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五章『勇者なき世界の姿』②

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村の中で村人を脅していたモンスターの一味を倒し、ネクと今後の計画を話していると人垣から見知った顔がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。


「おにいさん、すげえじゃん! レベル5であの数のモンスター瞬殺しちゃうなんて、シスコンなのに!」


「カイの言う通り。おにいさん、すごいかったです! シスコンなのに」


「うぅん……まあ運が良かったかな」


興奮気味で余計な一言を添えて褒めてくれるカイとユイの勢いに押されて訂正を諦めたオレが控えめに答えると、


「こら、アンタ達! 変な人に関わるなっていつも言ってるでしょ!」


この前、話に出てきていた二人の母親がカイとユイに人付き合いの相手は選べと叱る。


「あははは、すいません傭兵さん。わたし達急いでるので」


「ああ、はい。お構いなく」


オレは特に気にせず二人の母親に会釈する。


そしてそのまま二人の腕を掴んでそそくさと人垣の向こうへと消えていく後ろ姿を見送った。


「さ、さっさと片付けちゃうかな」


ここは人の行き交う表通りのど真ん中。


冒険者としてこんな所にモンスターの亡骸を放置していくわけにはいかないので、オレは散らばってしまった十を超える亡骸を冒険者の種火(ロウ・フレア)で一つひとつ燃やしていく。


「全く、余計な事をしてくれたな」


「?」


オレがモンスターの亡骸を燃やしていると、今度は背後から厳格そうな年配の男に声をかけられた。


「礼なぞ言わんぞ。聖女の護衛だか傭兵だか知らんが力を見せびらかしたいなら他所でやってほしいものだ」


「なんなんですかさっきから、あなたたちは」


「なに?」


「兄さんは村の人を助けてあげたっていうのにすごい態度ですね。この村はさぞ性格の良い人が多いんでしょうね」


そばで聞いていたネクが我慢の限界だったのか、オレの代わりに嫌味を言う。


「ほう。ならあのオークが言っていた部隊長が来るかもしれないというのはどうするつもりだ?」


「それは……」


「見ての通り、この村にはギルドも教会も無いし立派な守衛様なんてのもいないんだ」


男の言う通り。


多くの村には、ギルドなんて冒険者が日夜出入りする防衛と収益を兼ねている設備なんて無いし、光の結界で守ってくれる教会も無い。


まして都市で警備や護衛を務めている守衛なんてのは需要な物や人物が訪れている時でもない限り、こんな村に立っていることはあり得ない。


だからオレの生まれた村は、小さくても教会があるってことが唯一の自慢だったんだ。


「今まで食料か男手を差し出すだけで助かっていたのに……あんたらのせいで絶望に追い込まれたんだよ、この村は」


「そうですか。なら、あそこで兄さんが救出してしまった彼を抱きしめている女の人に同じことを言ってくれば良いじゃないですか」


ネクが視線を投げた先では、先程オークに詰め寄れていた村の男の人が年の近そうな涙を流す女の人に抱きしめてられていた。


おそらく、家族か恋人なんだろう。助けられてよかった。


「なっ!? あんた、それでも教会の聖女かっ!」


「まあ! リアリストを気取りたいくせに慈悲深いとも思われたいなんて気難しいお年寄りですね」


「おい、ネク!」


「だって!」


「シスターの身分が高いからと田舎の村民を馬鹿にしおって!!」


「待ってください!」


「冒険者のなり損ない如きが口を挟むな無礼者! わしはこの村の村長だぞ!」


「すみません。オレの独断で勝手なことをしてしまったこと、それに妹の無礼を謝ります」


この村の村長であったその男にオレは地面に額をつけて、できる限りの誠意を示して頭を下げる。


「ふんっ! 貴様なんかの軽い頭をいくら下げられても状況は少しも好転などせんわ」


「っ!」


「ネク、頼む。オレにはこれ以上下げられる頭が無いんだ、堪えてくれ……」


「…………ええ、ごめんなさい兄さん。取り乱しました」


ネクがオレの為に怒ってくれるのは嬉しいけれど、今のはこの村の問題でこの人たちが選択するべきことだった。


なのに部外者のオレが勝手に手を出したせいでこの村に火の粉が降りかかる結果になってしまった。


それだけは言い逃れなどできない。オレの落ち度でオレの責任だ。


「モンスターの件はオレがなんとかする。もしもの時は村の人たちは無関係だと言ってオレを敵に差し出してくれたっていい」


「ほう、その言葉。嘘はないだろうな?」


「ああ、本気だ。だからまだしばらくこの村に身を置くことと妹のことは許してやってくれ」


「そこまで言うならチャンスはやろう。だがおまえさんの命は長くないと思った方がいいぞ」


「ああ、肝に銘じておく」




それからしばらく、村長がその場を去っていく足音を聞いてからオレは頭を上げた。


周囲に目を向けると村の人たちも、それぞれがそれぞれの生活に戻っていき。日が暮れていく表通りにはまばらな本来この場に用がある人だけが残っていた。


周囲から人々が離れていき燃えていくモンスターの亡骸を眺めていると、二人だけになった所でネクが申し訳なさそうに口を開く。


「ごめんなさい。レオくんに迷惑をかけてしまって……」


「迷惑なんて、ネクが代わりに怒ってくれたからその分オレは冷静でいられたんだよ。ありがとう」


優しいネクにオレは素直な気持ちで答えた。


けれど、それでもネクはシュンして地面とにらめっこをしたままで。


見兼ねたオレは俯く彼女の頭を頭巾の上からそっと撫でてみた。


正直これで元気を出してくれるのか半信半疑だったけど、数回撫でた後に若干興奮気味で顔を上げたネクを見てホッとした。


いや、ホッとちゃダメだろ。


まあ普段通りに戻ったということでよしとしようかな。


その反応は妹というより人懐っこい動物みたいだったけど。


「けど不思議だなぁ。なんでこの村の人たちはあんなことがあっても戦おうとしないんだろうな」


「レオくんは村の人たちがなんですぐ家の中に入っていったのか、分かりますか?」


「いや。もう日も落ちてきたし、夕飯の支度とか?」


「たぶん違うと思います。こんな日に呑気に日常に戻れるわけないじゃないですか」


「ってことは、ネクにはわかるのか」


「おそらくですけど三大神のどなたかにお祈りしてるんですよ。明日も知れぬこの悲劇から自分や家族をお救いください、と」


「ああ〜」


そういえば、ユイが女神様って言ってたな。


「そんなことする暇があったら少しでも知恵を絞って戦えよ、ですか?」


「いやいや、さすがにそんなこと思わないって」


「わたしは思いますよ」


「おい。キミ、一応シスターだよね」


元かもしれないけど、その格好(修道服)でなんてこと言うんだ。


「祈っていれば助けてくれる慈悲深い神様の存在なんて、わたしはもう全く信じていませんよ」


「おいシスター!」


すぐに周りを見回すが、今の発言はオレ以外には聞いていた者はいなかったようなので胸を撫で下ろす。


今はネクロマンサーといえど、仮にも聖職者の姿で滅多なこと言うなよ。心臓に悪いすぎる。


「まあ抵抗する云々はともかく、心の拠り所は誰にだって必要だよ」


「そうですね。ちなみにわたしの心の拠り所はレオくんです。あ、言っちゃいましたねっ」


「あ、そっすかぁ」


自分で言うのもなんだけど、その発言に今さらさほど驚きはしないと言うかなんというか。


だから、ジッとこっちを見られても困るんだけど……


「ま、まあ明日からはちょっとレベリングの時間を増やしたいから今日は早く寝よう!」


「あまり無理はしないでくださいね」


「大丈夫だって! 最近のオレ、体がどこまでも動く気がするっていうか調子が良すぎるくらいだから、出来る時に多少の無理はしとかないとな!」


「そう、ですね」


多少強引に明るく答えたのがいけなかったのか。


やっぱり明日からの話をした時のネクの表情は、今の夜空と同じように少し暗くなっていた。

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