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四章『蘇ったついでに手のかかる偽妹(いもうと)ができたんだが』

1




朝日が昇りはじめ、東から照らされていく村の人々が少しずつに動き出す時間帯。


目を覚ましたオレは二階の窓から飛び降り。最短距離で外に出る。


人気の無い路地の石畳を鳴らして着地する。


この辺りのまだ少し肌寒い空気に身震いする固まった体で軽く伸びをして、手に待っていた鞘から剣を抜いた。


村の外に行くわけではないからと背負う手間を省いた鞘は宿屋の壁の側に置いておく。


右手に金装飾の直剣を持ち、静寂で満ちる路地の真ん中で深く息を吸って構える。


ネクもまだ眠っている時刻。


こんな早朝に人気の無い路地でオレがなにを始めるのかといえば、生前から習慣として行っていた剣の素振り以外になかった。


「ふっふっ、ふっ!」


視界の先で想像したモンスターの急所へ届けるつもりで、一振りまた一振りと剣を振るう。


どれだけレベルが上がろうと、太刀筋が鈍らないように十年以上続けてきた空気を切る音を繰り返す。


オレは特別な才能のある剣士ではないけれど、ずっと続けてきたこの経験と剣だけは胸を張って信じられる。


だからこの時間はオレにとって鍛錬であり再確認の時間だ。


子供の頃は考え事や悩みがある時ほど、がむしゃらに剣を振り続けていた。あまりにやってるもんだから隣に住む女の子が心配して声を掛けに来たこともあったほどだ。


そして今、オレは魔王への楽ではない道のりを歩む為、集中してあの頃と同じように素振りを続ける。不思議と息は全く上がらなかった。



素振りを始めてしばらく経った頃。


路地を挟んだ宿屋の隣の家からのぼる朝食の湯気を視界の隅に見つけると、少し離れた所からはしゃいでいるような子供の大きな声が聞こえてきた。


「平和だな」


長い間そんな声とは無縁の場所にいたからか、それだけのことでなんだかホッとする。


素振りをしながら目を閉じて束の間の感傷に浸るオレの耳へ、今度は街路に続く路地の先から子供の声がした。


「あっ居た!」


「カイ、知らない人に指差しちゃだめだよぉ」


「ん、あれはあの時の……?」


素振りを止め、声のする方を向く。


そこで、こちらを指差す活発そうな少年と後ろに立っている大人しそうな少女は、オレとネクがこの村に着いた時に好奇の目を向けて手を振ってくれていた子供たちだった。


なぜか探されていたらしいオレを、駆け寄ってくる少年が目を輝かせて見上げてくる。


見たところ歳は十を超えたくらい。だとしたら、少年の方はおそらく冒険者志望の子供なんだろう。


「おにいさん、剣持ってるってことは冒険者なの!?」


やっぱりか。


なので少し言いづらいけど、オレは彼の期待に応えられない現在の自分のジョブを口にする。


「あー、オレは傭兵だよ。この村には妹の護衛で来てるんだ」


「なーんだ冒険者じゃないのか。じゃあ全然強くないじゃん」


「は、はぁ……」


素直すぎる感想にオレは思わず苦笑いになる。


子供の評価はやっぱり厳しいな。


オレを見る少年の瞳から先程までの輝きが消え、失望の眼差しへと変わっていく。


「ちょっとカイ、失礼だよ! いくら傭兵さんが冒険者さんより弱い人たちがやるお仕事だからって」


そう言う少女のフォローもかなり失礼なものになっていた。


まあ言いたいことはわかる。オレも子供の頃は勇者の話を聞いて冒険者に憧れていた。


主に人間を相手にする傭兵や王国騎士団より、モンスターを相手にする冒険者の方が剣の腕を試せると思っていたしな。


特に傭兵に関しては、上級冒険者になれなかった下級冒険者の逃げ道というようなイメージが一般的だ。


それは傭兵になって盗賊の手助けをしたり、一団をまとめたりする奴らが居るせいでついたイメージなんだけど……


まあ被害にあった人々からすれば知ったこっちゃないだろう。


「なんか期待に応えられなかったみたいでごめんな」


目の前で露骨にがっかりするカイと呼ばれていた少年に謝るが、それを無視してカイはオレに背を向ける。


「行こう、ユイ。こんな人に頼んだって意味なさそうだし」


「え〜でもこのおにいさん良い人そうだよ?」


「どうせ、ただ弱腰なだけだよ。本当に弱いから」


「うっ!」


散々な言われようだと思いつつも、オレはそそくさと立ち去ろうとする二人の背中が気になって声をかける。


「はは、オレが良い人かは自信ないけど困ってるなら話くらい聞こうか?」


「いらないよ、弱い人の優しさなんて」


「おっと」


しかし、その背に伸ばしたオレの手は振り返ったカイによって弾かれてしまう。


「なにが良い人だよ。ユイはこの村でなにを見てきたんだよ!」


「で、でもだって……ママが慈愛の心を忘れなければ女神さまが助けてくれるって言ってたもんっ」


「まだそんなこと言ってんのかよ! この世に神さまなんて──」


「そこまでだ」


「なっ!?」


怒鳴り声に俯いて泣き出しそうなユイの顔を見て、オレは余計なお世話と思いつつも、カイの眼前に手を出して続く言葉を遮る。


「罪もない女の子を泣かすような奴が、キミの目指す強い人なのか?」


「なんだよ傭兵なんかが偉そうに、おれは妹に現実を教えようとしただけだよ!」


「たしかにこの世界には恐ろしい物が沢山ある。無知ゆえに騙されてしまうこともある」


実際、オレも行き倒れの盗賊が仲間を呼んで助けてくれた村の人々を襲おうとしたなんて光景も見たことがないわけじゃない。


「そうだよ。だから教えてあげてるんだよ」


「でもさ。危険を予め知らせることと、頭ごなしに否定して残された希望をむしり取ることは同じじゃないよ」


「はあ?」


「その人の最後の拠り所まで奪い取って、相手を思い通りに動かしたいならキミは悪い奴らと同じになっちまう」


「なんだよ! おれはみんなのために言ってるのにっ!」


「そうだ、キミはそんな奴らとは違う。弱者を虐げていいように扱おうとするような悪人なんかじゃないだろ」


「当たり前じゃん!」


「強くなって守りたいんだもんな。だったら守った先にある、みんなの笑顔も守りたいって思わないか?」


「それは思うけど……」


そこでカイは俯く。


彼にもそれがどれほど難しいのかわかっているからだ。


でも、オレは諦めない。諦めてほしくない。


「だったら一緒に目指してみようぜ!」


「えっ」


「オレもその目標の途中なんだ。だからこれから一緒に目指しみようぜ!」


「う、うん。じゃあおれもがんばろうってみよう、かな。ま、まあ傭兵なんかには絶対できないと思うけどね!」


理想の正義を語るオレの言葉にカイはなんとか頷いてくれた。しっかりと嫌味を忘れずに。


「イタタ〜まったく子供は痛いとこ付くなぁ」


その言葉に、オレは頭に手を当てて苦し紛れの笑顔を浮かべてなんとか乗り切る。


魔王軍に敗れた剣士が今さらなに言ってんだって話だけど、それでもオレは子供たちに明日を諦めてほしくはない。


それが“オレたち”の守りたい世界だから。

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