六章『剣師(ソードマスター)』⑥
6
レオの手を離れた片手直剣が宙を舞い、数メートル離れた村の門の前に立つネクの足元へと突き刺さる。
遠くの村人たちは地面に叩きつけられたレオの無惨な姿を見て息を呑み、
「ブヒャヒャヒャヒャ!」
「さすがです、トゥエルブ様!」
「ざまあみろ! このクソ傭兵!」
部隊長の後方に控えた数匹のオーク達はニヤニヤと下品な顔で嘲笑っている。
人々の瞳から希望が消え、目の前にそびえる巨大な絶望が未だ祈りを捧げているネクに語りかける。
「……ふん、弱いな。次は貴様か?」
「兄が負けた場合はそうなりますね」
動かなくなったレオをつまらなそうに眺めるオーガ・トゥエルブの問いに祈りを中断したネクが頷いた。
「先程からの貴様の身のこなしを見ている限り、聖女のくせに少しは格闘戦もできるようだな」
「ええ、兄を見習ってわたしも少しは鍛えていますから」
「足元にも及ばんとはいえ、返り血の聖女以外にもそんな聖職者が存在するとはな」
トゥエルブのその言葉から見えた敵の内情に、幹部になる前の二つ名を出されたネクは内心でほくそ笑む。
(わたしが魔王軍の幹部を辞めたことはまだ魔王軍侵略域外までは伝わっていないみたいですね)
「あの教会の裏切り者ほどではないかもですが、あなたの相手くらいならできると思います」
「全く兄妹揃って腹立たしいな」
「似ていてごめんなさい。兄はわたしの憧れなので」
そんな態度はおくびにも出さず他人事のように言うネクに、トゥエルブは上官への侮辱にさらに怒りを募らせる。
「ならば構えろ」
「構える? なぜそんな必要が?」
「貴様も、憧れの隣で死なせてやると言ってるんだ」
とぼけたネクに殺気を放つトゥエルブが眉間に青筋を立てて告げた。
けれどネクは真顔になって顔を横に振って申し出を否定する。
「勘違いしないでください。わたしは戦いませんよ」
「なんだ、口先だけで絶望で戦う意志も残っていないのか」
「いいえ」
「ならば無抵抗で楽に死にたいということか?」
その問いにもネクは首を横に振った。
「言ったじゃないですか。わたしの出番は兄が負けてからだと」
「あ? ふざけた事を抜かすな。俺様の全力を喰らって、人間ごときが生きているわけがないだろうが」
トゥエルブは地面に体が埋まり、無惨な姿でピクリとも動かなくなったレオに目を向けて失笑を漏らす。
その不愉快な笑いをネクの青い瞳が睨みつける。
「ふざけているのはあなたです」
「なに?」
「レオくんの死を許すことができるのは、この世にわたしだけです!」
月夜の下で言い放つネクの声が届いたのか。
トゥエルブの足元で地面に上半身をめり込ませている、ボロ布を着た剣士の指先がピクリと動いた。
「っ!?」
「レオくん、立ってください。必ずわたしがあなたを勝たせて見せます」
「バカなっ!? 貴様は俺様のメガインパクトをもろに喰らってはずだろう!」
そのままよろよろと立ち上がる剣士にネクは突き刺さっていた片手直剣を投げ渡した。




