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98p

「俺がこの国に仕える理由は、俺の存在が少しでも役に立つことを願ってのことだった。」


ユリドレの声には、深い悲しみと諦めが滲んでいた。


「でも、私はあなたを助けたい。何とかして、あなたを救いたい。」


私は必死に訴えた。彼のために何かできることがあるなら、それをしたいという思いでいっぱいだった。


ユリドレは冷笑を浮かべ、「ハッ、気持ち悪いな。お前みたいな女、近くにいるだけで吐き気がするよ。」と言い放った。


その言葉は鋭く、私の胸に突き刺さった。「そんな……」私は言葉を詰まらせた。


「アナタは俺のことを何もしらないし、何もみえてはいない。近寄られるたびに、俺の計画を邪魔されて、それが鬱陶しいと…ずっと思っていた。アナタにダンスを申し込まれた時、俺がどれだけ不快だったか分かりますか?あの瞬間、俺には死へのカウントダウンの音が聞こえました…。アナタは呑気に俺を好いて、追いかけ、追い詰め…そして…。」ユリドレの言葉には、軽蔑の念が込められていた。


その瞬間、私はユリドレにどれだけの苦しみと不快感を与えてきたのかを理解した。


「私…そんなつもりじゃ…。」言い訳のような言葉が口をついて出たが、ユリドレの冷たい目はそれを許さなかった。


ユリドレは一層冷たい声で続けた。

「アナタは…浅はかな女だ。アナタは…浅ましい女だ。」


「違う…いやよ…そうじゃない…。私はただ…。」私は必死に否定しようとしたが、ユリドレの冷ややかな視線が私を黙らせた。


―――愛して欲しかっただけなの。


私は涙が止まらなかった。しかし、ユリドレは冷ややかな視線を私に向けた。


「俺の前から…消えて下さい…。」


彼の言葉に、私は絶望感に打ちひしがれた。ユリドレにとって、私はただの厄介者でしかなかったのか。私の思いは、彼にとって迷惑でしかなかったのか。


私はユリドレの元を離れ、重い足取りで牢を後にした。心の中には痛みと後悔が渦巻いていた。彼を救うために何ができるかを必死に考えたが、今はただ、彼の言葉が胸に突き刺さったままだった。


牢の外に出ると、冷たい夜風が私の涙を乾かしていった。私は震えながら城へと戻り、その道中で何度もユリドレの冷たい言葉が頭の中を駆け巡った。私の愛は彼にとって迷惑でしかなかったのか。このままではユリドレを失ってしまうという恐怖と絶望が、私の心を締め付けた。


部屋に戻ると、私はベッドに身を投げ出し、涙が止まらないまま泣き続けた。ユリドレの冷たい言葉と、彼に対する愛が胸の中で交錯し、私の心はますます乱れていった。それでも、彼を救いたいという思いだけが私の中に残った。どうすれば彼を救えるのか、どうすれば彼の信頼を取り戻せるのか、その答えを探し続けながら、私は眠れぬ夜を過ごした。



その後、ユリドレ・レッドナイト公爵の処刑が断頭台で執り行われる日がやってきた。冷たい朝の光が城下町を照らし、住民たちは暗い予感と共に集まっていた。私の心は重く沈み、絶望感が胸を締め付けた。


私の愛するユリドレが処刑されるという現実を受け入れることができなかった。彼を救うためには何をすればいいのか、答えは見つからなかったが、行動しなければならないという強い衝動に駆られていた。


処刑台に向かう途中、私は震える足取りで進んだ。心の中では無数の考えが渦巻いていた。「どうしてこんなことになってしまったのか?」「彼を救う方法はないのか?」答えのない問いが私を苦しめ続けた。


処刑台に到着すると、ユリドレが鎖に繋がれ、冷静な表情で立っているのが見えた。彼の目はどこか遠くを見つめており、その眼差しには諦めと悲しみが混じっていた。私は彼の姿を見るたびに、心が引き裂かれるような痛みを感じた。


「ユリドレ様……」私は涙をこらえながら彼の名前を呟いた。心の中で何度も叫んだ。「どうか生きていてください。私を見てください。」


処刑台の周囲には兵士たちが厳重に警備していた。私はその中を必死にかき分け、ユリドレに近づこうとした。しかし、兵士たちは私を制止し、冷たい視線を向けた。


「立ち入りは禁止だ。」


私は絶望的な気持ちで振り返り、群衆の中に目を向けた。彼らの視線は冷ややかで、私の痛みを理解する者はいなかった。私は決意を胸に秘め、再びユリドレに向かって突進した。


「やめてください!彼は無実です!」私は叫びながら兵士たちを押しのけた。兵士たちは私の叫びに一瞬だけ動揺したが、すぐに私を取り押さえようとした。


その瞬間、私はすべての力を振り絞り、ユリドレの元にたどり着いた。彼の手に触れた瞬間、彼の冷たい肌に涙が落ちた。


「ユリドレ様、私はあなたを救いたい。どうか生きていてください。」


ユリドレは冷静な表情のまま、私を見つめた。


「メイシール、もう遅い。これが運命だ。」


「そんなこと、信じたくない!」私は泣き叫んだ。


その瞬間、兵士たちが私を強引に引き離し、ユリドレを再び鎖に繋ぎ直した。私は必死に抵抗したが、兵士たちの力には敵わなかった。私は倒れ込むように地面に押し付けられ、目の前でユリドレが処刑台に引き上げられるのを見た。


「ユリドレ様……」私は震える声で呟いた。その時、私の心には一つの決意が生まれた。


「彼を救うために、私は何をしても構わない。」


処刑の瞬間が近づき、刃が光を受けて鈍く輝いた。私の体は無意識に動き出し、兵士たちの制止を振り切って断頭台に駆け上がった。刃が振り下ろされる瞬間、私はユリドレの体を覆うように飛び込んだ。


「メイシール!」ユリドレの叫びが聞こえた。しかし、もう遅かった。刃は私の体に深く食い込み、痛みが全身を貫いた。


「ユリドレ様……」最後の力を振り絞り、私は彼に囁いた。


「愛しています……」


その瞬間、私の視界は真っ暗になり、意識が遠のいていった。私はユリドレを救うために命を捧げた。しかし、その代償として私の命は終わりを迎えた。


断頭台の上で、ユリドレは私の体を抱きしめながら涙を流していた。彼の涙が私の頬に落ち、その温かさを感じながら、私は静かに息を引き取った。


その場にいた人々の目に、ユリドレの冷たい眼差しと、私の命を懸けた行動が焼き付けられた。その瞬間は、私たちの愛と犠牲の象徴として、永遠に彼らの記憶に刻まれることとなった。



そして目が覚めると、見慣れた実家の天井が目に入った。柔らかな朝の光が部屋に差し込み、私は自分がどこにいるのかを確認するために目を擦った。周囲を見回すと、子供の頃から過ごしてきたブルービショップ家の部屋であることに気づいた。


「ここは……」


私は呟いたが、頭の中は混乱していた。昨夜の出来事が現実だったのか、それともただの悪夢だったのか、理解できなかった。


心臓が早鐘のように打ち始め、私はベッドから飛び起きた。部屋の中をぐるぐると走り回り、壁に掛けられた絵や家具を確認しながら、ここが本当に実家なのか確かめた。全てが昔のままだった。


「どうして……」


私は自問しながら、ドアを開けて廊下に飛び出した。足音を響かせながら、屋敷の中を駆け回り、使用人や家族の顔を見つけるたびに尋ねた。


「ここはどこ?私は何歳なの?」


使用人たちは驚いた顔をして立ち止まり、私の質問に戸惑いながらも答えてくれた。


「ここはブルービショップ家のお屋敷です、メイシールお嬢様。あなたは16歳です。」


その言葉を聞いた瞬間、私は一層混乱した。16歳?私は確かにユリドレと出会った日の朝に戻っている。信じられない思いで再び走り出し、父の書斎に向かった。


書斎のドアをノックし、緊張しながら待つと、父の深い声が返ってきた。


「入れ。」


ドアを開けて書斎に入ると、父が机の後ろに座っていた。彼の顔には普段の厳格さが漂っていたが、その目には少しばかりの驚きが見て取れた。


「メイシール、どうしたんだ?」父は私の突然の訪問に驚きを隠せない様子だった。


「お父様、私は……私は何が起こったのか分からないんです。ここがどこで、私が何歳なのかも……」


私は涙を浮かべながら、父に問いかけた。


父は静かに立ち上がり、私の肩に手を置いて優しく導いた。


「落ち着け、メイシール。全てを説明しよう。」


彼は私をソファに座らせ、深く息をついた。


「メイシール、お前が今経験していることには理由がある。お前にはブルービショップ家に伝わる特別な力が宿っている。その力は回帰の力だ。」


「回帰……の力?」私は驚きと不安で震えながら尋ねた。


父は頷き、話を続けた。

「そうだ。お前は一度経験した時間を巻き戻し、過去に戻ることができる。しかし、それには大きな代償と責任が伴う。」


「代償と責任……」私はその言葉の重さを感じながら、父の言葉に耳を傾けた。


「お前が戻ったこの時点は、お前の人生において重要な岐路となる瞬間だ。お前の行動と決断が未来を大きく左右する。」


私は深く息を吸い込み、その事実を受け入れようと努めた。全てが再び始まったのだ。ユリドレと出会い、彼に対する愛と共に過去を変えるための新たな機会が与えられた。


「分かりました、お父さま。」私は決意を胸に、父に向き直った。「この回帰の力を使って、私の過ちを正し、幸せな未来を築きます。」


父は穏やかに微笑み、私の肩を優しく叩いた。

「その決意を忘れるな、メイシール。お前にはその力がある。そして、お前の行動次第で未来は変わる。」


その言葉に励まされ、私は新たな決意を胸に刻んだ。過去の過ちを繰り返さず、ユリドレとの未来を守るために、全てをかけて戦うことを心に誓った。

読んで下さってありがとうございます!

お手数かけますが、イイネやブクマをいただけたら幸いです。モチベに繋がります( *´艸`)

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