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六章『剣師(ソードマスター)』⑤

5




星の下を息を切らせて走り続けたオレのたちの視界に、やっと村の南門の両側に設置された松明の灯りが見えてくる。


灯りを目にして、


「おお見えてきた! 俺達の村だ!」

「本当に帰って来れるなんて、もう何年ぶりだ……」


その場で膝から崩れ落ちそうな村人たちの姿に、オレも自分の故郷の風景を思い返していた。


……みんなは元気に暮らしているのかな。


「開けてくれ、俺達だ。帰ってきたんだー!」


どんどんと、男たちが門を何度も叩く。


やがてゆっくりと門が開かれた。


「お、お前達……どうして?」


門の内側に立っていた門番の男は、一緒に逃げてきた村人たちに震える声で問いかける。


「この二人に助けられて、あの鉱山から逃げてきたんだよ!」


「おい嘘だろ。また無事で会える日が来るなんて……愛の女神ラブリに祈りが届いたんだな」


声を詰まらせた門番の男の瞳から一筋の雫が溢れる。


良かった。これでオレが勝ちさえすればこの村の全ての人が救われるんだな。


数年振りの感動の再会を果たした村の男たちが喜びから肩を抱き合う光景を前に、オレも目頭が熱くなってしまう。


「……」


「ネク? ど、どうした」


突然、ネクが震える手でオレの手をぎゅっと握る。


「ごめんなさい。少し弱気になりそうで……嫌なら振り解いていいですから」


「たしかに、みんなの前だしね。また風評被害でバカにされたら嫌だしな〜」


「そ、そうですよね」


「でも仕方ない。だってオレはみんなの前ではネクの兄さん、だからね」


理由は分からないけど、この世に頼る人間などいないのはネクもオレも同じはずだ。


だから臆病になって不安そうに握ってくる手を、強く握り返した。


「妹の手を払うなんて、そんなことできないよな?」


そう言って笑いかけようとするとネクに顔を背けられてしまった。


「はい……当たり前ですっ! もしちぎれても放さないでくださいっ」


「言い方こわいのやめない」


けれどオレは、目元に腕を当てて短く鼻をすするネクの行動を追及はしなかった。


「大丈夫。キミは一人じゃない」


「ごめんなさい」


「別に謝ることじゃないよ」


「いえ、そうじゃなくて」


「うん?」


「今、すぐにでも宿屋の二人きりの部屋に戻りたくなりました」


「いやもうすぐ敵が来そうだからくつろいでる暇とかはないよ?」


「ええ、だから空気の読めないこの世界にキレそうなんです」


「ええ……」


泣いていたと思ったら突然キレ出した妹の背中をオレは唖然として眺めるしかできなかった。


そうこうしていると門の騒ぎを聞きつけた村の人たちが南門に続々と集まってくる。


「あんた、まだ厄介ごとを増やしたのか」


そこには村長も居て、オレを見つけると真っ先に怒られてしまった。


「すみません。責任はオレが負いますから」


「……」


「こんな大事になってしまったら、流石にヤツも黙っていないだろう」


「それでも手が届く距離に苦しんでいる人が居たら、助けたいんです」


「ふんっ。綺麗事で飯が食えたら、あんたは一生食いっぱぐれないで済みそうで羨ましいね」


「それは、褒め言葉として受け取るよ」


「ふっ、ここまで来たらもう勝手にしろ」


笑っているオレを見て、村長は話が通じないと諦めたのか認めてくれたのか分からないけれど。


村長はそれ以上の文句はなさそうで、オレから離れて村の人たちに元へ歩いていく。


「やったな、ネク。あとはアイツらを」


「レオくん、あぶない!」


「──!」


ネクの声に背後を振り返ったオレの元へ、高速で移動するオークが飛んできた。


「はっ!」


瞬時にオレの前に割り込んだネクがそれを真横に蹴り飛ばし、宙を舞うオークは夜の闇の向こうへと飛んでいく。


遠くでなにか大きなものが川に落ちた音が聞こえた。


「あ、ありがとう。ネク」


「いえいえ、戦闘のお手伝いはしないつもりなのでこのくらいなら」


正直、危なかった。


もし今のオークを正面から受け止めていたら自分ごと後方に吹き飛ばされて、ネクとの死霊術ネクロマンシーのリンクが切れていた。


目を丸くするオレに、少し離れた所で街道をふさぐオークたちを引き連れて立っているオーガが尋ねてくる。


「貴様が俺様の部下達を無駄にした男か?」


その姿を見て、怯えた村人たちが門から村の中の方に退いていく。


「はい! あいつが多くの同族を葬ったんです!」


そうか。コイツがこの村を人質にしてあの鉱山の上でふんぞり返っていた部隊長(クソ野郎)か。


「俺様が、いつお前に返事を求めた」


「え?」


問いに代わりに答えた部下を見下ろしオーガが詰め寄る。


部下オークの分際で俺様の会話に割り込んでんじゃねえ!!」


「ボゲェェ!?」


そして怒り狂ったオーガはその肉体通りの馬鹿力でオークの頭を殴り潰した。


「!」


「おい、貴様に聞いてるんだよ人間! さっさと答えろ!」


仲間をいとも簡単に手にかけた部隊長(オーガ)がオレに向かってイラついた様子で聞いてくる。


「ああ、そうだ。オレが全部倒した」


質問にオレは首を縦に振る。


「その態度、どうやら少しは骨の奴あるみたいだな!」


「どうだろうな。ただの通りすがりの傭兵だよ」


「フン! 通りでこんな大陸の隅っこにあるちっこい村なんかに居るわけだ」


勝手に得心を得たようなオーガがオレを見て鼻で笑う。


「この先の高レベルのモンスターに勝てないと悟り冒険者を辞めて、ザコと戦って日銭を稼ぐ惨めな元冒険者。それが傭兵なんだろ?」


「そうだな。その傭兵だ」


「どうだ? 部下ザコを倒してする英雄気取りは気持ち良かったか」


「ああ、だから今からお前の相手もするんだ」


「これはまた大きく出たなあ」


「いいや、オレは素直さが取り柄なんだ」


「貴様らの言う討伐レベルというやつでも、俺様はこの辺の奴らの倍は強いぞ?」


「よーく知ってる」


通常のオーガの討伐推薦レベルは20。


数字ではただの倍だが、この辺の生息モンスターと比べれば単純な戦闘力ではそれ以上。


まして部隊長ともなれば討伐推薦レベルはあと5は増えてもおかしくない。


「知ったうえで、こんな場所でくすぶってる傭兵ごときが俺様に勝機があると?」


「ああ」


「なら冒険者くずれがどこまでれるのか、見せてもらおうか!!」


涼しい顔で頷くオレに、激昂したオーガが真っ直ぐ突っ込んでくる。


巨体が月を隠してオレに影を落とし、振り下ろされた拳が大地を砕く。


盛大に土砂を撒き散らす拳をかわし、踏み込んで加速する勢いでオーガの手首に骨の短剣を振り下ろす。


「はぁーっ!」


刃がオーガの手首に直撃した次の瞬間。


刀身は根本からぽっきりと折れる。


「っ!」


やっぱり骨の短剣(これ)では、コイツには通じないか。


「雑魚の骨なんぞで作った剣で俺様の筋肉に傷が付くわけがないだろうがっ!」


迫る追撃へ、オレは残ったもう一本の短剣の刃に手を当て、腰を下ろして構える。


「確かに肉体は硬そうだ」


「ああ、そうだ! 当然受け止めることも、できん!!」


「スゥー……」


息を深く吸い。


潜水しているように世界が遠く感じる、研ぎ澄ました感覚の中でオレは目の前に迫る巨拳を見定める。


「ペシャンコだ!!」


刀身の先に拳が触れた瞬間──。


力に逆らわず刃先で受け流し、拳の側面に体を滑らせてパリィをする。


「ふっ!」


次に、こちらを睨んでいる拳を振り抜いて隙だらけのオーガの顔に目がけて短剣を投擲する。


「があぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


この程度の強度の武器では、ここまで格上のモンスターの皮膚を切り裂くことは出来ない。


「目が、俺様の目がぁぁぁぁ!」


ただし、鍛えることの出来ない眼球は例外。額を手の平で抑えながら痛みにオーガが悶え苦しむ。


その時、村の門から少し離れた村人たちの野次馬の中から少年が走ってくる。


「カイ、危ないから早く戻ってきなさい!」


その姿に鉱山にいた若い男が手を伸ばして必死に呼びかける。


「くたばれ、ばけもの! 二度とこの村に来るなっ!」


「カイ!?」


金装飾の剣を背負ったカイは、オレの数メートル後ろで祈っていたネクの隣からオーガに小石を投げる。


「ガキィィィィ!」


「もうおまえなんかから逃げないぞ! 村と父さんを二度と渡すもんか!」


「ぬぅん。ならば貴様から殺してやろうじゃねえか!」


石を当てられ、激昂したオーガがカイ向かって爆音のような足音を立てて向かっていく。


「くそっ!」


目の前を横切るその巨体の後を追う。


「カイ、逃げろ!」


「うあぁぁぁぁ!」


オーガを見上げて怯えるカイが、身動きできずにただ待ち受ける結末に立ち尽くす。


ダメだダメだダメだダメだダメだ!!


オーガの背後から、見える絶望の数瞬前を眺めるオレは自分の無力さに貫かれながら、それでも足を止るわけには行かずに走った。


「潰れろ!」


振り下ろされた殴打の衝撃が地を揺らした。


オーガの背後から見える光景にオレは足を止める。



「まったく……見学するにしても両親のそばにしなさい。あなたに何かあったら兄が責任を感じてしまうじゃないですか」


「え、シスター?」


そこには、カイを脇に抱えて門の内側へと飛び退いたネクが立っていた。


「ほら、無事なら早く父親のそばに行きなさい」


「う、うん」


放されたカイが村人たちの元へ辿り着く。


それを見届けて心の底から安堵するオレの視線に気づいたネクが微笑む。


それに「良くやってくれた」と強く頷く。


「カイ、剣を!」


父親の隣に立つ少年に預けていた相棒の返却を頼む。


「シスター。これをおにいさんに!」


カイが背負っていた柄に金の装飾が施された剣をネクに渡すと、


「レオくん、いきますよ!」


ネクは巨大なオーガの頭上を超えるほど大きな放物線を描いて剣を投げる。


「敵の目の前でそんな見え見えの行動が通るか!」


自分の真上を通過しそうな剣に向けて、オーガが屈んで飛び上がろうとする。


それを見て、


「だろうな!」


「なっ!?」


低くなったオーガの背を蹴って、駆け上がって飛び上がり。


オレは上空の剣を掴み取った。


「よし!」


そして無事にオーガの目の前に着地する。


背負った鞘から剣を抜き、飛び越えたオーガに振り向いて構える。


「なんだ貴様、その剣は」


「これでやっと本気が出せる」


落ち着く馴染んだ柄の感触に深く息を吐き。顔を上げて、少年の方に視線を向ける。


「カイ、よく勇敢に立ち向かった!」


「うんっ!」


「ここからは、オレの役目だ」


「おねがい、おにいさん! この村を守って!」


「まかせろ!」


カイの声を背中で受け止め、オレはご立腹な様子のオーガに視線を戻す。


「そんな剣一つで戦況が変わったとでも言う気かあ!?」


「試してみるか? カイの意志もオレが代わりに遂げさせてもらう」


「全くイラつく野郎だ。それによくも傭兵風情が俺様の顔に傷を付けてくれたなあ!」


「あの装備じゃ、そこ以外に攻撃が通じなさそうだったから仕方ないだろ」


「黙れッ! 貴様は絶対に骨の一本も残さずへし折ってからあの世に送ってやるぞ!」


「う〜コワイね」


おどけて肩をすくめ、オレは目の前の敵を見据えた。


「一撃なら弾けても、連打ならどうだ!」


拳をパリィされたオーガは素早い連打を降らせる。


「それは無理!」


受け流すには多すぎる頭上から手当たり次第に落とされる腕を避け、


「がぁぁぁぁ!」


避けた腕に手当たり次第に斬線を走らせた。


「痒いわ! その程度で俺様に傷を負わせたつもりか!」


「些細な傷でも、このままいけば必ずいつか倒せる!」


オーガが拳を落とす度にオレは足元で走り続けて腕や脚に浅い切り傷を刻んでいく。


どんなに強靭な体を持っていようと、少量でも血が出ているならば勝機はある。


最近のオレならば、このままスタミナでの根比べをしたとしても負ける気はしない!


「ぐっ、足元をちょこまかと走り回りやがってえ!」


そこで地面を殴り続ける拳の雨が止む。


「……?」


「ならば、これでも避けれるかぁぁぁぁ!」


オーガが不敵に笑い。


大規模な破壊をひき起こすと容易に想像できる血管が浮き出るほど力んだ両腕を高く振り上げた。


オーガの力を溜めた隙だらけの絶好の体勢に、オレはがら空きになった首元へ飛び上がる。



自分の全力を試すなら、ここしかない!



「ふんっ!」


背に溜めた刃を屈強な首へと振るう。


「ヌンッ!!」


「っ!」


けれど、力んだオーガの首へ水平に振った刃は浅く食い込んで動きを止めた。


勢いを失い、刃が首元からすり抜けて体が落下する。


落ちていく視界に映るのは、オレを追いかけるように迫る膨張するほどに力を溜めたオーガの分厚い両腕。


「メガインパクト!!!!」


「──っ!」


途方もない衝撃が正面からオレを襲い、そのまま地面に叩きつけられ、背中を叩きつけられた大地が割れる。


「がっは……」


マズった……もらった攻撃のダメージが大きすぎる。これじゃあネクの回復も間に合わない。


上手く呼吸ができず、急速に暗くなっていく視界の中でオレは意識を手放した。

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