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五章『勇者なき世界の姿』④

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翌朝。


目覚めたオレは、窓から差し込む陽の光に照らされて頭巾からはみ出る結った金色の髪を輝かせている、今朝はすでに準備を終えていたネクの青い瞳と目が合った。


「おはようございます」


「お、おはよう」


起き抜けにネクの姿を見て、一瞬この前の光景が視界にフラッシュバックしかけたオレは、


「ふん!」


拳骨を頬に叩き込み。邪な想像を追い出す。


「レオくん!?」


「いや、大丈夫。眠気覚ましに一発かましとこうと思っただけだから」


最低だぞレオ・ウィング! 


いくら衝撃的だったとはいえ、ネクを見て下着姿を思い出すなんてっ!


「?」


オレの奇行を見て、不思議そうにこちらを眺めるネクから目を逸らし、気を紛らわすために窓の外の道に視線を落とす。


そこでは村の子供たちが無邪気に駆け回っていた。


「まだあのオークの仲間や部隊長は来てないみたいだな」


「そうですね。でも近いうちに必ず来ます」


「ああ。この間に向こうが策を練っていたら厄介なことになりそうだ」


「たぶん、それはないと思います」


「え?」


オレはこぼした不安をあっさり否定するネクを見る。


「敵はわたしとレオくんの存在を知らないんです。村人の反乱如きに策や警戒をするなんて魔物にとっては恥すべきことでしょうから」


「そういうものなのか」


「ええ、魔王軍(彼ら)は人類側に希望を与えてはいけないと考えてますからね」


「なら、なおさら徹底するんじゃないのか」


「相当な策士でもない限りそれはないと思います。大抵の魔物は多種族たちにビビったら負け、と思っていますから」


「なるほど」


「はい、だから大丈夫です」


今の魔王軍の事は三年前に死んだオレより三年間、勇者を失ったこの世界で生きていたネクの方が詳しいだろう。


「そういうことならその点においては心配は要らなそうだな」


「問題はおそらく序列が下の方とはいえ、魔王軍十二部隊の隊長が相手ということですね……」


魔王軍十二部隊は魔王軍幹部の下にいる組織で、数字が小さくなるほど実力は強くなっていくという決まりがあるようだった。


まあこんな平和な田舎に拠点を置く奴なので、出てくるのはたぶん二桁の部隊長になるはずだ。


「大丈夫だって、勝機ならあと少しで出来そうだから」


「むしろ今の所は怪しいんですね大丈夫じゃないんですね?」


「為せば成る、だろ」


「はあ、万が一の時は私も手伝いますので安心してください」


「それは頼もしいな!」


というか洞窟でのネクの戦闘を見た限り、彼女なら一人でも勝てそうな気はする。


俄然、勝率が高くなって喜ぶオレにネクが近づき、肩に手を置いて耳元で囁く。


「その代わりご褒美はキスでおねがいします。ね?」


「よし、絶対に一人で勝つぞ!」


瞬時にネクの手を振り払ったオレは窓から見上げた空へ拳を突き上げて気合いを入れ、


「ってことでネク。朝飯、食べに行こう」


彼女を置いて先に部屋を出ていく。


「あれ? 無視……」


扉越しに聞こえた追及の声は聞こえないフリをすることにした。




「ごちそうさまです」


「うん」


朝食を済ませて店を出るとネクが律儀にオレを言ってくる。


オレたちが食べたのは大陸中で食べれる安い肉料理で、そこまでありがたがる物でもないんだけど。


「むしろここの支払いをまかせてくれてありがとね」


「いえいえ、レオくんがしたいのであれば構いません」


とか言いつつ、速攻で席を立って支払いを済まそうとするネクの前に割り込むのに苦労したけどね。


腹を満たし、オレは次の目的に向かって歩き出す。


「それじゃあ……」


「レベリングに行くんですね」


「いや今日はちょっと買い物でもしよう」


「え、それはもちろん嬉しいですけど大丈夫なんですか?」


「うん。大丈夫にするためにも行こう」


その言葉に疑問しかなさそうなネクを連れ、オレは表通りの中央にある多くの商店が並ぶ広場に向かう。




「これ、なにに使うんですか?」


「使わなければいいけど念の為かな」


広場で目当ての物を手に入れたオレたちは一度宿屋に戻ろうと村の中央を通る往来を歩いている。


「ん?」


すると村の南門の方に人集りができているのが見えた。


「おらあ、人間共舐めた真似しながって!」


その向こうから聞こえた声に、オレは早足になる。


「行こう!」


「はい!」


唐突に来てしまった『その時』に向かってオレは駆け出した。


駆けつけた村の出入り口である門のすぐ前に出来た人垣の後ろに到着したオレは村人たちの視線が集まる先を覗く。


門の外には数匹の敵の姿と複数の荷車が見えた。


その先頭には一匹のオークが立っており、


「この村に向かった仲間達が、二度も帰って来なくなった事態が起こってる!」


「そ、それは……」


「これが偶然な訳ねえよなあ!!」


「待ってください。それなんですが、それは私達の仕業ではありません」


村人たちの前で村長と憤るオークが話をしている。


「じゃあなにか、ここに向かう途中クソ田舎の街道で冒険者にでも会ってやられたとでも言うのか?」


「そうではなくて、それはこの村に来ていた傭兵の仕業なんです」


「村長!」


「傭兵?」


「彼は村の者を助けてくれたのに、この者たちに差し出すんですか!?」


「仕方がないことだ! この村が明日を迎えるにはこれしかない!」


「おい」


「はい!」


「それはなんの冗談だ」


「いえ、冗談などでなく本当のことで……」


「二日前、ここに来たのはオーク三体とゴブリン十匹を連れた偵察隊だぞ。それが傭兵かなんか知らんがそんな『奴ら』にやられたって言うのか」


「はい。私どもは話を聞いていただけだったのですが、その者が勝手に戦闘を始めてしまいまして……」


「そうかそうか、よーくわかった」


「そうですか。ではその者をすぐに探してきます」


「その必要はねえ」


「え?」


「どうやったかは知らないが、お前達が本当の事を話さないのなら今回の食糧を三倍にして今うちでこき使ってる奴隷の半数を始末する!」


「え……そんな……」


「待ってくれ! 俺達は本当にやってないんだ!」


「ざけんじゃねえ!」


「ひぃっ」


「冒険者ならまだしも傭兵がやっただと? 嘘を考えるならもっとマシなヤツを考えやがれ!」


「そ、そんなぁ」


怒声を叩きつけるオークを前に呆然と立ち尽くす村人たち。


「待ってくれ、この村の人はアンタの仲間に手を出したりしてない。オレが保証する」


「誰だ、お前」


そこに人垣をかき分けて進み出てきたオレに、オークが意外そうに目を留める。


「さっき言ってた傭兵だよ」


「傭兵? 武器も持ってねえし一人しかいねえじゃねえか。他の奴はどこに隠れてんだ」


オークと一緒に来ていた手下のゴブリンたちも警戒して周囲に目を配る。


「だからオレだよ」


「ああ!」


「オレが、一人でオマエの仲間を倒したんだ」


「なにっ!? 本当か村長!」


「はい、本当です。その者が部隊長様の部下の方々を倒しました」


「そんなことがあり得るのか?」


オークはそれでもなお疑いの目を向ける。


状況だけ見れば、オレと村人たちの総出で撃退したという方が信憑性があるから疑うのは当然だろう。


「使いの方」


「誰だ、貴様!」


「わたしの兄に不可能はありません」


「いや、あるよ?」


遅れて現れた偽妹いもうとのビックマウスを訂正する。


「兄がやったと言ったら、やったのです」


「じゃあなんだ、冒険者でもないただの傭兵一人におれ達の仲間が負けたって言うのか」


「そう言うことです」


オークの問いかけにネクが頷く。


「シスター風情が大口を叩くな、クソがぁぁぁぁ!」


ネクの余裕そうな態度が気に障ったのか、オークは怒号を上げる。


「こうなったらこのよそ者共と村中の人間、全員ブッッコロセェェェェ!!!!」


「──待ってくれ!」


「ああ!」


手下たちに命令を出すオークに向かってオレは両手を頭の横にあげて声をかける。


「オレは戦うために名乗り出たんじゃない」


「なら、てめえの目的はなんだって言うんだよ!」


「降参する」


「……は?」


「大人しく降参するから村人に危害は加えないで欲しい。それで、できればオレたちの命も助けてほしいんだ」


「ほう。それが人に物を頼む態度かぁ? あぁ!」


調子づくオークの態度にオレは内心でほくそ笑みながら片膝をついて頭を下げる。


「レオくんっ!? なにをしているんですか!」


後ろに立つネクが悲鳴のような声を上げるが今は気にしない。


「村人の代わりにオレが今回の奴隷になります。だからどうか、村人たちには慈悲を」


「そうかそうか。そこまで言うなら聞いてやらんでもないかなっ!」


「ぐっ!」


膝をついて見上げるオレの腹に、オークがつま先を突き刺す。


「お前ら、食糧を荷車に運べ。今日の所は帰るぞ! 部隊長様に報告だ」


「ゲホッゲホッ、また抑えてくれてありがとう」


「………………」


呼吸を荒げてうずくまりながら囁き。隣に立つ剥き出しの殺気を放つネクに礼を言う。


「ん、なんか言ったか?」


「ありがとうございますって言ったんだよ」


「よろしい。おら早く乗れクソ傭兵が!」


「蹴らなくても乗りますって」


「……わたしの目の前でこの狼藉、覚悟しておくんですね。醜い豚ども」


オレにしか聞こえない押し殺した声でネクがつぶやいた。


そしてオレが荷車に乗り込むと、ネクは今にも出発しそうな荷車に乗り込むオークを睨みつけて口を開く。


「待ちなさい。兄を連れていくならわたしも連れて行きなさい」


「いや別に労働力にならねえし女はいらねえよ」


「シスターは人間たちにとって貴重な人質になりますよ?」


「はっ確かに……! よし、そいつも連れて行け!」


オークがそういうとネクは誰に乗せられるでもなく、自ら荷車に乗り。


オレの真横に腰を下ろす。


「ごめんネク。巻き込んじゃって」


「お気になさらず、わたしたちは一心同体ですから」


「出せ!」


オークの声で手下のゴブリンたちが村の食糧とオレたちを乗せた荷車を引いて、どこかへ向かって進み出す。


「さあ、行き先はどんな所だろうな」


そうして、オレたちはどこかも知れぬ魔物たちの拠点へと荷車に揺られ運ばれていくのだった。

レオ・ウィング。【レベル5】→【レベル8】

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