彼女のバックパックを手に持って揺すって見せる。


「は、はい! そういう事でしたら、どうぞお入りください」


「ありがとうございます」


快く通してくれる男にネクがお辞儀をする。


その後。守衛の男が外から声をかけると、


「おい、門を開けろ!」


内側にいる同僚との二人がかりで門が音を立てて開いた。


「さすが民に寄り添う聖女様は顔が利くな」


「元ですけどね。ですが使えるものは使わないと」


そう言って片目をつむるネクに並んで、オレは村の門をくぐった。


村に入って中央の広い道を進んで行くと、シスターと剣士という珍しい二人組であるオレたちに村の人たちから様々な視線が集まる。


そんな野次馬の中。少女と並んで立っていた少年と目が合い、なぜか手を振られた


「……?」


無視をするようなことでもないので、オレは少年に小さく手を振り返す。


「サービス精神があるんですね」


「いや。あの子にオレがどう見えてるのか分かんないけど、できれば子供をがっかりさせたくはないだろ?」


「お優しいんですね」


「いや自分がそう思うってだけだよ」


「それでも、わたしはかっこいいと思いますよ」


「お、おう……」


隣を歩くネクに見つめられながらそんなことを言われ、オレはこの話題をすぐにでも終わりにするために村の景色に目を向けた。


「そんなことよりっ! こんな小さな村が柵で覆われてるなんて、ずいぶんと大掛かりだな」


「三年前ならそうですね。でも、今は田舎でもモンスターへの警戒はしていて損はないんです」


「へえ」


「世界の混乱に乗じて出世を急ぐ魔王軍のモンスターが村を襲ったり、止められる者のいない魔王がいつ侵攻を開始するかも分からないですから」


「……そっか」


考えてみれば当然だ。この時代は勇者サンが三年前に魔王に敗北した世界。


言ってしまえば、大陸の平和を託されていた勇者がいなくなった暗黒の時代なんだ。


それに伴い、モンスターの活動が活発化してもなにもおかしくない。


「ってことは、まだ勇者の生まれ変わりは見つかってないのか」


「さあ? わたしは別に勇者に興味はないので」


ネクの言葉を聞いて、思わずなにもない道で躓きそうになる。


「……この世界にそんな奴いるの?」


「ここに」


「えー」


変わり者のネクの発言に思わず、顔が引きつる。


「まあ王国からなんの情報も世界に伝えられていないのならそういうことなのでは? 勇者の誕生は大陸全土、全種族の希望なんですし」


「まあそれもそう、だな」


ネクの他人事な言葉を聞いて、オレはかつて多大な期待を背負って戦っていた友の背中を思い出さずにはいられなかった……


「あ、ありました!」


「ん?」


オレが思い出にふけって歩いていると、突然、上を見上げていたネクが目当ての──宿屋の看板を見つけて指を差す。


そして早歩きで両開きのカウンター扉を通って、先に中に入って行く。


「まったく楽しそうだなあ」


まあ無理もないか。


数日ぶりの屋根のある場所での休息だし、ずっと落ち着ける場所でゆっくりしたかったんだろう。


「ふっ」


この間決めたばかりの配役なのに、オレはおてんばな妹を見ているような妙な気分に少し可笑しくなった。


それから口元の緩みを直して、ネクを追いかけて宿屋に入る。


「おやおや、旅のお方ですか?」


遅れて中に入ると、ふくよかな女性の店員がオレたちを接客用のビジネススマイルで迎えた。


「ええ、そうですね。旅の途中に村を見つけたので宿に泊まりたくて」


「ええ、ええ、それはそうでしょうねぇ。ここは宿屋なんですから、武具や酒が欲しくて来られても困ってしまいますもの」


ニコニコと慣れた様子で接客する店員にネクが淡々と話す。


「じゃあ、とりあえず二人。同室でいいので数日間泊まりたいのですが」


「えっ!?」


初耳の情報にオレはカウンターで店員と話すネクの横顔を確認する。


そしてオレとは違う理由で、店員の方も驚愕に目を見開いていた。


「まあ! それはそれは太っ腹なお客さんだねえ!」


「ええ、これで足りますか?」


ネクは金貨がジャラジャラと音を鳴らす大きな布袋をカウンターテーブルの上に、ドンっ! と置く。


「お釣りは結構ですので」


「……あんた、何者なんだい?」


気前の良すぎるネクに、店員も若干引いているようにも見える。


そりゃそうだ。少し前にヤバさの一端を知ったオレですら少し引いているんだ。


出会ったばかりのこの人が引かないわけがない。


「実は訳あって教会の使いで旅をしているんです」


シスターの格好でそう言うネクが、まさか嘘を言っているようには見えないだろう。


「そちらの方は?」


しかし、そこで。


店員はネクではなく、ずっとネクの背後に立っているオレの方に視線を向けた。


まあシスターが旅をするのも珍しいけど、護衛が男一人なのもかなり珍しいことだからな。


「この人は護衛をしてくれている、わたしの“兄”です」


「ど、どうも」


自分の立ち位置がよく分からず、オレはぎこちない会釈だけして挨拶を終える。


正体隠してるのに、無闇に名乗るのはまずいだろうし。


「ああ、お兄さんなのね。二人とも若そうなのに大変ね〜」


「おい、なんでもいいだろ。金さえ払えば、お客様だ」


まだ世間話を続けようとする女店員の声を、部屋の隅で椅子に座って難しい顔で新聞紙を読んでいた男が遮った。


どうやら、この店はこの二人で営んでいるらしい。


「あら、引き止めてごめんなさいね」


「いえ、大丈夫です」


「はい、これが部屋の鍵。きれいに使ってね」


番号札の付いた鍵を店員がカウンターの上のゴールドの横に置く。


「ありがとうございます。気をつけますね」


「どうも」


無愛想すぎるのもアレだと思って、ネクの後に続いてオレも一言お礼を言う。


元々、愛想とか良い方じゃないから言わないよりマシって程度だけど。


……よくこういうことで、ルナがオレやゴードンにおかんむりになっていたっけな。


「……レオくん?」


「あ、うん? どうかしたか」


「いえ……なんでもないです。それよりまず部屋に向かいましょうか」


「?」


鍵を受け取って振り向いたネクは一度オレの方を見て立ち止まり、鍵の番号と同じ番号の部屋へ向かって歩き出す。


その背中にオレは大人しくついて行く。


今、ネクから強烈な視線を感じた気がしたけど……気のせいか。

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