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六章『剣師(ソードマスター)』

1




「おら、さっさと歩け!」


「イテッ、いちいち蹴るなよな」


村からどれほど経っただろうか。


街道から外れた道をしばらく荷車で運ばれていたオレは身に付けていた防具を全て脱がされて、丘の上に城壁が見える鉱山ような場所で降ろされた。


「ネク、あれ」


「はい。モンスターエッグですね」


洞窟の入り口の前の広い空間には別の場所からここに運ばれて来ていた。


その荷車にはちょうどゴブリンがすっぽり収まるサイズの奇妙な模様の卵がいくつも積まれている。


モンスターエッグ、それはカオスバードという大きさから姿形まで様々な姿がいる怪鳥が産み落とすモンスターが生まれる卵。


モンスター同士でも繁殖は可能なようだが、不吉の象徴のような神出鬼没のあの怪鳥がいる限りモンスターが絶滅することはありえない。


「あれがここにあるってことは、ここがコイツらの棲家ってことか」


「そのようですね」


「おいそこの奴隷、早くこっち来い!」


「あ、はい!」


洞窟の入り口の前に立っているオークに呼ばれ、目の前まで行くといきなりつるはしを押し付けられる。


「これは?」


「掘るんだよ! お前ら役立たず共がそれで手下ゴブリン達の家を広くすんだ!」


距離に見合っていない声量で喚くオークが指差す洞窟の入り口へ、オレは仕方なくボロ布の服を着てつるはしを担ぎながら向かう。


「はいはい、わかりましたよ」


「レオくん、やるんですか?」


「えっと、う、うん」


まあフリだけど。


「てゆうか、お前はなんでついて行ってんだ!」


オレの後ろについて洞窟に入ろうとするネクをオークが呼び止める。


「だめ、ですか?」


「シスターは部隊長の所へ連れて行くって言っただろうが! あとその服も奴隷用の物に今すぐ着替えろ!」


──バゴッ!


ネクが洞窟の外壁を殴りつけ、拳が岩肌に大きなヒビを生む。


「だめ、ですか?」


ネクがオークに笑いかけて、もう一度問いかける。


「いえ、とりあえず彼について行ってもらって大丈夫でーす。へへ」


怯えた顔で笑うオークはそう言って別の持ち場に走り去って行った。


「さあ、いきましょうか」


「お、おう」


洞窟に入り、ランタンの光を頼りに他の人を探して歩く。


「それで、ここからどうするんです?」


「せっかく自分たちの家に招いてくれてんだし、盛大に盛り上げなくちゃだよな」


「わたしにまかせてくれれば、あのモンスターたちを後悔させてやりますけど」


「いえ結構です」


その提案をするネクの笑顔にはご褒美という文字が書いてあったので丁重に断っておく。


というかオレが強くなる為にも全てをネクに任せてばかりもいられない。


「それよりまだアレはちゃんと持ってる?」


「ええ、わたしは持ち物検査はされませんでしたから」


「う、うん」


いやされなかったというか、しようとしたゴブリンがネクの放つドス黒いオーラに気圧されて、目視のみで済ませていたんだと思うけど。


たぶん、モンスターゆえに本能でネクの強さに気付いたんだろう。


「でもこんな小さな物ではいつものようにはいかないと思いますよ?」


「そうだな。でもそれも大丈夫さ」


「?」


つるはしを持って洞窟の中で、オレはやっと先輩の元村人の男を見つけたので声をかける。


「あのちょっと聞きたいんだけど、ここに連れて来られた人ってどれくらいいるんだ」


「いやあんた誰だよ? 無駄口叩いてると鞭で打たれるぞ」


質問に、男はつるはしを壁に打ちつけながらそっけなく答える。


「オレはレオ。村の人を助けた罪でここへ連れて来られた傭兵だ」


「ってことは勇者にでもなったつもりで舞い上がったおバカさんってことか」


「まあ勇者に憧れてないって言ったら嘘になるな」


「なら現実を見ろよレオ。この世界には生まれた頃から特別な奴らがいるんだ」


「ああ、凡人のオレにはよくわかるよ」


「だろ? だから俺達にできるのはここで真面目に働いて村にいる家族を他のモンスターや賊から部隊長に守ってもらうくらいのもんさ」


「……それがあんたたちがここで働く理由か?」


「引いたか? でもなギルドも教会もないうちの村がこの時代を生き抜くにはモンスターとの契約でも無いよりましなんだぜ」


そういうことか。


それを聞いてあの村長がモンスターの機嫌を損ねないようにしていた理由がわかった。


やっぱり、あの人はあの人なりに村のみんなを守る為に精一杯戦っていたんだな。


「それとも夢見る少年は居もしない冒険者に助けを求めろとでも言うかい」


「ごめん。オレがもっと早くどうにか出来ていたらよかったのに」


あの日、オレが負けていなければこの村もこんな悲劇に巻き込まれなかったかもしれなかったんだ。


また自分の不甲斐なさが嫌になる。


「ははは、気にすんなって俺達はもう冒険者にだって期待なんかしてないからさ」


笑って肩を叩いてくる男は、そこでオレから視線を外して、


「それでさ、触れるのが怖かったから言わなかったんだけど、そこの大きいなシスターって君にも見えてたりする?」


背後に立っていたネクに視線を向ける。


「ああ、この子は気にしなくてもいいから」


「いや無理だわ気になるわ! なんで当たり前のようにシスターの格好した美少女がこんな所に出入りしてるんだよ!?」


軽く流して話を戻そうとするが、やっぱりダメだった。


「シー、ちょっと落ち着いて!」


「落ち着けないだろ! ここに二年以上いるけどこんなん初めてだよ」


「今はそれよりここに連れて来られた人間たちのことが知りたいんだ」


「レオだっけ。お前、さっきからそんなこと知ってどうするつもりだよ?」


「ここからみんなで抜け出そう。村に帰るんだよ」


「……はあ?」


オレの意気込んだ言葉に男は間の抜けた声で答えた。

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