四章『蘇ったついでに手のかかる偽妹(いもうと)ができたんだが』⑤
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村で出会った少年に頼まれ剣の振り方を教えてる内にかなり時間が過ぎていたので今日の日課はこれくらいにすることにした。
それに今朝からの暴走気味のネクを見ているとこれ以上この子たちを巻き込むわけにもいかないし。
「えっと、じゃあオレたちはこれで」
「うん、剣を教えてくれてありがとうシスコンおにいさん!」
「結局その誤解は解けてないのか……」
子供たちの前で至福そうに猫撫で声を出す妹を撫で続けた挙げ句。しばらく二人だけの世界を作り上げることになった兄の代償は大きかった。
ため息をついて肩を落とすオレにカイの隣からユイがオレを見上げ、
「おにいさん、レベリングがんばってくださいね」
と励ましの言葉をくれる。
「はい。あなたの言葉はわたしがしっかり兄に伝えておきますね」
それに答えようとしたオレの背後からネクがすかさず返事を奪い取る。
「わたし、おにいさんに言ったんですけど……」
「ふふっ子供だからってあまり調子に乗らないでくださいね」
また笑顔で怖いことを言い出すネクを止めながらオレは子供たちに答える。
「こらこら。ありがとう、オレも二人の目標が叶うように願ってるよ」
「うん!」
「はい!」
カイとユイは仲良く揃って返事をしてくれた。
二人と別れ、少しはマシになってきた村の人たちの視線を受け流しながら表通りを歩く頃には太陽は空高く昇っていた。
これからレベリングへ出かけてもよかったけど連日付き合わせてばかりだし、今日は休息日ということでオレはネクと昼食を求めて村を彷徨う。
「やっぱり子供は元気が一番だよな」
「レオくんって小さい子がお好きなんですか?」
「うーん。特別好きってほどじゃないけど平和の証って気がするから好きかな」
「じゃあまさかそっちの方が好みなんですか!?」
「そっちってなに!? どっち!?」
謎にショックを受けながら声を上げるネク。
オレはそんな様子のおかしいネクが立ち止まるので首をかしげて歩き出す。
その背中に、なぜかとてつもない視線を感じた。
翌日。
ごそごそと聞こえてきた衣擦れの音で目覚めたオレは寝ぼけた頭でまぶたを開ける。
「ふんふんふ〜ん」
「え……」
そして体を起こして伸びをしながら見た目の前の光景に驚いて言葉を失う。
音の止んだ静かになった部屋には向かいのベッドの隣で修道服を抱えた下着姿のネクが羞恥に顔を赤くして立っていた。
「きゃあっ!? レオくん起きてるなら言ってください!」
「あ、ああ。わるいな着替えの途中だったのか」
悲鳴で目が覚めたオレは腕で視界を遮ってネクのあられもない姿をこれ以上見ないよう塞ぐ。
「もう……びっくりしましたよ。心臓が止まっちゃうかと思いました」
「ごめん。でも風呂に突入してきたのにこれはちゃんと恥ずかしいんだね」
そうなのだ。
冷静になった頭で考えるとネクの反応は今までの行動を考えると少し意外だった。
部屋に着くなり抱きついてきたり、オレしかいない男湯に突入してきて背中を流したり。
アレが平気で着替えを見られるのが恥ずかしいなんてことがあるのか。
女心というのは本当に難しいんだな。
「あれは覚悟と準備の上だからです!」
「そうなんだ。まあそれを聞いて逆に安心したよ」
ネクがみなぎるやる気さえなければ、普段はちゃんと恥じらいのある女の子なんだと知れてオレは内心ホッとした。
この子、素で頭おかしいわけじゃなかったんだ。
「……それでどうでした?」
「ん? どうっていうのは」
ネクの突然の問いかけにオレは聞き返す。
そんな察しの悪いオレにネクが暗闇の向こうから少し苛立った声で聞いてくる。
「女の子の素肌を見て気の利いた感想はないんですかと聞いています!」
「あ、ああ」
「ああって……」
がっかりしているの分かるけどオレがこんな感想を求められてまともに答えられるような男に見えたのだろうか?
だとしたらとんだ買い被りだ。
できればオレはそういう気まずいのは全力で避けていきたいと思っている!!
一緒に旅をするネクとなら尚更だ!
まあでも今は罪悪感もあるのでネクの要求に大人しく従うことにしよう。
「えーっと……意外に綺麗ってわけでもないんだね。とか?」
というわけで色々考えた末。オレはなるべく表面的な第一印象を告げた。
「そ、そんな……嘘ですよね? レオくんと過ごし始めてからはより一層気を遣っているのにっ!? それともやっぱりレオくんは無駄に大きな胸が嫌いなんですか? なら今すぐ削ぎ落とします! なのでどうかその判断を下すのは待ってください!!」
「いや早まるな! というかやっぱりってなんだ!?」
しかし、オレの感想を聞いたネクの反応は想像以上に悪く、
「剣をお借りしてもいいですか? レオくんの剣でレオくん好みの女の子に生まれ変われるのならわたしとしてもとても嬉しいのですが」
「良いわけないし、大怪我するでしょ!」
こちらのベッドの脇に置いてある剣へとネクが近づく足音が聞こえてオレは最大限目を背けながら立ちはだかる。
「大丈夫ですよ? わたしの回復魔法の腕は知っていますよね」
「そういう問題じゃない! というかオレが言ったのはそういうことじゃなくってさ」
「他になにがご不満なんですか?」
「不満とかは最初からないんだけど……背中の傷、シスターなのにそんなものがあるなんて意外だって言いたかったんだよ」
そう。オレが言葉を失ったのはネクの下着姿を目にしてからじゃない。
もちろんそれにも驚いたけれど、それ以上に彼女の白く透き通る肌を抉るようにできた大きな鞭で何度も打たれたような傷口が信じられなかったからだ。
「あっお見苦しいものを見せてしまってごめんなさい!」
「見苦しくなんかないよ。むしろそこまでしてオレを蘇らせてくれた覚悟と行動力に素直に尊敬する」
「じゃ、じゃあレオくんはわたしの恥ずかしいこの身を見ても幻滅したりしてないですか?」
「幻滅なんてとんでもない。むしろ見直したよ」
まだ本当の目的は分からずともネクはオレを蘇らせるために命をかけてくれていたのだ。
そんな人を嫌いになんてオレはなれない。
真面目な顔で言うオレにネクはすごく嬉しそうな顔をする。
「あ、じゃあじゃあわたしの胸が大きくて嬉しいですか!」
「いや〜えっとぉ、それはなんというか……」
あれ〜今の雰囲気ってもうその話題は終わってなかったかな?
すぐに支度してレベリングに出かける流れじゃなかったかなあ。
「やっぱり大きいのはダメなんですか!? なら今すぐ削ぎ落とします!」
「いやダメじゃない! ダメじゃないから早まるな!」
もはや視線を逸らすこともできないこちらに近づこうとするネクをオレは必死になだめる。
「嘘ですぅ! だってわたしには塩対応なのに小さな女の子にはあんなに優しかったですもん!」
「それは当たり前だろ! あんな少女を女の子として意識してたらやばいだろ!!」
「むぅ〜!」
「なんでそこでさらに怒るんですか!?」
あれここは安心する所じゃないのか? どうしてさらにむくれるんだ?
なおも納得していない様子のネクを引き止めるためオレは背に腹は代えられないと意を決して叫ぶ。
「とにかく落ち着いて! オレはどちらかと言えば大きい方が好きだからっ!!」
「え、それは本当ですか!」
それを聞いたネクの表情がわかりやすく明るくなる。
「……う、うん」
「それならわたしはおっぱいが大きくて良かったですっ」
「そうだね……なんか、ごめんなさい」
すごく嬉しそうなネクの笑顔を見ているといたたまれなくなって猛烈に死にたくなってきた。
どうしてオレは二人しかいない部屋で下着姿の女の子に自分の好みの胸の大きさを発表しているんだろう……辛すぎる。
「どうして謝るんですか? わたしはレオくんの理想に添えてとても幸せなのに」
「そっか、ネクが幸せなら少しは救われるよ……」
そうじゃなかったら、今日オレは黒歴史のページ数を増やすことになっていた。
「えへへ、でもレオくんが大きい方が好きって知れて安心しました」
「その笑顔を見てオレは今すでに後悔し始めてるんだけど大丈夫そう?」
そう言ってなぜか企み笑顔で一歩こちらに踏み込んでくるネクにオレは後退りをする。
しかし目の前のほくそ笑んで見下ろしてくる女の子と部屋の壁に挟まれてこれ以上の逃げ場はここにはなかった。
「あの〜、でしたら触ってみますか?」
目の前で彼女が両手で持ち上げるたわわな双丘を見てオレは思わずゴクリと生唾を飲む。
そして、
「んなわけないだろバカ!! 頼むから早く服を着てくれ!」
「きゃっ、どうして!?」
目のやり場に困ったオレは自分のベットの掛け布団をネクに覆い被せてベッドに顔を埋めて突っ伏した。




