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三章『頂を目指す日々』③

3




オレたちが宿泊している村の北。


緩い斜面になっている岩場の多くなってきた街道をのぼりながら依頼されたお宝があるという洞窟を目指す。


「気をつけましょう。この辺りではいつも戦っている南西の森とは違うタイプのモンスターが出てくるはずなので」


村では人目があるため、護衛役のオレが持っていた自分のバックパックを背負ったネクが言う。


「そうだね。でも、この辺はどんなモンスターがいるんだっけか」


生前もモンスターの生息地まで記憶しているわけでは無かったオレはパッと出てこない。


前パーティーの物知りな魔導師であったゴードンならすぐに分かったんだろうな。


「そうですね。この辺りの敵は、たしか……」


「ワォーン!」


記憶を掘り起こそうとするネクの呟きの途中。その答えを知らせるかのように道の先から遠吠えが聞こえた。


「グレイウルフ!」


音のする方に目を向けるとそこには山や岩場などに多く生息する、主に群れで行動する獰猛な狼のモンスター。


グレイウルフが斜面の上からこちらを見下ろしていた。


「討伐推薦レベルは4」


オレのレベルの一つ下だ。


「今のレオくんなら余裕ですね!」


「まあなんとかする!」


敵は二匹。


数の不利はあるけど硬い皮膚も頑丈な肉体もなく油断せず戦えば負けるような相手じゃない。


この前のファイテングゴリラに比べればずいぶんと楽な相手だった。


オレは駆け下り牙を突き立て飛びかかる一匹を避け、背負った剣を抜く。


もう一匹、目の前で低い姿勢で唸るグレイウルフに蹴りを入れて、怯んだその身に上段からの一撃を振り下ろす。


そして背後に回っていたグレイウルフへ振り返りざまに素早く突きを喰らわせて、トドメを刺した。


黒いモヤが出る二匹を見て、ネクが嬉しそうに声をかけてくる。


「お見事です!」


「この衰えた体にもかなり慣れてきたかもね」


「ならずっと強くならなくても良いかもしれませんね!」


「いやそれはない」


「なにも即答しなくても……」


なぜかガックリしているネクに、オレは血振るいをした剣を鞘に納めながら尋ねる。


「だって今この大陸にいる冒険者の中で一番魔王に勝てそうなのはオレなんだろ?」


「そうですね。もし生前のレオくんに追いつければ、の話ですが」


「一度できた事だ。二度できない理由はないさ」


笑いかけるオレを見て、ネクもつられて笑い出す。


「ふふっ、そんな楽観的に頂を目指す人はこの世界にレオくんだけかもしれませんね」


「オレを蘇らそうなんて物好きもこの世にネクだけだよ」


「お褒めにあずかり光栄です」


「褒めてないし、まだ出会ってからの困惑は消えてないから」


「えっ婚約は消えてない?」


「言ってねえ! 言ってる側から困惑の種を増やさないでくれるかな!」


「わたしはいつでも言い間違いの撤回を受け付けていますよ」


「ネクの聞き間違いだろ! そんな言い間違いするか!」


「まあ、残念です」


てゆうか、その笑顔はわざとだろ。


「ほら、もう行こう! 帰りが遅くなっちゃうよ」


「ふふっ」


からかうネクの前を歩いて、オレは目的の洞窟へと急ぐ。


それと生前は気づかなかったが……


もしかするとオレは女の子というものが苦手なのかもしれなかった。


え、待ってそれってこの旅の根本的な問題じゃないか?


オレが突如浮上したかもしれないこのパーティーの問題点を考えながら歩くことしばらく。


山道の途中にある脇道の先に目的地と思わしき洞窟の入り口に到着した。


「……ここですか?」


ネクがいつもよりトーンの落ちた声で隣のオレに青い瞳のジト目を向けて尋ねる。


「いや、その、オレもなんて洞窟まで知らなくてですね」


洞窟の前には、親切な人間が建てていった看板に『淫魔の洞窟』と記されている。


「これだから男の人って……」


「ご、誤解だって!」


「わたしはまだ相手にもされてないのに……うぅぅ」


「と、とにかく! この依頼を達成すれば報酬が貰えるらしいし頑張ろう!」


こっちが悪いんじゃないかと錯覚しそうになる可哀想な声で俯くネクに、オレは必死に話題を逸らそうと努力する。


くそっ慰めようにもなんて声をかけたらいいのか全然わからないし気まず過ぎる!


こんな事なら生前ルナに「そんなんじゃモテないわよ」とか言われる度に呆れ顔で返すんじゃなくて、もうちょっと真面目に聞いとくんだったよ……


しかし、心配するオレの前でネクが顔を上げると何かを決意したような表情で、早歩きで進み出す。


「レオくん。わたしから絶対離れないでください」


「離れたくてもオレたちは離れられないでしょ」


松明に火をつけ、俄然やる気になったネクが先導して前を歩き、洞窟の中を臆することなくどんどん進んでいく。


「気をつけてくれよ? ダンジョンはなにがあるか分からないから」


「はい、承知しています」


中に入った洞窟は入り口付近こそ狭い通路だったが奥に進むにつれて天井が離れていき、すぐそこだった天井はおよそ四メートルほどの高さになっていた。


そんな上に目を向けていたオレが視線を前に戻すと先行するネクの足元。


暗がりに潜んでいた目玉のモンスターが、邪眼で状態異常を及ぼす視線を浴びせてくる!?


「ネク、イービルアイだっ!」


「えっ? ああ本当ですね」


「ギニャっ!」


ネクはオレの警告に振り向くと、足元の紫色のイービルアイ──ポイズンアイをなにごともなさそうに足で踏み潰した。


「どうしたんですか? 時間をかけなければ状態異常にできないトラップモンスターなんかにそんなに驚いて」


「あ、ああ、ごめん。ソイツとは少しだけ苦い思い出があってさ」


魔王城の前庭での戦い(トラウマ)のせいで大袈裟に驚くオレをネクが不思議そうに見ている。


そうだった。単体で出てくる分には非戦闘員でも簡単に倒せるヤツなんだ、コイツは。


「そういうことならわたしの背中に隠れててもいいですよ」


「大丈夫。護衛として足手まといにはならないよ」


これ以上格好の悪い所は見せられないと前後の並びを交代して、オレは背後の警戒をネクに任せて後ろの松明から通路を照らす灯りを頼りに慎重に進む。


暗がりをしばらく行くと踏み出したつま先に、コツンと何かが当たった。


「ん?」


松明に照らせれた薄暗い岩壁の通路の足元に視線を落とす。


するとそこには、


「頭蓋骨!?」


人間の頭蓋骨がコロコロと転がっていくのが見えた。


「どうやら犯人はすぐそこにいるようですよ」


「ふぁっ!」


後ろから耳元で囁くネクの言葉に驚きつつ、視線を上げて前方に向ける。


するとそこには女の上半身を持つ、腕は翼。足は鋭い鉤爪の生えた鳥脚のモンスター。


ハーピィが洞窟の天井近くで滞空してこちらの様子を伺っていた。


「その方、付近に落ちている物を見るに冒険者ではありませんね」


頭蓋骨の持ち主である防具を着けていない体の側には、中身のない酒瓶が転がっている。


おそらく近くを通ったどこかの村人が淫魔に誘われてこの洞窟に踏み入り命を落として、その肉をハーピィがついばんでいたんだろう。


「ネク、後ろを見ていてくれ!」


「はい!」


背後の警戒を任せ、オレは翼人のモンスターに挑む。


ハーピィの討伐推薦レベルは5。


「少しでも経験値にさせてもらうぜ!」


「キィィィィ!」


ハーピィが自分に向かってくるオレを睨みつけて甲高い鳴き声を上げた。


不快な怪音波が響き続け、耳の奥に痛みが走る!


「早いとこ止めないと!」


洞窟内の狭い通路。


反響する音波の威力の範囲は戦っていない耳に手を当てるネクにも届く。


「ほっ、はっ!」


地を蹴り、壁を蹴って宙から見下ろすハーピィに向かって飛び上がり剣を振る。


切先が届く前に翼を扇いだハーピィが間一髪でオレの攻撃をかわし、空中で剣を空振ったオレの目の前、至近距離でその口を開く。


──まずい!!


「キィィィィィィィィ!!」


「がっ!」


怪音波をもろに喰らい、大音量に脳が揺れるような感覚に襲われる。耳に激しい痛みが走って生温かい物が流れ出る感覚がした。


落下し受け身を取って着地したオレの元にネクが駆け寄る。


「やっぱりハーピィに剣では分が悪いですか」


なんとか聞こえた声のネクの言う通り。何の準備もなく飛行型のモンスターと戦うには今のオレは弱すぎた。


けど、遠距離系の攻撃を持つものはこのパーティーには居ない。ネクを守るにはオレが切り拓かなくてはならない戦況だ。


「問題ない、大丈夫さ」


心配するネクに見守られながら立ち上がり、もう一度ハーピィを見上げる。


大丈夫。〈超全力解放フルバースト〉の派生技〈スカイハイ〉が使えない今でもまだ奴に刃を届ける方法は残ってる!


全力で地を蹴って前進。そのまま音波の範囲外であるハーピィの真下に入り込む。


そこから真上に跳び上がり、オレは空中で回転して剣を振りあげる。


それを見たハーピィが刃をさっきと同じようにふわりと翼を羽ばたかせてスレスレの距離でかわそうとする。


「させるか!」


剣が届かないなら、オレがもっと跳べばいい!


その身を追うように回転する速度を増し、オレは空中へ昇りながら円を描く回転斬りを実行した。


「ハァァァァ!」


「ギャアアアアアアアア!」


軌道を変化した斬撃を受け、ハーピィが断末魔の叫びを上げる。


胸を切り裂かれたハーピィが地に落ち。着地し、その身に剣を突き立ててトドメを刺す。


「ギャッ……」


「行こう。まだまだ先は長そうだ」


「これ以上は無理だと思ったら、言ってくださいね? 回復します」


「了解。それを聞いて少し気が楽になったよ」


「いえいえ、これからずっとパーティーなので」


ネクの頼りになる言葉にオレは安心した。


たしかに、いつでも回復できるというのはいつ倒れてもいいという覚悟で挑めるのでありがたかった。

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